第32話 脆く崩れやすい
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魔神の力に強化された魔王の配下を追い詰めた。
その上で魔神に寄与する形態変化も相手取ったが、そこから逃したのは悪手だったな。
包鉄は相手の意思のままに更なる変化を経た魔王へ思わず舌打ちを溢す。
包鉄が解放させた理の持つ力は、その一世界に於ける鉄火の集約。
その莫大な熱量をトリガーを引く毎に解放させる。
撃ち抜けずとも焼き溶かす。焼き溶かせずとも焦がし散らす。
得手不得手による相性の差も何もかもを焦土で塗り替える砲撃。
下は城が落下した時以上に見るも無惨な光景。そこまでやっても耐え切られた。
めちゃくちゃ落ち込むぜ。
「世界強度が良くないって事なんだろうなぁ」
包鉄は走り出す二人を見つめながら、思わず独り言を漏らす。
方や焔の聖剣を奮い、方や星々の聖剣を担う。
細かい事情は分からなかったが、それぞれが携える力は何かを決意し手に入れた物だと示している。
めちゃくちゃ誇らしい。でもなぁ。
「生まれ育った貴方の世界は出来損ないです。って言われてる様なもんだしな」
溜め息を吐いて包鉄も駆け出す。
前衛二人の援護も兼ねてトリガーを引き高熱線を魔王に浴びせ掛けるが守る闇の衣がそれを阻む。
この指の軽さも皮肉に感じるね。厄日も極まる。
余裕綽々の魔王を見据える。
現段階での最高火力の持ち主は俺。その銃撃でも抜けないとなると二人には難しい。
何とか穿つ手を見つけなければ……。
「包鉄! あれは抜けませんか!?」
セラーレイの催促に顔を歪ませる。
「もう少し考えさせてくれ!」
何処かに突破口はないもんか。
どこ吹く風と宙を我が物としていた魔王はゆっくりと地に足を着ける。
先んじて正面を切って振りかぶる選択に、包鉄は自身の銃を下す。
邪魔になる、と。
選択は躊躇を見せず叩きつけるが、やはり魔王の外皮に阻まれ聖剣が火花を散らす。
「……もう少し喜んだらどうだ?」
選択は二の太刀、三の太刀と続ける。
「お前は自分の喧嘩に親が乱入して喜ぶたちか? 私が感じている不満はそれに似ているよ」
圧倒出来る程の力を得ても尚、魔王の表情には笑みの一つも表れない。
消化試合だと言いたげなそれは選択の目にも入る。
こっちは真面目にやってるんだから、そっちも頼むぜ。
包鉄はそう思った。
魔王は無表情のままに力強く握られた魔剣を選択の斬撃に合わせる。
「頼るしかないという状況も尚更だな」
魔王の言葉は物理的な力を伴って選択を空に放り上げる。
単純な力。こんな簡単にあしらわれるのか。
包鉄は隙間を縫って銃を構えると、視界の端から飛び込む影に再度トリガーを離す。
「彗星乱撃!」
星の聖力が五つに分化し、それぞれが短剣を思わせる小型の刃状に変化する。
揺らめく軌道に魔王の体を切り付ける。
「エディスの技か。独自性も混じっているようだが……」
飄々とする語り口に微動だにしない。
セラーレイは表情を変えず腰を深く落とし聖剣を水平に構える。
「新星一点破断!」
踏み込みと同時に射抜かれる超高速の一撃が魔王に向かう。
「……闇の淵から呼び寄せた四淵星には守りに特化させる魔法を組み込んだ。引き継いだこの体を貫けると思うなよ」
目にも止まらぬそれに合わせて魔王は剣を用いて弾く。
……言葉と矛盾してるな。
自分の体の線から弾いた魔王の行動に対して包鉄はそう考える。
俯瞰して見ていると明らかに遠ざける振る舞いだ。
派遣勇者の力に強くとも、現地勇者の聖剣はある程度通り易いか……?
「セラーレイ!! もう一度今の技やってくれ!」
「えっ!? はい!」
セラーレイは戸惑いつつも同じ様に聖剣を構える。
恐らくだが一度当てれば結果は見える。
「チッ。余計な事を」
不愉快だと言いたげに魔王は言った。
そして向かう選択の剣が魔王に辿り着き、反射的か受けた魔王は鍔迫り合った。
「邪魔だ、なり損ない!」
「焦っているみたいだな」
そしてセラーレイの新星一点破断の二撃目が魔王の衣に伸びる。
無理矢理その斬撃を躱そうとするも、セラーレイの攻撃は魔王と接触する。
その部分は熱せられた鉄板に水滴を垂らすかの様に音を立て蒸発し煙を上げた。
包鉄はニヤリと笑みを浮かべる。
やはりこれが魔王の泣き所。この世界の聖剣であればあの闇の衣への有効打になる。
彗星乱撃が効かず、新星一点破断が有効。この違いは聖剣による直接的なものか否かだ。
ならゴリ押しが最適解!。
「スタルカスゴーブラフ」
魔王の背中の羽が盛り上がり、針の如き数多の岩石が降り注ぐ。
包鉄はその全てを届かせる事なく溶かし落としてみせる。
例え本体に届かなくとも、その術を消し去るだけなら容易だ。
焦りを隠さない魔王にセラーレイは更に攻撃を加える。
「くそ……ッ! 俺が、我が、私が!! こんな程度の者達に!」
「……あれも欲しい、これも欲しいと体をすげ替えてきた末路です。貴方は他者を簡単に扱えるとでも思っていたのでしょうが、驕りが過ぎましたね」
静かに語ったセラーレイは有無を言わさず魔王の体を切り伏せた。
闇の衣は静かに朽ち果てその生身を外界に晒す。
……撃ち抜けばお終いだが、そういう事でも無いよな。
魔王を真っ直ぐに見据えるセラーレイに、包鉄はそう思った。
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