第1章 選択と連星

第7話 brave company




「……と、言うわけで、最後に光の爆発と共に世界は救われました。ってな」


 長机が等間隔に置かれた広々とする白い室内。

 心地の良い陽射しが差し込む中で端の席に座る包鉄は履き捨てるようにそう言って目前の相手に笑う。

 休憩所も兼ねているであろう大広間には他に人は居ない。


「これまた大仕事だったんですねぇ」


 優しい笑みを浮かべる相手は中肉中背で後ろに髪を纏めた色男。

 常に半開きな瞳には眠気があるのかと思わせる。

 見た目は不真面目そうだが、聞く所はきちんと聴いているんだよな。

 包鉄は彼をそう判断していた。


「実際はそうでも無い。殆ど現地勇者の実力で事足りてたからな。ああいったオーソドックスな世界を見ると色々羨ましくなるね」


「ははっ。包鉄さんはどちらかと言うと地味な方ですからねぇ。皆さんが派手過ぎるとも言えそうですが」


 地味、地味か。そうだよな俺には派手さが無いんだよなぁ。

 包鉄は業務を共にしてきた他の勇者を思い出すが、やはりそのどれを取っても大仰と断じても良い程煌びやかさがあった。


「俺も詠唱ってもんをしてみたいぜ。……まぁその分この44口径の退魔特化型回転式拳銃。G999ラインカイルとエンダベルは取り回しが良いんだけどな」


 長机の上に自身の二丁拳銃を取り出す。

 闘争というものに身を任せてから幾星霜。その傍には何時もこの相棒達が居た。

 屠って来た敵も数知れない。その分思い入れは強くある。


「僕達からするとそのの方が羨ましいですけどね。かっこいいですし浪漫も感じますし。此方は詠唱があるとそれを含めた時間を考えて戦いを組まないといけないんですよ」


「どちらも無い物ねだりってやつなんだろうな。試しに交換でもしてみるか? 『共能きょうのう』に頼めばそれくらいは出来るだろう」


 ……なんてな。冗談だけど。

 包鉄は輝く銃身に笑みを溢す。


「出来た所で使い熟せないですよ。技術が違いますから。それに僕の聖剣は意思があるタイプなので怖いですよ」


 そう言って色男も聖剣を置く。

 抜身では無い鞘の付いた状態で、刀身の長さで言えばダガー。

 しかし垂直に伸びているのでは無くL字に反り返っており、戦闘で常用するには些か不便なようにも見える。

 意思のある聖剣か。こいつらには無縁だがな。


「戦ってる時にサポートしてくれたりするのか?」


「口煩いだけですよ。僕のは悪態も吐きます」


「それはおっかないな」


 そうして二人は笑い合った。

 出入り口の扉が音を立てて開くと視線を其方に向ける。

 見慣れた姿に包鉄は手を軽く振る。


「二人とも何の話をしているの?」


「いえちょっと下層世界でのご活躍を聞いていたのですよ、皇魔さん」


 近付いて包鉄の隣の席に座る皇魔。


「長く篭ってたが、解析とやらは出来たのか?」


「終わらせたから出て来たのよ。そこまで難しいシステムではなかったわ」


 よくぞ訊いてくれたと言わんばかりの反応を見せる。

 相変わらず分かりやすい奴だなぁ。


「ご教授頂いてもいいですか?」


 色男はそう言った。


「あの世界だと術式の発動までのプロセスが一つ多いのよ。珍しくは無いけど」


「もしかして天聖……うんたらってやつか」


「そう。自分はこれから何々をしますと意思表示が天聖〇〇とか前半の言葉になって、それが受理されると後半の技名に繋がるって感じ。こういった一つ一つの繋がりを大事にするのは神が管理する世界で良く見られる傾向にあるわね」


 そう語り終える。

 なーるほど。呪文と言っても色々と制約があるもんなんだな。


「あそこの女神さんを見ていたら納得出来るな」


 立ち振る舞いからも厳格そうな精神性が見て取れたからな。

 元気でやってるかな二人共。


「僕は今回スムーズに事態が収集したので、お二人の仕事先が少し羨ましいです」


 自虐を少し含ませた言い方だった。


「俺と『転化てんか』は逆で良かったと思うぜ。まぁどちらも成功しているし間違いって訳でもないんだろうがな」


「旅羽さんの予測も最近は外れる事がありますからね。が……」


 そう言い掛けて部屋に風鈴を鳴らすかの様な落ち着いた性質の呼び鈴がこだまする。


『ピンポンパンポーン。勇者各位に通達致します。今現在ブレイブカンパニー内に待機している者は大聖堂まで集まって下さい。繰り返します。大聖堂まで集まって下さい。ピンポンパンポーン』


 ……呼び鈴の声真似は要らなくないか?。

 この間の抜けた感じはあの人かな、と思っていると両手で机を押さえながら皇魔が立ち上がる。


「さて、面倒臭いミーティングのお時間よ」


 続けて転化が立ち上がり、やれやれと包鉄も席を立つ。


「確かスカウトした勇者が来るんだったな。話せる奴だと嬉しいが」


「そこは杞憂でしょう。だって僕達は心の根っこは同じなんですからね」


 それもそうだな。

 何処の誰であろうとも勇者という称号で呼ばれる者には共通点がある。

 各々性格も考え方も何もかも違うのが普通だが、こればっかりは変えられない。

 まぁでも、願わくば面白い奴であります様に。

 包鉄は次なる勇者にそう思い耽るのだった。

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