第48話 誘拐事件 終
「君とはずっと喋ってみたいと思っていた。だが、その前にマリンを助けてくれた事に礼を言わせてくれ」
領主様が、俺に対してお辞儀をしてるなんて、ネルさんは信じないだろうな。
「顔を上げてくれたまえ。子供と平和を守るのは我輩の務めである。お礼が欲しくてやってる訳ではないのである」
まあ、お礼されたらメッチャ嬉しいけどね。
『そうなのよカースおじ様!黒仮面のおじちゃんは、朝にも溺れてるマリンを助けてくれたの!だからマリンもお礼をしたかったなの!』
マリンちゃん……ええ娘やな。
「ふふふ、マリンはすっかり黒仮面卿のファンだね。それにしても君は不思議な存在だ。もし良ければ、顔を見せては貰えないかな?無理にとは言わないが」
「すまないが、それは我輩のポリシーに反してしまう。ヒーローは正体を隠しておかなければいけないのである。我輩の子供じみた考えを許してくれ、領主殿……」
最近は正体をバラすのが主流らしいがな!
俺は昔ながらのヒーローが好きなんだよ!
「いや、こちらこそ済まなかった。君を困らせてしまったね。だが君は、帝都だけで活動していると思っていたよ。今日ここに来たのは偶々かな?」
こ、この領主様、俺の正体を探りに来てるじゃ無いか!
「ふむ、マリンちゃんの助けを求める声が聞こえた……と、言う事にしといて貰えるか、領主殿……」
「ハハハ!それを言われたら、これ以上聞くのは野暮ってものだね。[死伯爵]や[神公爵]の当主達が、えらく君を気に入っていたが……私もその一人になりそうだよ」
ええー?なんで知らない間にそんな貴族に気に入られてるの?
どっかで会ったかな?
「我輩に、その様な大物と接点を持った記憶は無いのであるが?」
「君は知らなくて当然さ。三年前の魔導機空戦アンフュスバエナの墜落事故を覚えているかい?あの乗客の中に居たんだよ、その二人もね」
なるほどね。
まぁ、だから何だって話だけども。
「納得した。だが、我輩はそれを理由に恩を着せるつもりは無いのである。それをするなら、マリンちゃんにも恩着せないといけなくなるからな」
『マリン、黒仮面のおじちゃんになら、いくらでもお礼するの!あのね、マリンの宝物のブルーゴブリンのお人形さんをあげるの!』
おおぅ……。随分と渋い趣味してるねマリンちゃん。
「いいんのである、マリンちゃん。それはマリンちゃんの宝物なんだから、しっかり持っておくのである」
「本当にいいのかい?ブルーゴブリンの人形は全てアダマンタイトで出来てるから、売れば金貨百枚はくだらないよ?」
な、なにぃ!やっぱりくれ!
「そそそそれでもである!我輩は子供から対価を貰ったりはしないのである。さて、長々と話し過ぎた。これで失礼させて貰う、領主殿。マリンちゃんもな」
俺はそう言って、宙に浮かび始めた。
「此度の事は、いくら感謝してもし足りない。何かあれば私を訪ねてくるとよい。きっと力になると約束しよう。それに君とはまた会えそうな気がするよ」
貴族の相手は大変だけど、縁は大切にするか。
「分かった、何かあれば頼らせて貰うとするのである。それと領主殿に言い忘れていた事があるのである。賊の中に明らかにレベルの違う二人組が紛れ込んでいたのである。」
あと、誘拐犯の一人が微かに女神教と言っていた様な……。
「ああ、心配してくれてありがとう。だが、大丈夫だ。我が[滅子爵]家に手を出した事を、身をもって味わうことになるだろうさ」
こ、恐い!
「ぞ、賊が気の毒に見えて来たのである。それと賊の一人がこれも言っておった。"女神教"と……。ではさらば!」
俺は更に高く上昇して行く。
『ま、待ってなのー!黒仮面のおじちゃーん!また会えるなのー!?』
マリンちゃんが大声で叫んでくる。
それに俺も大声で返答した。
「勿論なのである!だけどマリンちゃんがいい子にしてればの話であるぞー!」
それが聞こえたのか、マリンちゃんが大きく手を振っているのが見えた。
更にマリンちゃんの後ろから、キャニングさんが全速力で走って来ているのが視界に入って来る。
えがった、えがった。今日はグッスリ眠れそうだな。
俺は帝国ホテルに帰るべく、全速力で飛び続けた。
「いやー、すっかり遅くなっちゃったなー。あの二人が怒ってないといいんだけど。まぁ、書き置きもしたし、大丈夫だろ!」
ふーんふんふーん♪いやー、やっぱいい事するとテンションあがっちゃうよねー!ふんふふっふふ♪
上機嫌のまま暫く飛び続けると、領都の明かりが見えて来た。
領都カースティに着いた俺は、誰もいない事を確認してから、変身を解除して帝国ホテルの前に着地する。
ホテルのロビーに入ると、入り口に設置されているソファーに、
(やややややばい!し、死ぬ!いや、殺される!)
俺は悪魔と夜叉に気づかれない様に、そーっと通り過ぎ様としたが、神はそれを許さなかった。
『お帰りなさいませ!お客様!晩御飯の準備が出来ております!宜しければどうぞ!』
ば、馬鹿!だ、黙って!今じゃ……ひ、ひぇ!
俺の肩をすんごい力で掴む二つの手が、俺が最後に見た光景だった。
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