第8話 赤児の頃からでも娘の将来は不安なもの
ただの顔合わせだけだったはずなのに疲労感が半端ないな...
主に精神的に疲れ切った俺は早く帰ろうと城の中へと転移した。
姿を現した俺たちへと、いつ帰るか伝えていないにも関わらず待ち構えていたチェスターが声をかけてきた。
「お帰りなさいませ。
そちらが乳母となる方ですね。無事に承諾していただけたようで安心致しました。
これでゼノ様の憂いも晴れることでしょう。
私はチェスター、主にゼノ様の補佐と城内の管理をしております。ここの者たちの統括もしておりますので、何かあれば私にお伝えください。
ようこそいらっしゃいました。あなた方を歓迎いたします」
スっと華麗な一礼をしたチェスターが身体を起こし、パチンと指を鳴らす。
その途端に、俺が抱いていたカインの姿が消え、同時にファルルたちが持っていた荷物も消えた。
「ゼノ様と女性に重たい物は持たせておけませんので、お荷物は部屋へと送っておきました。
では、ファルルさん」
「はい!」
「先に貴女にゼノ様のお子であるああああ様にお会いしていただきたいと思います。その後城内を簡単に案内する予定ですがよろしいでしょうか?」
「はい、子供たちも一緒にお願いします」
「腕に抱いている子は城内の移動があるので、ああああ様との体面後に同じ場所でよければ預けていただくといいでしょう。
ゼノ様、私は今から彼女たちの案内をしますので、後は私に任せて夕食時までおくつろぎください」
チェスターはほんとうに仕事が早い。
さりげなくカインを荷物扱いしていたがな。
「ああ、後は任せた」
「新しい我らの仲間を紹介するため、配下たちには夕刻までに食堂内に集まるよう伝えています。
ゼノ様は夕刻になりましたら食堂へとお越しください。
ファルルさんやお子さん方もお食事をご用意しておりますので、紹介後は晩餐を楽しんでいただければと思います」
「やったー!! ご飯!」
「マーシュ静かに」
「ほんとうに、ゼノ様といいここの方々に優しくしていただき、ありがたいことです」
ご飯の魅力には勝てなかったのだろう。大人しくしていたマーシュが喜びの声をあげた。
そんなマーシュへと注意するアーキスも楽しみなのか表情が緩んでいる。
「ではファルル、夕食時にまた会おう」
「はい、ゼノ様もここまでありがとうございます。
ではまた」
ファルルたちと分かれた俺は部屋へと戻った。
塔にある俺の部屋は何もなかった最初と違い、今は生活感にあふれている。
ベッドはシングルサイズで作りがしっかりした物だ。
もちろん宝石や金箔といった華美な装飾はない。
それでも木製でできたベッドのフレーム部分にはおしゃれな彫刻がされている豪華な物である。
元々そんなに多くを必要とする性格ではないため必要最低限の物があれば十分なのだが、それだけでは少し味気ないので植物を飾っている。
どうせ同じ手間をかけて育てるのであれば、見栄えよりも食べれるものがいいと思い、実がなるものを選んだ。
貧乏性なので仕方ない。
ちなみに前世では豆苗と椎茸を育てて、収穫後は炒めて食べていた。
花より団子だが、そっちの方が育てる楽しみがある。
あとは部下の一人がハマっているとかでゴリ押ししてきた水耕栽培キットだ。
何が育つのかは知らない。
「なかなかいい感じに育ってきたな。
子育てもこのようにうまくできればいいのだが」
本棚をほとんど占めている子育て本を眺める。
ちなみに仕事に関する本は執務室があるので、こちらには趣味やプライベートに関するものだけを置いている。
「夕刻までの間、この本を読んでおくか」
部下の中で娘を持つものが、少しでも同じく娘を持つ者として参考になればと渡してきたものだ。
なんでもその者の娘も含め、同じような年代の女の子たちに人気のものらしい。
一応魔界でのベストセラーにもなった本とのことだ。
楽しみである。
長編らしいが完結はしているとのことで34巻ある内の最初の巻を手に持って開く。
そして閉じた。
これ、少女漫画じゃないか!!!
なんの参考にしれと?!
「まあ、せっかく渡されたものだし一応読んでおいた方がいいのか?
あいつは一体どういうつもりでこれを渡してきたんだ?」
もう一度開いて読み進める。
が、ツッコミどころが多い。
まず相手の男が全部悪すぎる。
魔界だからだろうか?
魅力=悪行、という感じになっている。
学園が舞台なんだが、まずメインヒーローが入学と同時に学園のものをまとめて締め上げ、学園内を掌握している。
逆らうものは誰であろうと容赦しない。
睨まれたものは縮み上がり、恐怖している描写があった。
顔も、俺が知っている少女漫画とかではキラキラとしたエフェクトがかかっていたように思うのだが、魔界仕様なのかゴゴゴゴ...と、恐ろしいオーラを醸し出している。エフェクトは血のスプラッタだ。
こんなメインヒーローいるだろうか?
当て馬の男は他校の生徒で、一見穏やかに見えるものの裏で牛耳る陰の支配者だ。
行っている悪行は精神的なものが多く、ある意味ではメインヒーローよりえげつない。
彼に微笑まれた者は凍りついてしまっている。
含みのある笑顔だから、笑いかけられても恐怖しかない。
主人公の女の子はこの二人の間で揺れ動くのだ。
どこに惹かれる要素があったんだ!! 揺れ動くも何もそんな男断れ!
そして惹かれ合うシーンに花を描くのはいいが、ラフレシアはやめろ!!!
シンプルに臭そうで嫌だ!
キスシーンにこれが背後に描かれてみろ、なんか登場人物の口臭とかが気になって仕方がない。
これが人気とか大丈夫か?
魔界の女子の好みはどうなってるんだ?
はっ...!
もしや、部下はこのような男が魔界では人気があるから、将来娘が悪い男に引っかからないように気をつけろと言いたかったのか...!!
な、なるほど!!
確かに参考になるな!
待っていろ!
娘の未来は俺が守る!!!
俺は夕刻になるまで本を読むのに没頭したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます