第27話 魔王と再会し
⭐︎⭐︎⭐︎
「——クッ。ここは……?」
頭が酷く痛む。
何処かに強く打ったんだろうが、この痛みに似た感覚は既視感がある。
俺が、俺である事の放棄。
何も選べなかったあの時と——。
『城の中のようだな。どうやら』
後悔を孕む過去に意識が向き始めると同時に、くぐもった声が選択の耳に入った。
何度思い返そうと正解が分からない。何を選べば良かったのか。
そう思いながら立ち上がって辺りを見回し、横たわるセラーレイを見付けると歪む足取りにその前まで向かう。
……今は忘れよう。
「セラーレイ、セラーレイ。起きろ」
腰を落として肩を揺さぶる。
「うっ……! ハッ、魔王は!?」
「その気配は無い。守りの魔物すら置いていない」
飛び起きたセラーレイに、どうやら怪我は無いようだと安心する。
「カドス、俺達はどのくらい寝ていた?」
『10分程だ。気に病む事もない』
戦いにおいて10分は果てしなく長い。
不覚を取った。
『目覚めたのなら行こう。彼方さんも立ち止まらせはしない様だ』
カドスは続けて言った。
選択達が通ったであろう後ろの門、空間が捩れ収縮せんとする魔の力が段々と近付いている。
戻らせはしない。進む事を放棄させもしない、か。
ただ直線に続く廊下をセラーレイと共に歩き出す。
……招いているのだろう、俺達を。上等だ。
殺せたであろう状況を敢えて見逃された。
その事実に選択は苛立ちを覚える。
『構造が変わっているな』
「ええ」
二人の会話からもやはり魔王は自分達と相対する事を望んでいる。
そう思わざるを得なかった。
視界に映り続ける先の扉へと歩みを進めていると、それが音を立てながら開き始めた。
「来いと言っているのでしょうね」
「入るしかないだろう」
包鉄さんが居なくとも、例え研修の身であろうとも、派遣勇者である事に違いはない。
同じ轍を二度踏みはしない。
存在意義を見失おうが今ある役目を見据えて選択は両足に力を込める。
中に入ると広間が遠く作られた空間に出た。
赤い絨毯を中心とした左右に六つの石柱が立ち並び、中心の玉座と言える仰々しい腰掛けに一つの影が。
選択は鞘に引っかかる錆の感触に苦虫を噛み潰しながら剣を引き抜く。
依然、その朽ちた聖剣に輝きは無い。
「————ふむ、三人か」
静かに、そして淡々とした口調の言葉が浮かび上がる。
「魔王!!」
言葉と共にセラーレイは強く地面を踏み抜き、術の名を省略したであろう光球を魔王に放つ。
不規則な軌道を描きつつその矛先の魔王の周囲に展開。そして目も眩む閃光に爆裂。
「……我が配下には派遣勇者の足止めを命じたのだが、あまり上手く行かなかったらしいな」
光量が落ち着く中で些事でも無しと魔王は言葉を連ねる。
無傷か。流石に魔王を名乗るだけの事はある。
選択は聖力を剣に込め無理矢理ファイミリア・ブレードに熱を帯びさせた。
「ようこそ私の城へ。君達の訪れを待っていた」
ローブを深く羽織りその手には——剣が握られている。
踏み出そうとした選択の足を止めるそれには、見慣れた、そして懐かしさの感じる力が籠っていた。
「その剣は……貴様!!!」
「私も無傷ではなかったのだ。戦勝品としてこれくらいは許してもらいたいな」
勇者が魔王を打倒する為に与えられる世界の守護物。確かにその力を維持しながら魔王の手の中に収まっていた。
魔王が聖剣を扱えるのか!?。
選択は疑念のままに二の足を踏む。
『……貴様、本当に魔王か?』
「カドスか。お前には随分と助けられたよ」
『? 何を言っているんだ?』
選択はカドスへの言葉に違和を感じる。
俺の世界の魔王馴れ馴れしかったがそれとも違う。
「これでやっと、私の目的が完遂される。街を起こさせ城も移した甲斐があったというもの」
「……俺達を囲い込む為の仕込みか。全て」
選択は城の中での起きる事柄からそう推察した。
倒す以外に求める何かが魔王にはあるのではないか。
城を落とし甚大な被害すら厭わなかったのは、街に入った以上最早役目は終わったから。
……タイミングで考えれば、魔物達に気付かれた俺達を外へ逃さない為の行動か。
立ち入った段階で術中に嵌っていたんだな。
魔王は垂らした聖剣の切先を選択に向けた。
「派遣勇者は勘が良いな。全く疲れてるってのによくやらせるよ。いや、私の計画ではあるんだがな」
セラーレイの肩が上がる。
「その、言い回しは……」
「おっと、いかんいかん。気を抜くと直ぐに口調が寄ってしまう」
『お前は誰だ!!』
魔王は小さく笑い、空いた手で顔に被さったローブを持ち上げる。
現れたのは黒髪の年端も行かない青年の相貌。
抑揚の無い声に似付かない明るい雰囲気を纏わせ、口角を上げ頬を裂く。
隠しきれない邪悪さを振り撒く笑み。
選択は冷や汗を一つ垂らす。
「勇者…………エディス」
セラーレイの言葉に思わず視線をずらす。
……なんだって。今、なんて言ったんだ。
自らの武器である杖が少しずつ下がって行く様子に、選択は聴き間違いではないと確かにその名前を口にしたのだと認識する。
まさかあの男が?。いや、でも何故……?。
口の開くセラーレイと勇者と思しき人物。
その二人に目を移しながら混乱を隠せない。
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