第22話 二手に別れる


 包鉄は脳内で他に手がないか思索に巡らせるも、他にどうしても考えが及ばない。

 皇魔や他の奴らが居ればその辺りで良い知恵をくれるんだろうが俺じゃ無理だな。

 適材適所。でもこの場に居るのは俺で他に思い付かないのならそれを行うしか無い。


「やっぱりこの手しかないだろうな」


『妙案でも浮かんだのか?』


「そんな大層な言い方は出来ないぜ。……俺が街の中心で大暴れするから、その間に魔王の動きがあれば探ってくれって話だ。簡単だろ?」


 包鉄は気軽にそう語ると、セラーレイの瞳孔が細く開くのを目にする。


「駄目です。認められません」


 そして言葉で切り伏せる。

 そうなるだろうと思っていたけどさ、少し目が怖いっての。

 重鈍な圧力を携えたセラーレイの雰囲気に、包鉄は冷や汗をかいた。

 

「重要な場なら俺の行動は無視出来ないだろ? 試してみる価値はあると思うが。てか反対し過ぎだろう……」


「包鉄さん一人に暴れさせるのは俺も反対です。単独行動は不測の事態への対処が難しい」


「選択……が言ってくれましたね。何も前の様に反対してる訳じゃありません。集まった情報から突いてみるのもやぶさかでは無いと今は思ってます。……誰一人として死なせたくないんですよ」


 ……トラウマだな。

 直接に勇者や仲間達が死に瀕するのを目の当たりにした事が、セラーレイの中で足枷になっている。

 だから強気に出なけりゃ行けない場面でも逃げ腰な手を無理矢理探してしまう。

 死んだと思っていた仲間が生きていたから、尚強くそれが出たんだろうか。

 一朝一夕では拭えないし、厄介だなこれは。

 選択に関しては単純に戦略としての話。確かに不測な事態は起こり得るが、それも慣れっ子だ。

 包鉄は口角を広げこれ見よがしな笑顔を作る。


「心配してくれるのは有難いが、本音を言えば俺は一人の方がやり易いんだよ。それに頭は良くないから後ろでゴタゴタするのも性に合わない。……任せるのは信頼してるからだぜ。日は浅いがな」


 そう言って隣のセラーレイの肩に軽く拳を当てた。

 途端に眉間に皺を寄せ、更に払う仕草。包鉄の心にグサりと少しの棘を与えるのだった。


『セラーレイ。この頑なに自分の考えを通す振る舞いには覚えがあるな』


「…………死なないんですね? 絶対に」


 考えた上であろうその言葉。

 包鉄は頷いて返す。


「大丈夫大丈夫。此処で死ねるぐらいなら今この場に立ってられない」


「包鉄さん」


「選択、暫く別行動になるから講釈は垂れてやれないな。そっちは宜しく頼むぜ」


 包鉄の言葉に選択は同じく頷く。

 今回の仕事は変則的過ぎて研修になっているのか甚だ疑問ではあるが。

 情けない所も見せちまったしな。色々と申し訳ないぜ。

 選択は席を立ち上がった。


「……いつだって人が成長する時は一人で物事を成し遂げた時。任せて下さい」


「あ、お前もしかしてこの展開待ってただろ」


「バレましたか」

 

 二人は小さく笑い合う。

 全く、良い性格してるな選択は。


「僕もお手伝いしますね。魔王城の動きを確認出来るのは他に居ませんから」


「よろしく頼むなチャク」


 魔物側の協力者を得られたのは僥倖。

 城の動きが分からなけりゃ始まらないしな。

 チャクの手のペンダントが光る。


『……私は一旦セラーレイの下に行くとしよう。戦闘になった段を考慮すればその方が良い』


「そうね」


 セラーレイはチャクから受け取ろうとすると、途端に両手で抱えたペンダントを胸に押さえ込む。


『こらチャク。そんな強く掴むな』


「でも……」


 不安めいた声色でペンダントを見つめるチャクの姿に、包鉄は二人の関係性が垣間見えた気がした。

 というか手の圧を感じられるのか。無機物めいているのに。


「君は俺達が守るから安心しろ。……いざとなったら脅されたと魔物側に走れ」


「貴方も、貴方の家族も、路頭に迷わせる結果には絶対にしません」


 続いた二人のその言葉に、チャクはゆっくり腕の力を緩めセラーレイにそれを手渡した。

 心の支えだった、って所だろうな。無理矢理引っぺがすと近くなってしまったのは忍びないが。


「カドスさんも必ず返す。とは戦いだから約束出来ないが努力するよ」


 選択は更に言葉を放つ。


「……分かりました。ありがとう皆さん」


 不安げな表情を一転させて笑顔を浮かべるが、その実瞳の奥に残った物が見える。

 今日会った人間に信じろと言われても難しいか。

 結局行動で示さなければいけないって訳だな。どんな物事もそれに尽きる。


『あまり物の様に言ってほしくないのだが……』


「そこは魂の入れ物を間違った自分を恨みなさい」


 セラーレイはペンダントの首掛け紐を外して、自分の首へと結び直す。

 胸の前で一つ、宝石の輝きが垣間見える。

 包鉄はセラーレイを俯瞰すると、全体的に収まりが良いなと感想を浮かべた。

 そして一つ手を叩く。


「取り敢えず纏まったな。それじゃ、俺が暴れた後の動きについて何だが……」


 そこから更に煮詰めて行き、納得するまでそれらが固まると包鉄達はチャクの家を後にする。

 未だ騒ぎは収まっていない筈。その中で大暴れするのであれば俺に意識を向けやすい。

 そう考えながら一人、別れた四人を背に思うのだった。

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