第8話 new braver


「集まるには集まったが、少ねーなー」


「殆ど出払っているじゃない」


 大聖堂と呼称される周囲をステンドグラスの窓に彩られる一空間。

 出入り口から少し進んで円形状になっており特に椅子などは無く、床は色様々な石材が嵌め込まれている。

 最奥には水晶細工の二枚扉があり、その真ん前に背の高い男と、比べて三分の一もない女の子が立っていた。

 近付く三人に背の高い男が手を挙げる。


「包鉄と皇魔、それに転化か。俺と『因剥いなば』を含めれば五人しかいないな」


 重々しく刻み付けられた斬撃の古傷が広がっており、歴戦の戦士を思わせる大男は無表情にそう語る。


「新しい人楽しみだねぇ。どんな勇者が来るんだろうなワクワク」


 片や背丈の小さな女の子は肩まで掛かる長髪を乱し隣の大木の様な足を叩いていた。

 青の原色で染められたドレスが羽ばたく様に音を立てる。

 包鉄は相も変わらずだなと思いつつ、二人の前に立つと口を開く。


「あんまり困らせる事言うなよ因剥。第一印象に変な組織だと思われたくないからな」


「善処するよー」


 あっけらかんとする返答に、本当かよと若干の訝しさを覚えた。


「『武河ぶが』さんこの前はありがとうございました。今度僕の地元の名物を持って行きますので食べて下さい」


 転化の勇者はそう切り出す。


「あぁ、気にするな。……因みに菓子か何かか?」


「はい。果物のパイが美味しいので良かったら」


「美味そうだな。なら貰う事としよう」


 顔に似合わず甘い物が好きなんだよなー。

 包鉄は武河の様相と好みの乖離に対して首を立てに振る。

 すると水晶細工の扉が軋みを上げ開いていく。


「……そろそろ来るわ。皆んな私語は謹んで」


 皇魔の言葉に皆口を噤む。

 完全に開き切るとヨレた白スーツの旅羽が姿を現した。


「ふう。やっと帰ってこれましたね。長旅でした。……おや今回は少ないのですね」


 旅羽は五人のみの集まりにそう言った。

 包鉄は鼻息を吐きながら腰に手を当てる。


「だーれもいやしないぜ。『聖成せいせい』すら何処かに行ってるよ」


「それは珍しい。でも、仕方ないですかね……。取り敢えず入って来て下さい『選択せんたく』の勇者」


 その言葉と共に続くもう一人が姿を見せる。


「おっそいつが新しい勇者か。んで名前ネームが選択と」


「……今日から世話になります。よろしく」


 表情に影の差す若い男が頭を下げる。

 腰の両側には二本の長剣と二本の短剣があり、その佇まいから相応に鍛えられて来た人物であると包鉄は予想する。


「それなりに仕上がっているみたいね。何処から連れて来たの?」


 皇魔も同じ感想を抱いている様であった。


「中層世界の下層寄りですね。No.ナンバーで言います?」


「それだけ分かれば充分よ」


 聴かされた所でどういった世界なのかは『譚層』にしか理解出来ないからなぁ。

 俺達には大雑把で十分だな。

 包鉄はそう納得した。


「聖剣はその腰の物全てか」


「ええ。まぁ……」


 武河の言葉に視線が聖剣へと向いた。

 その外れた隙を突かんと因剥は一足で距離を詰める。

 

「へー、いいねいいねぇ! 因念渦巻く良い武器だよこれ」


 そして新しい玩具を与えられた子供の様にはしゃぐまま値踏みをする。

 言ったそばから……。

 包鉄はため息を吐いた。

 選択の勇者は鋭い目つきで一歩下がるが、因剥は合わせて一歩詰め寄る。


「因剥さん失礼ですから少し控えましょうよ」


「面白いから後でお姉ちゃん達にも教えてあげよー」


 満足したのか満面の笑みを浮かべながら元の位置へと戻って行った。


「騒々しくて申し訳ありませんねぇ」


「いえ、あまり気にしていないので」


 メチャクチャ気にしてるだろうな。

 包鉄は十中八九社交辞令であろうその言葉に苦笑いを浮かべた。

 

「早速で申し訳ないのですが、このままミーティングに入ります。と言っても伝える事は一つだけなのでお時間は取らせません。選択さんはあのガンマンの隣に居てください」


「ガンマンって言うなよ。勇者と呼べ勇者」


「全員勇者じゃない」


 選択の勇者が包鉄の隣に並ぶ。

 ガンマンと呼ばれると無性に気分が悪い。

 あいつらからすりゃ褒め言葉なんだろうが、俺からすれば無法者の称号に他ならない。

 勘弁してほしいぜ。

 そんな感情など露知らず、旅羽が手を叩くと共に空間上へディスプレイが浮かび上がる。

 簡易的なグラフや数値がその中に投影されていた。


「光の勢力図が47%。そして闇側が53%となります。先日の包鉄と皇魔さんの活躍により1%上昇致しました。皆さま拍手を」


 盛り上がりに欠ける数人の拍手がこだました。

 パーセンテージには結構貢献出来たと思うんだけどな。いかんせん人が居ない。

 全く悲しいもんだ。


「そろそろ半分を取り切りたいが、彼方さんもそう簡単には譲ってくれないだろうな」


 今のまま進めれば何れ達成出来るが、能無しの獣という訳でも無いからな。

 手は打ってくるだろう。若しくは打っているか。

 包鉄は先日の魔王との戦いを思い出していた。


「ここ最近は変則的な動きも目立ちますからね。……何を考えているのか」


 なるべく後手に回るのは避けたいが、それもまぁ勇者の宿命な所があるからな。

 

「強気に出るくらいじゃないと取って食われてしまうわよ」


「皇魔に同感だな。さっさと魔王を倒して回れば良い」


 皇魔と武河の強気な姿勢に、そう出来ないからこうやって悩んでいるんだなーと心の内に残す。


「何ごとも順序立ては要るのですよ御二方。世界に拒否されてしまえばいくら助けたくとも手の出しようがありませんからね」


 ご尤もだ。

 行けないのでは戦い所じゃない。


「中間管理職は大変ですね。一先ずは現状維持で細々と広げて行くしか無さそうですか」


 転化は弱々しい口調でそう尋ねる。

 旅羽は白い手套に包まれる指を直立に伸ばす。


「何事も地道にコツコツと。結局はこのやり方が一番早いと私は思いますよ」


 勝利や成功への道は果てしなく長いものである。

 身に染みていた包鉄は、それに尽きるよなと積み木を高く作り上げる様な気持ちである。


「勇者の得意分野ではあるな。近道など存在しないという訳か」


「そのうちいつかの大勝利! 作戦だねー」


「はぁ。随分と気の長い事ね」


 各々思う事は違えど概ね旅羽の言葉に同意を示している様であった。

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