第5話 戻れない夕焼け
「今日も変わらない・・・レベル11は飽きたけどどこか行けるわけでもないしね」
女性は一人ぼんやりとレベル11と呼ばれる都市部のような空間を部屋から見下ろしていた。この女性はここにたどり着きとある組織に安全だという事で連れてこられ早3年ほどの時間が経過していた。
「おーい アラタいいかい?」
「この声はムラモトね・・・今出るわ」
「これ今日のご飯ね」
「ありがとう」
「じゃあね 他の人もあるからさ」
「毎回ありがとう お礼にマッサージでもどう?」
「是非お願いしたい あとで来てもいい?」
「ええ 待ってるわ」
アラタは1人運ばれてきた食事を食べる事にする。
この生活も慣れたが現実が恋しくないと言えばウソになる。
この状況を受け入れられなくなった人間には銃が貸与される。使い道については説明はいらないと思うが死ぬためだ。
一度アラタは借りたがどうしても死ぬ事の恐怖に勝つことができなかったのだ、先ほど来たムラモトがそれ以来食事を運んでくれるようになったもののタダで助けてもらっているわけではない。
週に2度組織の資材整理を手伝う事を条件という破格ではあるがこの条件で衣食住を保証してもらっている。
無論このレベル11が滅びなければであるが話によれば数えきれないほど前からある空間らしく最早永遠の安住の地であることは揺らがない空間であった。
今日もホテル内部には数多くの人間が暮らしておりそれぞれの役割を持っていた。
「レベル3999に行けば戻れるけど時間軸がどうなっているかも分からないしここで暮らすしかないのかなぁ」
レベル3999とはバックルームから現実に戻れることが分かっている空間でありそこへ向かう人間も数多くいるが道中に何があるか分からず何か対価やそれ相応の武装が求められる。
行き方についても確率はされているがあのような化物たちと何度も対峙することなど不可能だと悟り現実へ行くことも死ぬこともできずレベル11で留まる放浪者は数多い。アラタもその内の1人だった。
更に言ってしまえばこの「バックルーム」と呼ばれる空間と現実の間では流れる時間が違う可能性が高く戻った所で浦島太郎のように誰も知らない時代に帰った所で何もない可能性もありその可能性を考えるとより一層帰るメリットが薄いのだ。
「今日も運動でもしようかしら」
アラタは有事の際や手伝いの際に足手まといにならない様にスクワットや腕立て伏せ、ジョギングなどを日課としており数年続けており体も引き締まっており探索には十分な体をしているが圧倒的な勇気がなく探索などはもっての外であった。
色々考えごとをしながら今日も2時間ほど体を動かしシャワーを浴びる。
「本当に何もない この街にあるのは生命を維持するだけの物だけ」
アラタの言う通りこの街には生活に必要な物はあるが娯楽に関してはほとんどなくパソコンの類も研究のためなどに使われ一般人に分類される人間は使えない。
使えたとしても古くインターネットのような物は一切ないため何の娯楽にもならない
車などもあるが元の部屋に戻れなくなる不安もあるため乗る人間は限られている。
繰り返すようだがこの街、このレベルで過ごす一般人はただ惰性で消費させていくのみで、ここで何か学ぶことも作ることもできない。
専門的な分野を学んでいた人間は人に教える行為ではなくただひたすらに設計、生産を繰り返していた。
このレベルは一見平和に見え、何の災害も見えない様に思えるが人間から希望を無くし行動をさせなくさせる非情なレベルでもあった。
「食べ物も種類は豊富で飽きないけど現実で食べてた頃の食事が恋しい」
日本食のようなものもあるが、味は同じはずだがどこか虚しく現実を思い出し悲しくなってしまいそれ以降日本食は食べなくなっていた。
数日後
「これあっちに」
「分かったわ」
駆け足で戸棚から戸棚へと移動させ膨大な食料や弾薬を運ぶ作業をしている。
この組織はここを拠点としており武器の生産などを行っているため資材整理などは人手が全く足らず無限に出てくる資材を運び常に資材に余裕を持たせるため人を使っていた。アラタも使われる内の1人ではあるが、全員が苦に思っておらずこのレベル11に置いての存在意義として化していた。
「うーん今日はこんなところかな?」
「そう またいつも通り呼び出してくれればいつでも行くわ」
「うん 人手はいつでもほしいから助かるよ」
「またね」
「うん ばいばい」
いつもの仕事場に行き自宅へ帰る。
5年が過ぎた今でも何もすることがない以上これが楽しみであった。
こちらに来る前は仕事などしたくないと心の底から思っていたがこのレベル11に来てからはこれが生きがいになっていた。
やることが無いという事が如何に残酷なのか思い知った。
何もしなくていい楽な状態が何年も続くのは楽しい事かもしれないが何も娯楽もない人との会話をして恋沙汰になるわけにもいかないため業務上以外は会話を禁止されているため一切の娯楽がない。
そんな条件で一生過ごすともなると大概の人間は何かしたくなってしまう。アラタには仕事しかなかった。
組織が壊れず一生何かに寄生するしかない人生を覚悟する。
「ん?あれって・・・」
路地を歩いているとアコースティックギターが何故か都合よく何とか使えるレベルで落ちていた。
何故かはわからないが、この異常なバックルームに置いてごく稀にこのような物が落ちている事があった。
電化製品であれば全て渡すのが条件だがこれは生憎全て木でできているため渡す義理はないようだ。
次の食料の配給で大丈夫だと分かれば宝物にしようと考えたアラタ。
部屋に帰り高校時代やっていたギターの曲を弾く事にした。
「ららら~♪」
気持ちよく歌い涙がこぼれそうになるがギターにかかってはいけないと思い涙をぬぐい歌い続ける。
誰に聴かせるでもなくただただ1人で思い出の歌を慣れない手つきで歌い続ける。
「でもこれはここまでね どこかへ捨てておきましょう 壊れたら私まで壊れてしまう きっとこれもレベル11の悪意ね」
一曲弾き終え誰に渡すでもなく結局ライターで燃やしてしまった。
燃えていくギターを見て一粒の涙が零れる。
いつも昼から変わらないこの空間の日差しが今だけは優しくアラタを包んでくれた。
「歌の練習しましょう さっきの弾き語りを超える事はできないけど 楽しいわ」
次の希望が持てたアラタに見えたがそれは何年持つか、それとも最後まで持つのか。
歌を歌い気持ちよく眠るアラタ。
アラタは夢の中で昼から外で歌を歌い綺麗な夕焼けを見る夢を見た。
その寝顔は誰に見られるわけでもないが綺麗な笑顔をしていた。
レベル11が見せた希望の真相は誰も知ることはない。
各放浪者放浪中につき マターリマターリ @wantyan222
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