28話 キュ!とすれば意識飛ぶ
「ヒャハー!」
ファリクトが突き出したナイフが頬を掠める。
コレで何度目だろうか、どうにも避け切れずに身体中に無数の切り傷を作りながら相手の攻撃に対処し続けていた。
「ほらほら、どうしたチャンピオン! 腕が鈍ったんじゃないか?」
好き勝手言いやがって......テメェの綺麗なツラを潰さねぇように気を使ってやってんだよ!。
「そりゃ余計なお世話をどうも!」
凶悪な顔を浮かべながらも額に青筋を浮かべたファリクト。
売り言葉に釣られたのか僅かに突きの予備動作が大きくなった。
それを好機と一歩先に踏み出して距離を詰めた。それに構わずにファリクトはナイフを突き出してくるが掌で受け止めて拳を握る。
掌から血が吹き出して激痛が走るが、そんな事はどうでも良い。
目の前の美形を殴るチャンスを捨ててたまるか。
イケメンは潰れろ!。
ナイフごと拳を硬く握りファリクトの顔を全力で殴りつけた。
音を置き去りにした一撃が直撃したファリクトは歯と血を吐き出しながら吹き飛んだ。
ナイフを引き抜き、追撃をしようと地面を踏み込んだ瞬間に足と肩に痛みが走る。
「この痛み......懐かしいなぁ前回の決勝戦での殴り合いを思い出したぜぇ」
口に残った血反吐と欠けた歯を吐き出しながら立ち上がるファリクトの手には弓が握られ、俺の体には矢が突き刺さっていた。
あの吹き飛ぶ一瞬で矢を射ったのか......さすがエルフだな。
「チャンピオンの拳も重すぎだ、僕じゃなかったら首が吹き飛ばされてたぜ......あぁ楽しいなぁチャンピオン!」
チッ、そのまま意識も吹き飛べば良かったのに。
「そんな連れない事言うなよ! 僕もキミもまだまだ動けるだろ! さぁ来いよ! 来ないなら......」
ファリクトが魔力で矢を作り出して弓へ番えた。
「マロの実のようにしてやるぜ!」
エルフ特製の強弓から放たれる矢は風を切り裂き、瞬く間に獲物である俺へと一直線に向かってきた。
クソ! 栗は好きだけど食べ専なんだよ!。
飛来する矢を交わしながら木々の合間を隠れながらファリクトの元へと近づいていく。
それを見通しているのかファリクトとの距離は一向に縮まらない。
遠距離の攻撃手段を持たない俺と近接武器を失ったファリクト。
お互いに決めてを欠いて硬直した戦況にファリクトが痺れを切らして叫ぶ。
「その腰にぶら下げてる剣は飾りか! その粗末なモノを引き抜けよ!」
血の気が引いた。
まさか頭までモヒカンになったんじゃ無いだろうな!。
バカ! 軽率な下ネタは......。
「あっ」
まずは足を絡め取られた。
待て! 俺は関係ないって!。
次は腕と胴体を。
目の前の木々が不気味に蠢き高速で蔦を鞭のように振り回していた。
手足に絡みついているのは植物の蔦だ。
あのダンジョンの時とは比べる事も出来ない強度、一度捕まったら普通の手段では抜け出す事はおろか手足を動かす事も出来ない。
「何か言い残すことはありますか?」
声が響く。
アレほど後ろで騒がしかったエルフ達も声の主から全力で距離を取り始めている。
ファリクトもテンションが上がりすぎていて失念したのか、あまりの恐ろしさに修羅からチワワにジョブチェンジしていた。
まぁそうなるよね。
その点、俺は変な事を口走ってないし安心だ......何故か俺も拘束されてるけど。
「帰ってきて早々にレオス様......レオスに闘いを挑んだ事は許し難いですがそこはエルフの悪癖と言うことで目を瞑りましょう」
「はっはい、感謝します !ファルシア様」
ですが。
ファルシアの言葉が死神の鎌としてファリクトの首へと添えられる。
「仮にも警備隊のトップである貴方が品のない言葉を使うなどと、恥を知りなさい」
「どっどうかお赦しをファルシア様!」
急にファルシアの背後に後光が差した。
浮かべた微笑みと相まって女神にも思える。
やっぱり女神は止めておこう......あんなのと一緒にしたら失礼だ。
「ギルティ」
ですよね。
キュ!。
思わず可愛らしい効果音を付けてしまったけど、知覚が難しい程の速度で窒息寸前まで首を締め付けられたファリクトは抵抗を許されずに意識を刈り取られた。
白目を剥いて恐怖の表情のままで植物に吊るされているのを見ると、世紀末妖精伝のファリクトでも可哀想に思えてくるから不思議だね。
それよりファルシアさん? そろそろ下ろしてほしいなぁ、なんか拘束が強くなってる気がするんだけど。
「レオス様! お戯れがすぎます!」
いやあのファルシアさん? 拘束が、拘束が!。
「ただの手合わせで右手の掌に穴を開ける必要はありませんよね!」
ファルシアさん......。
「ですので喧嘩両成敗です!」
キュ!。
あっ。
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