同じ電車に乗っていた弟妹は大人になりたい。

結城瑠生

第1話 変わりたい2人

「失敗しちゃったじゃん、どうしてくれるの!」


 最寄り駅近くの珈琲の香り漂うレトロな喫茶店。

 放課後、電話で呼び出された僕は、席に着いた瞬間にそう告げられた。


「失敗しちゃったじゃんって言われても」


 姉ちゃんと、斉藤さんのお兄さんを引き裂こうとしていたみたいだけど、僕は前から彼女の作戦には否定的だった。

 事前に「姉ちゃんと付き合わせるために動く」って忠告もしていた。

 僕にとっては彼女の邪魔をできたことは嬉しいんだけどな。


「あの人たちが来なければ、もうちょっとだったのよ!」

「もうちょっとって、途中からゲームをしていただけじゃん」


 駅のホームでお兄さんに抱き着いて、彼女アピールをするという彼女の作戦はことごとく失敗し、電車の中で大人気の引っ張りゲームを4人でしていたくらいだ。


 その後に姉ちゃんたちの友達がきて、姉ちゃんたちは別の駅で降ろされた。

 ゲームの途中で抱き着くなんてことはできたかもしれないけど、どこがもうちょっとなんだろう。


「もうちょっとだったの! あのゲームをクリアしてお兄ちゃんが喜んでるときに「良かったね! 祐介!」って言って抱き着く! それでお兄ちゃんたちの恋はジエンドだったのに!」

「その時でも僕が止めてたよ」


 隣でゲームのことを話していたのは僕だし。

 斉藤さんはずっと姉ちゃんと話していた。

 そんな隙は無かったはずだ。


「それでもよ! どうにかなるはずだったのに! お兄ちゃんったら今日も朝からずっとあの人と連絡してるんだよ!」

「そうなのか?」


 姉ちゃんたちが別の駅で降ろされてからのことは知らないけど、学校から帰ってきた後、普段すぐに部屋に戻ってラノベを読み始めるはずの姉ちゃんは、ニヤニヤしながら玄関先でスマホを見ていた。


 あの場で2人きりになったんだ。

 心配はしていたけど、ようやく姉ちゃんたち話せたんだな。


「そうなの! 監視カメラでもずっと見てたけど、どうやって返事返そうか悩んでるくらいなんだもん」

「監視カメラはヤバいだろ!」


 お兄さんに何をしてるんだよ。


「全然ヤバくないよ。これが普通なの! お兄ちゃんがいる人は全員やってることなんだから」

「そうなのか?」

「そうなの!」


 髪を触る斉藤さん。

 その仕草を見てすぐにわかった。


 これは嘘だ。


 何日か会って話したけど、嘘を吐く時に彼女は髪を触る。

 お姉ちゃんやお兄ちゃんという人はブラコンやシスコンが多いという記事も彼女が作ったデタラメなことは分かってる。

 もう騙されないぞ!


「そうだ、今回はそんなことじゃなくて、次の作戦だよ!」


 忘れてたと言って、彼女は鞄から一冊のノーツを取り出した。


「作戦ノートか」

「そう、今回もやるよ!」

「もう無理じゃないか?」


 メッセージを送り合っているくらいだ。

 もう仲を引き裂くのは無理だと思うけど。


「それでもやるの!」


 まだ諦めていないんだろう。そう言った斉藤さんは真剣な目をしていた。

 ああ、ほんとどうしたらいいんだろう。

 姉ちゃんとお兄さんが話し始めた今、彼女は諦めきれず、どんどん無茶なことをしていくだろう。

 姉ちゃんの前でキスをするとかやりかねない。

本当にそれだけお兄さんのことが好きなんだ。

 そして俺は、そんな彼女を――


「……なぁ、斉藤さん、一緒に卒業しないか?」

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