第2話

「……は⁉ 何言ってんの⁉ 無理、絶対に無理だから!」


 なんでそんなに顔を真っ赤にしてるんだろう。

ブラコンを一緒に卒業しようって思っただけなのに。

卒業しようがそんなに――あ!


「ち、違うぞ! そういう意味じゃないからな!」

「……え、あ、うん」

「そういうことしたいなんて思ってないからな!」


 そういうことをしたいなんて思ったことはない。

 斉藤さんと話したのなんてついこの間なんだ。

 そういうことをいずれは誰かとするのかもしれないけれど、決して斉藤さんとしたいわけじゃない。

 そう思って斉藤さんの方を見たら、にやりと笑っていた。


「ねぇ、ねぇ、そういうことってどんなこと?」

「は?」

「だから、そういうことって――」

「おい!」


 斉藤さん、絶対気付いてるだろ。

 さっきまで恥ずかしそうにしてたのに、何でこんなすぐに調子に乗れるんだ。


「ねぇ――」


 ああもうこうなったら分からせてやる!

 僕は席を立ちあがり彼女の隣に移動した。

 そして――


「こういうことだよ」


 斉藤さんの後ろの壁に手を振れた。

 姉ちゃんの読んでるラノベで最近知ったが、こういうのを壁ドンっていうらしい。

 一時期こういうのが流行ったそうだ。

 これで斉藤さんも煽ったりして来ないはず――


「え?」


 なんでそんなに恥ずかしがってるんだ。

 斉藤さんはさっきよりも顔を赤く染め、なぜか体を少し揺らしていた。


「あ、これはちが!」

「何が違うんだ?」

「いや、なにも違わないけど! なにも違わないけど!」

「何で二回言ったんだ?」

「重要だから!」


 すぐ表情が変わったり、調子に乗ったり、ほんと忙しい人だな。


「それで? 卒業って、私に何をさせたいの?」


 紅茶を飲み終えた斉藤さんはカップを机に置いた。


「僕と一緒にお兄さん離れをしないか?」

「お兄ちゃん離れ? そんなの無理! 却下、以上!」


「聞いて損した」といって、斉藤さんはマスターに紅茶のお代わりを頼んでいた。


 やっぱりそう言うよね。

 だけど、これ以上は――


「斉藤さん、ちゃんと聞いてほしい」


 紅茶のお代わりが運ばれてきたタイミングで僕は話を切り出した。


「何よ、改まって」

「姉ちゃんとお兄さんが話し始めたんだよ。だからもう僕たちは2人から卒業しないといけないと思うんだ」

「……さっきも言ったでしょ? 無理なものは無理! お兄ちゃんと一緒にいない未来なんて考えられないから!」


 ドンッと机が叩かれ、カップが揺れる。

 零れそうな紅茶を見ながら、僕は話をつづけた。


「それでもだよ。姉ちゃんたちはたぶん付き合っていくと思う。だからこそ――」

「海はできるの? 海は昔から助けてもらってきたんでしょ? 医者になるのもお姉さんのためなんでしょ?」


 そうだ。 

 僕は姉ちゃんのために勉強を毎日続けてきた。

 昔は姉ちゃんに褒められるのがうれしくてやっていたけど、今は姉ちゃんを楽させてあげたいっておもってやっている。


「……そうだよ」

「だったら!」

「それでももう僕は、変えてかなくちゃいけない気がするんだ」


 姉ちゃんに好きな人がいるのを知ったときから、もう気づいた。

 斉藤さんにシスコンだと言われた時には考えていた。


「僕らは大人にならないといけないんだよ」

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