第4話 1.1.3 タイムリープ

 4月上旬。今日は椿台つばきだい高校の入学式だった。椿台高校は昨年まで女子高だった。

 今年、共学になったばかりの高校で女子率9割を越える。


 なぜ元女子高に入学したかというと家から近かったことと特待生制度があるからだ。うちは4人兄弟で決して裕福ではないから特待生となることで家計の助けになればと思ったからである。結果としては首席で合格という余裕で特待生になることができた。首席だったので入学式の新入生挨拶は俺だった。なのて決してハーレムを作りたいという理由で元女子高に入学したわけではない。(少しはモテたいという気持ちはあったが)


 ☆


 4月の桜舞い散るある日。俺は自覚した。タイムリープして人生2度目であることを。俺はタイムリープする前は30歳だった。仕事は公務員をしていた。俺には世界一可愛いお嫁さんがいた。直奈だ。そう幼稚園時代の初恋の相手で俺の今の彼女直奈ちゃんだ。タイムリープする前も付き合っていて結婚してるなんて運命としか言いようがない。


 これはタイムリープする前の話だ。


「ただいまー」


 俺は残業から帰ってきた。


「おかえりなさい、光介君」


 俺たちはおかえりのキスをする。子供はいないがそれでも充分すぎるくらい幸せな時間。思い返せばこの時期が幸せの絶頂期だったと思う。家に帰れば大好きなお嫁さんの手料理が食べられる。これを幸せと言わずに何を幸せと呼べばいいだろう。


「今日もお仕事お疲れ様」


「直奈も家事ありがとね」


 ちなみに直奈は専業主婦である。料理を食べた後、俺たちは一緒に風呂に入る。身体洗いあっこである。背中に幸せな柔らかい感触があった。直奈と混浴というだけで俺のものはいきり立ってしまうのにさらに元気になってしまう。


「光介君、気持ちいい?」


「気持ちいい、気持ちいいよ、直奈」


「あ、大きくなってる。……今度は私の胸で挟んであげる」


 もう俺は我慢の限界だった。結局、俺たちは風呂で2回戦した。


 風呂から上がった後、俺たちはベッドで抱きついていた。ハグである。このセックスをした後に添い寝するというのが日課になっていた。ギューと抱きつくととても安心できた。俺たちはどちらからともなく深い深いキスをする。


「おやすみ、光介君」


「おやすみ、直奈」


 こうして俺たちは幸せな日常を過ごしていた。


 ☆


 それは突然だった。直奈が倒れたのである。最初は単なる貧血だろうと思って小さな病院に行った。そこでさらに精密検査が必要だということで大きな病院を紹介された。話があるということで先生に俺だけ呼ばれた。


「落ち着いて聞いてください。奥さんの病気はシトラス症候群です」


「シトラス症候群?」


 聞いた事のない病名だ。


「シトラス症候群は治療法の発見されてない難病です。多くの場合、死に至ります」


「そんな……」


「余命は2年半といったところでしょうか」


 目の前が真っ暗になったような心地だ。これが絶望というやつだろうか。


「このことを奥さんに伝えるかはよく考えてお決め下さい」


 俺は1週間考えた後、伝えることにした。シトラス症候群という難病だったこと、余命2年半だということを伝えた。


「うーん、実感湧かないかも。いきなり余命2年半って言われても」


「そうだよな、平気か」


「私は元気だよ……そうだあれ作ろっかな」


「あれ?」


「やりたいことノート。やりたいことをノートに書いて達成したら消していくの」


「いいんじゃないか」


 この2年半は濃い2年半になった。一緒にゲームする、一緒にアニメを見る、いってらっしゃいとおかえりのキスをする、手料理を俺に食べてもらうなど小さなことからスカイダイビング、世界一周旅行、宇宙旅行など大きなこともした。


 最期は病室だった。俺たちはずっと手を繋いでいた。


「最期だから言うね……。私はあなたと出会えて幸せでした。本当にありがとう」


 この後、直奈は息を引き取った。


 俺はとても後悔した。自分にはもっと直奈のために何かできたのではないかと自分を責めた。そんな、自分を責める日々の中、俺はあるサイトに出会った。タイムリープについて書かれていたサイトだった。最初は半信半疑だったがサイトに書いてある手順を踏むと実際に意識が薄れていくのが実感できた。


 俺は決めた。タイムリープして今度は俺が医者になってシトラス症候群の治療法を見つけるのだ。今度は直奈を死なせない。絶対にだ。


 こうして俺はタイムリープを成功させて今に至る。ネットで調べたところ研究医になるには医学部6年大学院4年に通わなければならないらしい。志望校は東都とうと大学医学部である。

 なぜ東都大学かというと特待生制度があったこととシトラス症候群に対する研究が最も先進的な大学だったからだ。勉強を頑張るしかないと決意をした。


 今度は同じ過ちを繰り返さない。


 絶対に直奈ちゃんを救ってみせる。


 自分の手で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る