第2話 家庭環境は子どもの教育に重要らしい

 ぱたん。


 俺は10冊目の読み終え、本を閉じた。


 急いで取り寄せた育児本によると、人格形成の後天的な要因に環境が及ぼす影響は非常に大きいとのことだ。


「まずい! まずいぞ!」


 どう考えても俺の今いる魔界は子どもの教育によろしくはない。一歩でも家から出れば、街は喧嘩、暴言、爆発音がありふれている。

 そんな状態だからか、魔界の家はこじんまりした小さな家だろうと、外壁には魔法攻撃と物理攻撃無効化の障壁が薄くコーティングのように施されており、室内は全室防音完備という優良物件なのだ。

 このレベルの物件を他の国で探すとしたら魔界の家賃の10倍以上は軽くいくだろう。


 いくら自宅内が素晴らしかろうと一歩外を出れば人族の赤ん坊なんてデッドオアデッド。死しか待ち受けていない。

 抱っこしていようとも外に出れば戦闘は免れない。


 せめて自力で立って歩いて意思疎通ができるくらいの子供なら、国防ばりの保護防御魔法をかけて、ちょっとここで待っててね~なんて言っているうちにささっと片付けてしまえるのだが。



「自然があって、遊べる場所...庭付きとかがいいか? それから周りはあまり騒がしくない郊外とかで、部下も合わせて住ませる場所が必要となるとけっこうな大きさになるな...」



 現在住んでいる家も4階建で大きな建物だが、それは自宅でもありながら職場も兼用しており、部下たちにも建物の一部を社宅として住まわせているからだ。


 俺はこの魔界で代行サービス業もとい何でも屋として起業をした。

 最初はそれこそちょっとした人助けやお手伝い程度のものであったが、最近では徐々に口コミが広がりつつあるのか、ひっきりなしに依頼が入るようになった。

 たまに同業者なのか殴り込みに来るはた迷惑な相手も来るが。魔界での雑誌の人気番付コーナーでどうやら俺の名前が書かれていたようで、魔界で今後急成長するであろう注目株の一つだというのだ。だから今のうちに潰しておこうと乗り込んで来たと話していた。

 社名が有名になるのはいいが、こうしたトラブルはごめん被りたいものである。


 そうやって雑誌に掲載されていたりと密かに有名になったおかげで、仕事内容は魔界内でも幅広い地域へと渡るようになり、部下を出張させるまでになった。もちろん俺自身も遠くへ行くこともあるが、たいてい部下たちが率先して仕事を請け負ってくれるのだ。俺は幸にして部下に恵まれているようで、みな忙しくなったことに不満の声もなく、むしろ嬉しそうに仕事をしているのだ。ワーカーホリックにならないよう気を配りつつ、外で暴れる方が種族的にあっているのだろうと思う。

 部下たちが外に出て仕事をしている分、俺はお留守番をしながら事務仕事をこなして行く。

 部下たちの中にはこうした机に向かうのを苦手とする者も多いから、そういった部下には外での仕事を俺も回すように心がけている。上に立つ者として適材適所は常に意識するようにしているのだ。


 トラブルの絶えない魔界ではあるからこそこの仕事に需要があったのだが、子供が暮らすとなると環境は劣悪としか言いようがない。



 ちょうど本日の依頼を終えて戻ってきた部下が、俺の取り乱した姿を見て声をかけてくる。


 不甲斐ない上司ですまないが、これは一大事なんだ。



「ゼノ様、何か問題でも起きましたか?」


「ああ、そうなのだ。由々しき事態となった。子育て一つできないとあっては我が社の掲げる『全て万事収めます!』の謳い文句に反する。このままでは我が社の信用度は下がってしまうだろう」



 部下含めて不満はなかったし、俺もそこそこ気に入っていた場所ではあったが、子どもの教育に悪影響とあれば致し方ない。

 仕事も軌道に乗ってきたのだしちょうどいい機会だと思うことにしよう。


「よし、引っ越すぞ!」

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