第25話 四つの禍津星

⭐︎⭐︎⭐︎


 天に照準を当て、重低音に響く二発の銃声が辺りに反響する。

 鳴らすのは包鉄の勇者。その顔は埃に塗れ煙ったさに咳を放つ。

 全く。危うく巻き込まれる所だったぜ。

 心の中でそう思いながら顔を顰めつつ、込められた銃弾の種類を爆音が鳴る物から元の銃弾に変え腰元に腕を下ろす。

 

「前も見えない。選択達の居場所も分からん。……さてどうするか」


 複数の向かってくる魔物相手に立ち回っていたが、唐突に落下したアレのせいで戦うべき相手も綺麗さっぱり消え去ったしな。

 足下が覚束ない中で襲い掛かる瓦礫を撃ち砕くのは包鉄には造作もなかった。

 心配なのは選択達の安否だが……。

 そう考えつつ歩き始めると嫌な感触が足先から伝わる。


「ん? うげ、踏んじまった」


 魔物だった物の一部。敵同士の関係ではあるもののこうなってしまうと流石に同情心が勝る。

 包鉄は足を退け手を合わせる。

 すると肉体から上る土煙とは違った別種の何かに気が付いた。


「これは……瘴気か?」


 黒く微かな靄の様であったが何かに導かれるままに瘴気は道を指し示していた。

 命の終えた魔物から力を吸い上げているのか?。

 周囲を見渡すと同じくこと切れた魔物からも同様の物が。

 もしかして集まっているのか。何処に……。

 包鉄は目を凝らしてそれらが同じ先に向かっていると行き先から予想する。


 追うか。この先で合流出来るかもしれない。

 そう思いながら後を着いて行く事に決める。

 酷く散らかる瓦礫の山と肺を襲う塵埃に苦労しつつも掻き分け歩き続ける。

 そして瓦礫道の先に黒い靄の集合体と化した何かが目に止まると歩みも止めた。

 どうやらあそこが終点らしいな。選択達は……見当たらないが。


「これは……」


 落下直前の城が纏っていたものには及ばないが、相当濃い瘴気、魔力。

 白き聖銃に込めた弾丸を間髪入れずに放つ。

 円形の穴が開きやったかと包鉄はその如何を見届けると、何毎もなかったかの様に穴は塞がり元の渦を再形成する。


「駄目か」


 そう言葉を漏らすと突如として突風に身が崩れた。


「ぐッ……! なんだっ!?」


 吸い寄せられる様な引っ張りを感じる風の力。

 目の前の渦が突如として唸りを上げ、未だ集まり切らないであろう揺蕩う瘴気を食らいながらその体積を膨張させる。

 高まる魔力の高圧に包鉄は冷や汗をかく。

 また俺やっちまったか?。

 渦は一瞬動きを止めると収縮。手のひら大の黒球となり四つに分化すると、黒いシミを広げる様に人型の形をそれぞれ創り出す。

 

「魔王様の命有りき。今一度、黄泉の淵より今生に一つ星を輝かせん」


 濁る声色と共にその人影は剥がれ落ち、中の凝縮された魔力を携えて姿を露わにする。


四星よつぼし、星害。スタルカス」


 散りばめた星屑を一つに形成させた様な無機質な外観のまま、その魔物は名乗りを上げた。

 武器の類を持たず、握り締めたであろう拳が軋む。

 煌々とする眩い瞳は包鉄の瞼を下げさせた。


三星みつぼし、壊星。ルセラドン」  


 全身を覆う様に灰色の薄汚れた外套を羽織り、その顔の位置にある姿は無貌。

 はち切れんばかりの魔力が籠もった一冊の本を携える。


二星ふたつぼし、潰星。リフレイン」


 半身に燃え盛る炎を宿し、人の形に無理矢理抑えたかの如く蠢いている。

 もう半身は黒色に喚き立つ瘴気の集い。黒炎と形容出来る程類似点が有った。

 放つ熱波は包鉄の肌をチリチリと焼く。


「そして一星ひとつぼし、獄星。オートップ・フォスター。……四凶星改め、我ら深淵の力を纏し四淵星が貴様の相手を仕る」


 他の三体と比べ一際体格の大きな魔物が一歩前に出る。

 種類が違うであろう不揃いな騎士の鎧を纏い、背に円を描いて巡る七つの剣の一つを掴み切先を包鉄に向けた。

 こいつらの一人一人の持つ魔の圧力。……個々で魔王に匹敵する力量を備えていると言っても過言じゃないな。

 包鉄は無理矢理口角を持ち上げた。

 

「四凶星。四淵星。何も聞いてないぞセラーレイ」


 ……いや、セラーレイが何も言わなかったのならそれは想像にも及ばない事態の筈。

 大方魔王のつゆ払いとしての四人の幹部って所か。

 セラーレイ達勇者パーティは魔王の下にまで辿り着いている。

 ならこいつらは討伐を終えた存在。それまでに打倒した者達という訳だ。

 魔王がこの街に城を移した理由。そして唐突な自陣営をも巻き込んだ自滅に等しい振る舞い。

 俺達の行動に関係無く、全てはこの配下復活の為か?。


 包鉄はシリンダーにセットした銃弾を別の物に換装する。

 魔啌弾。俺がブレイブカンパニーに所属してからもしもの為にせっせと拵えた現時点での退魔の到達点。

 作るの大変だからあまり使いたくないが、仕方ないよな。

 主に材料集めなんだが今度選択にでも手伝わせればいいか。


「覚悟せよ揺蕩いし星外の勇者」


「死んでいた割には色々知っている言い方だな。……良いぜ纏めて来な。魔王の如き力は勇者に届く事はない。力だけなら尚更だ」


「それだけならな」


「……何?」


 包鉄の疑問の言葉を遮って赤と黒のコントラストが入り混じる怨嗟の炎が襲いかかった。

 反射的に右手のラインカイルの銃口を合わせ引き金を弾く。

 難なく相殺し硝煙を横に薙いだ。


「返事は無し、か」


 そうして向かって来る四淵星に両手の銃を突き付ける。

 選択、セラーレイ、チャク、カドス。どうか無事でいてくれよ。

 さっさと片付けて合流するからな。

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