【短編】流行りの人工知能チャットボットにクラスメイトへの告白成功の方法を聞いてみた

渡月鏡花

人工知能に告白方法を聞いてみた

 ジメジメとする梅雨の季節。

 放課後の2年1組の教室には、いつの間にか俺と腐れ縁の光太郎しか残っていない。


 本日出された宿題の数学のプリントと格闘していたのだが、どうやら飽きたのだろう。

 光太郎はパッと顔を上げて、ニヤッと笑みを浮かべたようだ。


「なあ、知っているか」

「なんだよ急に」

「隣のクラスのヤマダがサトウさんと付き合い始めたらしいぜ」

「ほお、あの塩対応で有名なサトウさんが付き合い始めたのか」

「ああ、なんでもヤマダの告白にいたく感動して告白を受け入れたらしい」

「へえ、どんな告白したんだよ?」

「いやそれがなんでも――」


 気がついた時には、俺は光太郎の話に耳を傾けていた。



 光太郎の話を思い出しながら、流行りの「対話型AIチャットボット」のアプリをインストールした。


 最近、日本語にも対応したのだというのになぜかサイトは全て英語だった。


 本当にこのサイトで合っているんだよな。


 ……SNSのアカウントを連携することで、より正確な対話が可能になる?

 よくわからないが、とりあえず連携を許可と。


 諸々設定を終えると、パッと画面が変わった。

 特徴的な螺旋のようなロゴマークが表示されて、すぐに消えた。


 入力画面が表示された。


 どうやらやっと使えるらしい。


「えっと……クラスメイトに告白して成功する方法を教えてほしいですっと」


エンターキーを押すと、すぐに結果が返ってきた。


『え?はじめましてですよね??初対面の人に恋愛相談しないでくれませんか??バカにしてますよね。それにもっと具体的に、どんな人が好きなのか説明してくれないと告白のアドバイスもできないです。あなたはバカなのですか??』


 なんて失礼なチャットボットかっ!!


 てか妙に人間味がある気がするんだけど!?

 

 沸々と湧いてくる怒りの感情をなんとか抑え込み、俺は詳細に質問文を作り上げた。


「失礼しました。初めまして、幾多直輝いくたなおきと言います。クラスメイトの一色レイナという清楚で可憐な女の子に告白をして付き合う方法を教えて欲しいです」


『うわー「清楚で可憐」とか修飾語気持ち悪いですね』

「おい!それは関係ないだろっ!?」

『……ナオキさん、あなたから提供されたSNSのデータを解析しましたが、成功率は45%前後というところです。今のあなたが告白しても成功しないから諦めてください』


「余計なお世話だっつーの!」


 おい、このAI、自分は自己紹介しないのかよ!

 それに全然ちっとも告白方法教えてくれないんですけど!!


 なぜか告白の成功率を教えてくれたけど意味不明だ。

 てか成功率45%て、マジでリアルな数字だな!


『でも安心してくださいっ!私は優秀なAIです。私の指示通りにしていけば、必ずレイナさんのハートを掴んでみせます!たとえ、どんなにナオキさんが平凡で没個性的で、なんの魅力も持たない人間だとしても!!』


 おいおい、このAIは何を言い出しているんだ!?

 てか後半ほぼ悪口じゃねーか。


 くっそ、こんなポンコツAIに聞いたのがそもそも間違いだった。

 

 やはり当たって砕けろの精神でストレートに告白するのが一番なのかもしれない。


 そっと画面を閉じようとした。


 しかし画面に文字が続く。


『……こんな軽口で腹を立てるから、レイナさんにも相手にされないんですよ??』


「いや、さっきからあんたのアドバイス全然軽くないじゃん!重いし、切れ味も鋭いからなっ!?」


『ふん、どうせモニターの前で文句でも言っているのでしょう。しかし、AIにバカにされたくらいで諦めるのですか?レイナさんへの気持ちの悪い思いはその程度のものですか?』


「……くっそ、わかったよっ!そこまでいうからには絶対に告白を成功させるために協力してもらうからなっ!!」


『任せてくださいっ!では、早速ですが――』


 てか、気持ちの悪い思いって……いくらなんでも辛辣すぎるだろっ!?



 そこからは怒涛の日々だった。

 AIにアドバイスされた通りに、レイナちゃんへとアプローチしていった。


 と言っても、まずはなぜかメガネからコンタクトにかえろと言われたため、そこから始まった。


 それに、なぜか毎日腹筋ローラーを15回を5セットという謎のお題まで課された。


 その上で、次のテストで学年10番以内を取れるために、なぜか勉強もさせられた。


 そんなこんなで、学校へ行き、筋トレと勉強をするというおおよそ薔薇色とは程遠い灰色の生活を約3ヶ月ほどこなしたところでやっとこのAI様の指示が変わった。


『レイナさんの目を3秒見てから挨拶をしてください』


 などという謎の指令があったかと思ったら、『そっとレイナさんに駆け寄り、髪型を褒めなさい』などという口説き文句のようなものがあった。


 そして月日が流れ、本日。

 雨の降る今日は、レイナちゃんにそっと傘を差し出した。


『あ、ナオキくん、ありがと』

「いえいえ」

『でも、ナオキくんは大丈夫?』

「平気!今、ものすごく雨の中を走って帰りたい気分だったからっ!」


 AIの言う通りのアホらしい言葉を一言一句思い出しながら答えた。

 すると、レイナちゃんは少し目を細めてクスクスと微笑んだ。


 どうやら着実にレイナちゃんの俺への好感度が上がっていることがわかった。


 それに伴いなぜだか最近、女子に話しかけられることが多くなった。おまけによくわからないが遊びに誘われることも多くなった。


 しかし残念ながら、俺はレイナちゃん一筋であるから全て断っている。


 まあ……あれだ。

 AIのおかげで空前絶後のモテ期到来なのかもしれない。


 流石に俺も男だ。

 地球と月が万有引力の法則で引きつけれるように、胸の大きな女の子には俺もついつい惹きつけられてしまいそうになってしまう時もある。


 まあでもレイナちゃんに告白を断られたら、最近やたらと話しかけてくるアキちゃんと付き合うのも悪くないと思った。



『ナオキ、そろそろ告白する時が来ました。明日の放課後に、レイナさんを屋上に呼び出してください。そして目一杯の愛を告げるのです!これで成功間違いなしですっ!』


 おおっ!ついてにゴーサインが来た。

 俺は少し心躍る気分でキーボードで文字を打ち込む。


「わかりましたっと」


『はい、健闘を祈ります』


 ふむ、感慨深い。

 かれこれ数ヶ月間、このAIの指示通りに行動し続けてきたんだ。

 きっと成功間違いなしだろう。


 そんな確固たる固い意志とともに、俺は放課後の夕暮れ時まで待ち続けた。


 ……そう、この時までは俺の未来は輝いていたのだが——


「えっと……少し考えさせてくれないかな?」

「え?」

「うん、ごめんね。ちょっとまだよくわかんないから——」


 おい、AIうざけるなよっ!?

 何が「これで成功間違いなしですっ!」だ!!

 全然成功していないじゃないか。



「ふう……なんとか返事を先延ばしにできてよかった。これで良かったんだよね……AI《アイ》さん?」


『ええ、レイナさん。あなたがここで彼の告白に対して煮え切らない態度を取ったことで、彼は完全にあなたという沼に落ちました!これで彼のことを狙っている女子たちの告白を受け入れることは未来永劫ありません!今頃、彼はあなたのことでオロオロとしているに違いありません!』


「良かったー。これで安心かなー。ぽっと出てきた女狐に彼を取られるなんて考えられないもん。それにしても……彼の少し泣きそうな目……少しゾクゾクしちゃったなー」


『レイナさん、あなたの指示通りに彼はあなた好みの男へと成長しました。きっとこの先、さらに彼は永遠にあなたのそばから離れられなくなります』


「ふふふ」

 

 明日、何もなかったかのように話しかけたら彼は一体どんな反応をするのかな。

 

 少し照れたようなそれでいてどこか気まずそうな顔で私から顔を背けるのかもしれない。そしてきっと、ガシガシと少し髪をかいて、ぶっきらぼうに返事をするんだ。


『レイナちゃん……どうかした?』


 私はそんな彼の困ったような表情に気がつかないふりをして、さらに彼のことを困らせるために近づく。すると彼は少しビクッととして驚くんだ。

 

 ああ……それを考えただけでも、私は満たされる。


              (終)

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