27話 妖精だと思ったか残念だったな
実は他のメンバーには言った事は無いけれど一度だけ妖精郷へ行った事がある。
エルフは家族愛が非常に強いと聞いていた俺はファルシアを仲間にした際に、無理を言って連れて行ってもらった。
ご両親へ大事な娘さんを預からせて欲しいと直接言いに行ったのだ。
その際に妖精郷はどんな場所かと国王であるアレスに聞かれた際には答えに窮したよ。
なんでかって?。
そりゃあ決まってる。
「会いたかったぜぇ! チャンピオン!」
妖精郷なんて誰がつけたんだよ。
どう見ても修羅の国なんだよなぁ。
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時は少し遡る。
「到着しま......したわ。レオスさ......レオス」
辿々しく言い直し続けるファルシア。
何故こんな事になったかと言うと単純な話しで『恋人のフリ』に慣れるためだったけど......長年、染み付いた癖を治すのは難しいよね。
ここに来るまでの間に治そうと努力はしたけれど結果はコレだ。
最初は自分の敬語にも気づかない事もあったぐらいだからコレでも成長の跡が見られる。
そんな状態のファルシアに目隠しをされて連れてこられたのはダンジョンの入り口のような洞窟に隠された転移陣の前だった。
「レ、レオス。準備は良い?」
あぁ、大丈夫だ。
目隠しを外されてファルシアと共に転移陣の上に乗る。
眩い光に包まれて少しの浮遊感を感じた後に足の裏に感じたのは豊かな植物の感触。
目の前に広がるのは広大な森とそびえ立つ巨大な樹木。
その根本から広がる集落は自然との調和を第一として発展しているにが遠目からでもみて取れた。
「帰ってきました......来てしまいました」
ファルシアの絞り出すような声が僅かに聞こえた。
その気持ちは十分に分かる。何故かって? それは。
「ファルシア様! 帰られたのですね!」
微かに木々が揺れて木の葉が落ちると共に俺達に前に複数の影が落ちてきた。
「それに隣に居るのは......レオス様でしたか!」
転移陣の反応に気付いて駆けつけたのだろう、憎たらしい程に顔の整った美形の青年達に囲まれた。
その全員が弓や剣を携えて、隙のない立ち振る舞いをしている。
もし、この場で俺が暴れてもすぐに対応してくるだろうな。
「はい、ご苦労様です。すぐに郷へ入りたいので護衛は不要、警邏の職務へ戻ってください」
「はい、承りました!。ですがその前に......」
あぁファルシアの威光でも防げなかったな。
「チャンピオンと手合わせを願いたい!」
その場の全員の顔が変わる。
目は血走り呼吸は荒くなり始める。後ろでは剣を舐め始めるヤバい奴が出始めた。
空気が変わり、俺いつでも剣を抜けるように柄へ手を添えて相手の出方を待つ。
もしかしたら奇跡が起きて何事もない可能も。
「ヒャハー! もう我慢出来ねぇ! 『武闘祭』前の前夜祭だぁ!」
無いよね!。
飛びかかってきたエルフの青年達を即座に蹴り飛ばしながら頭を抱えるファルシアへ声をかける。
ファルシアは下がっててくれ、コイツらの相手は『チャンピオン』である俺の役目らしいからな!。
「もう! だから帰りたくなかったのに!」
ファルシアの慟哭を後ろで聞きながら次々に襲いかかるエルフ達を傷つけないように気を遣いながら対処していく。
高速で射られた矢は剣で弾き落とし、剣で斬りかかられたら避けて投げ飛ばす。
幸いな事に実力はあるけれど経験が浅いおかげで余裕を持って対応出来る。
そう思い、少しだけ気を緩めた時だった。
背筋が凍る、完全に無意識で体が回避行動をとっていた。
急激に切り替わる視界の端に先程までとは質が違う矢が、背後にあった樹木を貫通して突き進んでいるのが見えた。
「まさか今のを避けたのですか、意識の隙間を突いたはずですが」
すぐに体勢を整えて周りを見渡すと、森の中に涼やかな声が響いた。
その声を聞いた青年達は闘志を収めて姿勢を正した。
こりゃあ面倒なのが来たな。
記憶の片隅で蘇る声に辟易すると声の主が巨大な木の上から姿を現した。
陽の光で輝きをます金色の髪、俺を柔らかな目で見下ろす碧眼の瞳。
顔は青年達と同様に王都ならハーレムという夢のような空間を作れそうなほどに整っている......羨ましい。
「みなさん、下がっていてください彼の相手は僕がします」
「ファリクトさん! 私達も......」
青年達が異口同音に言葉を並べるがエルフの青年の『ファリクト』は笑顔を消した。
「テメェら如きがチャンピオンと戦うだなんて贅沢言うんじゃねぇよ......役不足だって言ってるんだ」
顔が変わる。
目は歪み、口は歪に弧を描いて笑う。
全方位に撒き散らされる殺気に青年達は顔を青くして後退ることしかできない。
「それで良い」
弓を背中へ背負い直して木の上から飛び降りてきた。
「会いたかったぜぇ! チャンピオン!」
......4年ぶりだな。
かつての光景のように対峙する俺とファリクト。
一触即発の空気の中で、俺と視界の端で蹲って頭を抱えたファルシアの気持ちはひとつだった。
「ひひひ、エルフの血が騒ぐぜぇ」
とりあえず......ナイフを舐めるのは止めようね。
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