第21話 手詰まりの中で


「そういえばカドス。貴方に手助けしてるこの魔物は?」


 セラーレイは案内人である魔物へ向き直すと、その相手は一つ身震いを見せた。


「僕はチャクと言います。偶然カドスさんのペンダントを拾ったんです」


 チャクはそう話すとペンダントを撫でた。


『実はな……魂を移したは良いものの身動きが取れなかったのだ。当然だ体がある訳では無いのだからな。結局流れに流されこのチャクの手に渡り、心優しき者だったので顛末を話した、という筋道となる』


「信用出来ないかもしれませんが、私は魔王様のやり方には賛成出来ないんです」


 チャクは確固たる語気を持って、力強く言い放った。

 オドオドした雰囲気も醸し出すが、意思をしっかりと持っているって感じか。

 包鉄はチャクをそう評価し、口を開く。


「友人でも居るのか?」


「はい。代え難いかけがえの無い人で、食べ物に困っていた僕と兄弟達を救ってくれた恩人なんです。……だから」


「それでも魔物にとっての魔王は救世主とも言える存在だろう」


「魔王様は光の一粒も認めません。だからこそ魔物にとって住み良いのでしょうが……それは正しくないと思います。僕の友人はその排斥を認めない人でした。個の中の心を重視していました。……だから、僕も受け入れたいのです」


 包鉄はチャクの言葉を最後まで聞き終えると薄く笑みを浮かべた。


「……優しいな」


「いえ……別に」


 そして包鉄の言葉に照れているのかチャクは頬を少し染め、そう返したのであった。


「……カドス、城はこの街の上空にある。という事で良いのよね?」


 変わった空気感を引き戻す様にしてセラーレイが口にする。


『そうだ。中心広場の真上に位置している。……しかし問題もあってな』


「誰もその城へ入る方法を知らない?」


『正に。人以前に魔物でさえあの戦いの後顔を合わせた者は少ないようだ。密かにチャクと共に城への侵入方法を探しては見たが手詰まりになってしまったよ』


「どうにも魔王様は僕達をあまり信用していないきらいがありまして」


 自由意思の塊である人間は味方側にも弓を引く事はままあるが、この世界の魔物の性質も一人一人個性が強い物なんだろうか。

 それでも何一つ寄せ付けない程の猜疑心の強さは脅威の塊だと言い切れるが。

 俺の経験上そこまで一人でやろうとする魔王は見た事が無い。結果的に一人なってしまったものは除外して。

 だが……まぁ。

 

「……最終的に行き着く所を考えればな」


「?」


 チャクが首を傾げる。


「いや、こっちの話さ」


 世界の殻が破られ、反転した欠片が渦を作る。

 情を持たない方が相手さんとしてもやり易いのかもな。


「結局行き止まりなのは変わらない。どうしましょうか」


 選択が言葉を放つ。

 そうなんだよな。結局案内され話を聞く前と状況は何も変わらない。


「この街の支配者、管理者とも言える魔物はいるのか?」


「無駄ですよ。その人も末端の管理者というだけで上の実情については知りません」


 先回りされたな。チャク達も調べに調べたからこそ相手の言葉が先に分かるのだろう。


『出来れば君達の訪れに間に合わせる形で突破口を見出したかったのだが、申し訳ない』


 申し訳なさそうにカドスは光を明滅させた。

 皆が話す言葉を持たず、包鉄は一つ息を吐いて席を立ち上がり体を伸ばす。


「旅羽がいれば一っ飛びなんだがなー」


「あの人も戦えるんですか?」


「そりゃバッチリ勇者だからな。初期組は伊達じゃないぜ」


 昔に「戦えないと体が鈍るんですよねぇ」と愚痴られたっけな。今は前の戦いで解消されてるだろうが。

 きっと他の運営メンバーもそんな感じなんだろうな。

 結局末端が一番気楽だ。ストレス溜まりそうだしな。


『口振りからして結構な大所帯なのか?』


「あぁ、我らブレイブカンパニー総数46名。日夜バタバタと飛び回ってるよ」


「私からすれば雲の上の話ですがね」


「だからやってる事は変わらないって」


 魔王ぶっ潰し隊が俺らの本質さ。

 顎に手を当てていた選択が片腕を突き上げた。


「魔王城は口振りからして元々地上にあったんですよね?」


「ええ。この街の地理から見て北の方角の小山の上に。本来ならまだまだ距離があります」


 セラーレイはそう言って指と指を立て、道のりに見立てる。

 

「その城がこの場所に滞空しているとなると……やはり街自体に仕掛けがあると思うのは俺だけですか?」


「いい線行ってると思うぜ。魔物にだけ認識出来る仕込みをするならば、移動させる必要性はあまりないだろう」


 街にしたって前は無かったとセラーレイは言っているし、新設した物に違いない。

 足して魔王城移動に掛かる諸々を加味すれば、今まで聞いた魔王の人物像とは逆に乖離するだろう。

 包鉄はそう頭を巡らせる。


「……魔王も怪我を負ってる。その程度は分かりませんが、姿を現さない事を踏まえて相当なダメージを受けていると前提が考えられる」


「この街にはその状態で態々動かさざるを得ない何かがあるって事だ」


 この点に突破口が残されているんだと思うがな。

 ……もし、この街自体に魔王の目的が隠されているのであれば。

 やっぱり作戦は一つに絞られる。

 包鉄は考えれば考える程、その行動が最適解なのではないかと思わずにいられなかった。

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