第12話 1.2.5 3次選考

 6月中旬。


 俺たちはキミキセのアイドル声優オーディションの結果通知のメールを待っていた。


 正午。メールが来た。


「お兄ちゃん、いよいよですね……」


「私、緊張しすぎて心臓バックバックだよー」


「……開くぞ」


 俺はPCでメールをクリックする。


 その中身はーー。


「2次選考通過!!おめでとう!!」


「やったああ!!」


「合格?本当に合格なんですか?夢じゃない?」


「琴音、これは現実だぞ。よくやったな」


「嬉しい……嬉しいです、お兄ちゃん」


 琴音は嬉しさのあまり泣いていた。


「おいおい、泣くのはまだ早いだろー。まだ2次選考だぞ」


 2次選考を無事に通過できて良かった、そう思った。


 数日後。


 また関西に仕事でやってきた七瀬カレンに指導を受けていた。


「2人とも2次選考通過おめでとう!!」


「ありがとうございます」


「テンキューカレンちゃん」


「でもまだ3次選考、最終選考が残ってるから気合い入れて指導していくよ」


「はい」


「はーい」


 それからまた七瀬カレンによる指導が始まった。


「琴音ちゃん、そこはもっと登場人物の心情に寄り添うようにして」


「はい」


「朱音ちゃん、そこは間を意識して」


「はーい」


「……もう時間か。2人とも1回目に比べたら格段に良くなってると思う。自信持っていいと思うよ」


「本当ですか。ありがとうございます」


「ありがとう、カレンちゃん」


「次はグループディスカッションだったね。頑張ってね」


「はい」


「はーい」


 ☆


 6月下旬。


 俺たちは3次選考のため東京に来ていた。


 東京の会場には志願者たちがすでに集まっていた。


「ここ、隣いいですか?」


「いいですよ。……あなたたちもキミキセのオーディションの?」


「はい、志願者です」


「ちなみに何役を狙ってますか?」


神田かんだ涼奈です。」


「神田絢奈です。」


「2人ってもしかして双子?」


「はい、そうです」


「通りで似ていると思った。……自己紹介がまだでしたね。私は上田佳奈うえだかな役志望の桐原冬湖きりはらとうこです」


 佳奈は詩音の後輩で涼奈と絢奈の同級生という設定である。


「私は高坂琴音です。よろしくお願いします」


「私は高坂朱音だよー。よろしく」


「ちょっと朱音、初対面の人にタメ口ってどうなの?失礼でしょ」


「あはは、私は気にしてないから大丈夫だよ」


 桐原さんと雑談していると2人の順番になった。奇跡が起こった。


 なんと3人とも同じグループだったのである。


「冬湖ちゃんと一緒なら少し緊張が和らぐよー」


 朱音は桐原さんのことを冬湖ちゃんと呼ぶほど懐いていた。


「桐原さんはあまり緊張していないように見えますね」


「そうかな?これでも内心バックバックだよ」


「Dグループの皆さん、お入りください」


 Dグループ、3人のグループだ。


「「「はいっ」」」


「まず、なぜ今回のオーディションに応募したのか理由をお聞きします。まずは桐原さん、お願いします」


「はいっ。私は小さい頃から劇団に参加してました。だから自分にとって演技は身近なものでした。今回のアイドル声優でもその経験を生かせるのではないかと思い応募させてもらいました」


「ありがとうございます。次は高坂琴音さん、お願いします」


「はいっ。私は小さい頃からアイドルに憧れていました。だから自分も画面の中のアイドルのように輝きたいと思っていました。今回のアイドル声優はアニメとアイドルが好きな自分にとって天職だと思い応募させてもらいました」


「ありがとうございます。次は高坂朱音さん、お願いします」


「はいっ。私は小泉詩音役の声優七瀬カレンに憧れていました。実際に会ったときは嬉しかったです。七瀬カレンから実戦的な指導を受けた私たちならアイドル声優になれると思い応募させてもらいました」


「ありがとうございます。次の質問に移ります。次の質問はーー」


 グループディスカッションは15分ほどで終わった。


「お待たせしました、お兄ちゃん」


「お待たせ、お兄!!」


「2人ともお疲れ様。出来はどうだった?」


「まずまずですかね」


「パーフェクトさ、お兄」


「それは良かった」


 桐原さんも女性マネージャーと話していた。


 桐原さんと連絡先を交換した2人は名残惜しそうに別れた。


 俺たちは新幹線で関西に帰った。






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