第9話 rock paper scissors

 

 旅羽は握り拳を作り態とらしく咳を吐く。


「さて、これにてミーティングを終了と致します。お次は選択の勇者のお供を決めましょうか」


 待ってましたと言わんばかりに包鉄はニヤリと笑みを浮かべ、他の者達も瞳を光らせ物々しい雰囲気に包まれ始める。

 新入りのバディ決めは派遣勇者の楽しみの一つ。

 今回は競合が少ないから運が良いと包鉄は悔しがる他の勇者を想像する。

 この場に居ない自分を呪うがいいさ。


「お供とは?」


 疑念のままな言葉を選択の勇者は発する。


「謂わば研修の様なものです。我々の活動に対する説明や教育をなさる方を付けるのですよ」


 俺の場合は皇魔に教えられたんだったなぁ。

 懐かしさのままに皇魔を見やると目が合う。


「今回は俺がやるよ。絶対に譲らん」


 そして目を離し四人に向け啖呵を切った。


「狡いですよそれなら僕も」


「あの勇者が持つ術の解析をしたいから私に譲ってほしいわね」


「いや鍛錬の相手が欲しい。俺だ」


「私だよー。お姉ちゃん二人着いてくるからお得だよー」


 一歩も譲る気のない言葉に闘志が燃え上がる。

 誰も引かないのであれば物事を決めるのに一つ最適な方法がある。

 それは戦い。古今東西拗れた際に用いられて来た歴史ある行いだ。


「おやおや。大人気ですね」


「はぁ」


 この物々しい雰囲気の広がる中選択の勇者は、 まるで着いて行けないと間の抜ける声だった。

 初々しいねぇと包鉄は自分がやって来た当初の事を思い出す。

 あの時はまだ三十人も居なかった。旅羽もよく集めたもんだな。


「ここは、かの伝統に則ってじゃんけんで決めましょうか。物事に対して優劣関係無く勝敗を決める事の出来る神聖な儀式ですよ」


「大仰に言い過ぎですよ」


 旅羽の言葉に転化がそう反応する。

 皆一斉に片腕を突き出して天高く上がり、鬨の声の如く掛け声に合わせて手を変えていく。

 全て出揃った一回目はあいこ。そして二回目が始まり出された手は……。


「よし! 俺の勝ちだな」


 包鉄の鋏の手が場を制した。

 他の者は一斉に項垂れる。


「3回勝負にしようよー」


「今更遅いぜ。最初に言っておくんだったな」


 因剥の我儘な言葉を切って、その不満と悔しさの念を後ろで感じながら選択の勇者に向かい合う。


「と言う訳で、俺は包鉄の勇者。諸々教えるからよろしくな」


「よろしくお願いします」


 取り敢えず宿舎に案内するか。仕事内容に関しては明日実地でやるから、生活についての説明をする感じだな。

 包鉄は着いてこいとジェスチャーを送り、選択の勇者とこの場から離れんと歩き出す。


「頼みましたよー。包鉄さーん」


「はいよ」


「困ったら私に相談するんだよー」


「しねーよ」


 旅羽の響く声と茶々を入れる因剥に返事をし大聖堂を後にした。



⭐︎⭐︎⭐︎



 結構口数は少な目の勇者だな。さてどうしたもんか。

 暖かな陽射しの下で整備された道を行く包鉄はそう悩んでいた。

 大聖堂を抜け出してから無言のままバツが悪そうにしている。

 緊張するなと言っても難しそうだ。なら少し仕事の話でも振る方が会話になるか?。


「取り敢えずウチの活動目的から説明するか。聞いてるか?」


 包鉄はそう切り出す。


「多少は。魔王に力を与える大元の魔神を消滅させる為組織された集団。と聞きましたが」


「その通りだ。この最上世界No.1ブレイバーズヘブン。もといブレイブカンパニーの面々は封印されている魔神の完全消滅を目的としている」


「封印?」


「あぁ。厳密には漏れ出たその力が各世界の魔王と呼応するんだ。下層領域の更に下の深層世界へ封じられているとされてる。そこへ辿り着く為に日夜魔神勢力の力を削いで行ってるのさ」


 長く続けて来てやっと半分って所だけどな。

 深層まで辿り着くのに後どのくらいかかるのか見当も付かないな。

 包鉄は幾つかの社屋を抜けて行き、横長に広い、外壁が白く作られた集合住宅の前に辿り着く。

 窓の類は一切無く、無機質な塊を思わせるそれに一つだけ出入り口が取り付けられていた。

 二人はそこで足を止める。


「此処が俺達の宿舎になる。部屋は46号室が空いてるからそこを使ってくれ」


「分かった」


 不思議そうに端から端まで見渡している様子に奇妙奇天烈だよなと包鉄も解する。

 引開きのガラス性扉を開いて中に入ると心地の良い空気が肌を包み込む。

 空調が効いていて涼しいなと包鉄は心地良さを感じつつも、室温の違いからか選択の勇者は一瞬足を止める。

 個室が点々と続く廊下を進んで階段に差し掛かるとそこを曲がり上に向かう。

 一、二、三階まで上がり、また通路に出ると数歩の後一つの個室前で止まった。

 木製のなんて事はない扉の上には46と数字のプレートが貼られていた。


「此処が選択の自室となる部屋だ。取り敢えず入るか」


「はい」


 そうして踏み入れると、玄関口から見て左には調理場とシンクがあり右側にはトイレへ続くだろう扉がある。

 奥には堺の無い四方系に広がる部屋が小さく作られていた。

 そして更に奥に窓がありベランダも備え付けられている。

 日当たりも良く、外から見た様子と違うのはどんなカラクリなんだと包鉄は前々から疑問だった。


「原理は分からんが一つ一つの部屋は隔絶された空間とやらになっているらしく、どれだけ壊そうが他に影響が出る事は無いんだと。だから自分の使い易い様に部屋を改造して構わないからな。勇者によっては室内に川を流してる奴もいる。あれは大分おかしいと思うが」


「左のこれは一体……」


 選択の視線は近代的なガスコンロに向けられている。

 全く目新しい物に遭遇する感覚は包鉄にも覚えがあった。


「あぁ、それは調理に使う物だ。他も教えるから」


 そう言って包鉄は部屋内の設備について講釈を垂れるのであった。

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