第26話 理をその手に
戦いが始まり数分。互いに手の内を明かし合う攻防を繰り広げながら未だ決着が見えないでいた。
人数差はやはり無視出来ない。それも魔王クラスとなるのなら……。
包鉄はそう思いながら距離を離した二名に目が行く。
「
「
スタルカス、ルドラドンの二名の詠唱。
降りしきる流星群を模った天の雨粒が黒い魔法陣を侍らせる。
包鉄は迎え撃たんと撃鉄の上がる両銃を構える。
「魔啌弾二十連斉射」
その言葉と共に響き渡る複数回の轟音。質量の違うそれらがぶつかり合うと爆炎に包まれ掌で握られる様に収縮する。
……違和感があるな。
包鉄はその引っかかりに顔を捻る。
余剰に放った二発の弾丸が詠唱者へ向かう。
「淵熱のレイブ!」
目にも止まらぬ速さで弾丸を切り裂いた二色の炎。
そのままの勢いで地面を奔り、包鉄の左右の逃げ場が塞がれる。
確かに魔王と同レベルの圧と魔力を持ってはいるんだが……。
黒赤と燃焼する間にて、前方から鈍重な鎧をかき鳴らし迫り来る。
「一光落とし」
七剣を一つに束ね合わせた淡い黒光を放つ剣戟が上段から襲う。
包鉄は銃砲の先を重ね合わせ一撃を受け止める。
そのまま横に流し、銃口を頭に目掛けトリガーを弾く。
「…………」
閃光が一度明滅し、包鉄はやったかと心根に思い距離を取った。
その隙を見逃さず襲い掛かる三体を捌きながら敵方に目をくれると、飄々とした振る舞いのまま生物的に禍々しく歪む兜の端に擦れた傷があった。
「魔王と立ち並ぶと態々評したのにこの程度。肩透かしもいい所だな」
小さく言葉を漏らし包鉄は合間を縫ってルドラドンの魔本を撃ち抜く。
そして背後に周り後頭部に銃口を押し当て引き金を弾いた。
言葉無く、頭部の位置から黒煙を纏わせ膝を崩す。
「……強いな」
「いいやお前らが弱いのさ。戦って分かったがその力に振り回されている」
小さい子供に鉄の剣を持たせても振るえないだろう。こいつらの現状はそんな感じだな。
包鉄は更に二度と心の臓を目掛け銃弾を放ち、ルドラドンが地面に伏すのを見届ける。
ガラス玉が砕ける様に肉体が割れ瘴気へと変わる。
「壊星の塵芥。同胞よ我が身と共に」
途端オートップの言葉に合わせ左腕が伸ばされた。
それに瘴気が集まるとオートップの持つ魔力が明らかに増すのを包鉄は感じ取る。
吸収されたのか?。
その行動により包鉄の中の疑念が一つ確信へと至った。
「魔王に渡る筈の魔神の力は何故かお前達が所有している。……目的は何なんだ!」
こいつらの扱う別種の魔力。あまりにも既視感が有る思ったら……。
包鉄達の認識では魔神からの供与される力の行き先はその世界の魔の最大。魔王一人に当てられるとしていた。
供与を受けた魔王が更に力を分配しようとそれは魔神の力で増した魔王の力に他ならない。
言葉を返さない四淵星。纏まらない頭に熱が籠るのを感じた。
「あぁ〜、頭が腫れてくるなぁ! 元より親切に答えるとは思ってねぇが!」
ルドラドンを吸収した時に分かったが、魔神の力自体分割されている。何分割かはしれないが。
戦闘の為に分けたとしてもその状態ですら扱い切れていないし、此処の魔王は一体全体どういう腹積りなんだ。
「……全て我が魔王様の笑顔の為に」
オートップはそう言葉を放ち、ルドラドンの使用していた魔本と類似する物を左手に。
立ち止まっていたが、向かって来るか。
手数の増したオートップによる攻撃魔法と七剣による物理の迫りが加わり、足場を砕きつつ肉薄するスタルカスに炎のオブジェクトで逃げ場を封じるリフレイン。
四体各々の攻撃の連打には多少の穴があったが、不幸にも人数の減少による改善が見られた。
だからこそ防戦一方である包鉄。一つ一つの動きに注力し汗を払う。
重心の掛かる方向と視線による狙いの先読み。
特段それらに一日の長があり多対一こそが自分の本分であると理解しているが、それでも攻勢に転じる隙間は見出せない。
「……現地勇者エディスと俺。同じ勇者でも確かにこれだと言える違いが一つだけある」
返答は剣戟の火花。
声は無くとも四淵星の動きにある熱はその意思をありありとぶつけてくる。
こいつらがどんな目論見で戦っているのかまるで分からない。
だがこの熱量だけは確かだ。
「知らないだろうが、俺は既に世界を救っているのさ。自分の世界をな」
包鉄は地面に目掛けざっくばらんに銃弾を張り巡らせる。
魔啌弾はまだ……一応残っているか。この調子だと使い切っちまうな。
三体が間合いを取り、包鉄は一層グリップを固く握る。
「奥の手の更に真奥。魔王戦まで隠しておこうと思っていたが仕方ない」
魔神の力で弱まっていようと、手加減して勝てる相手では無い。
本来の力だったならまぁ……それでも他にやりようはあるか。これ以上にキツイがな。
包鉄の持つラインカイルとエンダベルがまるで透き通る様にして純白の色合いを無色へと変転させる。
「--聖剣とは即ち、世界に他ならない」
その言葉と共に無色透明な銃身の色彩が移り変わる。
まるで一つの動画を貼り付けたかの如く世界の営みをその身に写し、ウエスタンを想起させる荒野に対峙した何者か二名にて映像は止まる。
俯瞰に映された景色が固定化されると、包鉄は互いの銃口を口合わせ一つの画像となったそれを胸の前に掲げる。
「……
包鉄が産まれ、育ち、使命を託され、果たした世界。
聖剣を媒介として顕現させたそれには“理”が表出する。
火と闘争に包まれた、鉄の如く重苦しい戦の理。
包鉄は懐かしさと一発の寂しさを感じつつ、仕切り直しだと聖剣を構え直した。
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