第17話 1.3.1 四等分のVtuber候補

 俺は化学の勉強をしていた。


 参考書ルートはとってもやさしいシリーズ→宇宙一わかりやすいシリーズ→エクセル→重要問題集だ。


 化学は理論、無機、有機に分かれている。


 理論は計算、無機・有機は暗記の側面が強い。


 ちなみに俺の苦手科目だ。


 とってもやさしいシリーズは初学者向けの入門的な参考書だ。


 宇宙一わかりやすいシリーズは解説とイラストが豊富で分かりやすい。


 ただ分厚いのがデメリットだ。


 エクセルは網羅的な問題集で正直何を使ってもいい。


 重要問題集は応用問題を解くために使う。


 ☆


 1時間ほどで打ち合わせは終わった。


「今日は遅れて本当にすみませんでした。改めて私は北条凜音役優木レオナです。よろしくお願いします」


「初日から遅刻なんて何を考えてるんですか。たるんでいる証拠です。自分の仕事に責任を持ちなさい」


「まあまあ、凛央ちゃん。お説教はそれぐらいにしてあげて。レオナちゃんも反省してるみたいだから許してあげようよ」


 支倉さんが怒っている黒川さんをなだめていた。


「和歌は甘いです。でも和歌に免じて許します。次からは気をつけなさい」


「はい……」


「今、お小言を言っていたのが高嶋愛花役の黒川凛央で私が成瀬唯役の支倉和歌だよ。よろしくね」


「神田涼奈役高坂琴音です。よろしくお願いします」


「神田絢奈役高坂朱音だよ。レオナちゃんよろしくね」


「上田佳奈役桐原冬湖です。同じ新人同士仲良くしましょうね」


「ふん、私は倉橋ルリ役水原天衣よ。よく覚えておきなさい、庶民」


 桐原さんが水原さんをチョップする。


「こらっ天衣!!またツンデレ要素出さない」


「だ、誰がツンデレか!!」


「ごめんね、この子ツンデレだけど中身はいい子だから仲良くしてあげてね」


「ふん、どーしてもと言うなら仲良くしてあげてもいいわよ」


 見事なツンデレだった。


「はじめまして。原田樹役天王寺麻衣です。……な、なんちゃって、てへっ」


「ま、麻衣〜」


 優木さんが天王寺さんに抱きつく。


「ごめんね、レオナちゃん。私が起こしにいってあげたら良かったかな」


「ううん。麻衣のせいじゃないよ。私がいつもみたいにドジしたのが原因だから……」


「つかぬことをお聞きしますが」


「お2人は知り合いなの?」


「うん、私たち親友なんだ」


「このキミキセのオーディションも麻衣が誘ってくれたんだ。麻衣はいつも私のドジをフォローしてくれるんだ」


「へー、2人は仲良しさんなんだね」


「私が小泉詩音役七瀬カレンだよ。一緒に楽しい現場にしようね」


「七瀬カレンさん……!?本物……!?」


「うん、正真正銘、七瀬カレンだよ」


「ファンです!!握手してください!!」


「え?私のファン?私ってやっぱり人気者なんだ……。ふふ嬉しい。あ、全然OKだよ」


「ありがとうございます」


 新人アイドル声優の6人は歳が近かったためすぐ打ち解けた。


 LINE交換を済ませた6人は名残惜しそうに別れた。


 俺たちは新幹線で関西に帰った。


 ☆


 夏休み。


 俺は学校がないので毎日15時間勉強をしていた。


 そんなある日、電話が鳴った。


「光介、元気ー?」


「ああ、元気だぞ」


 京からだった。


「明日って何か用事ある?」


「え?勉強しなければいけないけど……」


「あー、暇なんだね。じゃあ明日事務所に来てね。会わせたい人がいるんだ」


「お、おい。俺には勉強という用事があるんだが!?」


「じゃあ明日よろしくね。バーイ」


 京は俺の言葉を聞かず電話を切ってしまった。


 ☆


 翌日。


 俺は事務所の社長室の前にいた。


 ドアをノックする。


「はーい。入っていいよ」


「失礼します」


 社長室には京の他に壮年くらいの男性がいた。


 ダンディな雰囲気でいわゆるイケオジだった。


「よく来たね。光介。光介に来てもらったのは他でもない星野プロの新規事業に関わってほしいからだ」


「新規事業?」


「ああ、VTuber部門だ。星野プロも本格的にVTuber部門に取り組むことになった。君にはそれのマネージャーをしてほしい」


「ええ……。俺には時間がないんだが」


「もちろん報酬はある」


「報酬?」


「VTuberとしてYouTube登録者100万人を達成したら1人あたり50億円を出すとこの水瀬さんが言っている。4人いるから合計で200億円だね」


 200億円!?


 これならシトラス症候群の研究資金になるじゃないか。


 ちょっと待て……。


 水瀬ってもしかしてあの……?


「お初にお目にかかる。私は水瀬源治みなせげんじだ。一応医者で水瀬総合病院の理事長、加えて水瀬財団の理事長、水瀬研究所の所長だ」


 やっぱり水瀬研究所!!


 水瀬研究所は難病の研究解明を行っており、シトラス症候群の研究は国内のトップクラスの水準だった。


「今回、私の娘たちがVTuberになりたいと言っていてね。姫川君に相談したところちょうどVTuber事業を始めたいらしいじゃないか。これも何かの縁だと思って姫川君にお世話になることを決めたんだ」


「どうかな、光介。マネージャーになってくれる気になったかな」


「調べたところ君はシトラス症候群の研究医志望らしいじゃないか。もし娘たち全員のYoutube登録者数100万人を達成したら君を水瀬研究所の研究医として雇ってもいいと考えている」


「なんでそんなに俺のこと期待してくれるんですか……。ただの学生ですよ」


「君は真面目で誠実、成績優秀、さらに好青年ときたものだ。君になら娘を任せてもいいと思っている」


「買い被りすぎですよ」


 俺にとってはメリットしかなかった。


 将来、水瀬研究所に就職することが約束されておまけに200億円という大金が手に入るときたものだ。


 4人全員100万人達成してやろう!!


 そう決意した。


「ここで私の娘たちを紹介しよう。おーい、入ってきてくれ」


 そこに入ってきたのはーー。


「ええええ!?空音そらね先輩!?」


「光介君!?本当に光介君なの!?」



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