第47話 誘拐事件 2


  俺が森の中にある、誘拐犯の拠点に辿り着くと、三人の見張りが洞窟の入り口に陣取っていた。


 「間違いないな…。ここにマリンちゃんがいる。見張りが三人か……騒ぎにならない様にスマートに行くか」


 俺は上空から三人の背後を取り、すみやかに気絶させる。


 「ふぅ、案外弱くて助かったな。マリンちゃんの命が掛かってるからな、今回はお遊びは無しだ」


 俺は音を立てずに拠点の中に入って行く。


 勿論、透視を使って、中の様子を見るのを忘れない。

 

 「部屋にいるのは……喋ってるのが三人に、武器の手入れをしてるのが二人か。……更に奥の部屋にもいるな」


 電話してる男が二人に……小さな女の子が一人いるな。


 って、やっぱり朝に助けた女の子じゃん!

 

 可哀想にな……。

 一日に二回も助けたのはマリンちゃんが初めてだよ。


 俺は久しぶりに本気を出す事にした。


 いつもは回していない魔力を、身体全体に行き渡らせる。


 「久しぶりの全能感だな……。いや、油断せずに行こう。しかし、この白いオーラが立ち昇るのはどうにかならんもんかね。目立ってしょうがないよ」


 魔力を循環させると、俺の身体が薄く発光し、白いオーラが溢れ出す。


 俺はこの状態を[英雄形態ヒーローモード]と呼んでいる。って、今はこんな事を話してる場合じゃないな。


 俺は誘拐犯がたむろしてる部屋のドアをゆっくりと開けるが、オンボロの為、音が鳴ってしまった。


 『おー?どうしたサム。もう交代……って誰だてめぇ!』

 『おい!侵入者だ!手伝え、女神教の……ぐはぁ!』


 俺はすかさず喋っていた三人の内の二人を気絶させる。


 すかさずもう一人にボディブローを撃ったが、ずっと武器の手入れをしていた二人組が横槍を入れて来た。


 『なぜ、黒仮面卿がここにいる?』

 『知るかよ。女神様の思し召しってやつかもな』


 今の、この状態の俺に、多少なりとも反応できるか……。


 明らかに他とはレベルが違うな。


 そんな事を考えてる間に誘拐犯の一人が奥に逃げてしまった。


 何をやってるんだ俺は!


 

 「お前らそこを退くがいい……。今の我輩は少々乱暴だぞ?」


 『それは出来ないな。我々にも事情がある。固有魔法![英雄憑依ザ・サーヴァント]


『ま、そう言う事だ。悪いな黒仮面卿。[英雄憑依ザ・サーヴァント]


 な、何故に同じ固有魔法を使えるんだ。


 いや……。こいつらが何だろうと今は関係ない。


 一瞬で終わらせる!


 『行くぞ黒仮面卿![剣聖乱舞ラプソディー]!』


 剣を構えた男が、凄まじく早い剣筋を息つく暇もなく放って来る。


 俺はそれを紙一重で全て避ける。

 

 その間にもう一人の男からも目を離すことはしない。


 『黒仮面卿!俺も忘れるなよ![天薙の桜槍ソメイヨシノ!』


 槍を持った男の、まるで花びらが散る時の様な、読めない軌道の槍捌きを、俺は余裕を持って回避する。


 『終わりだ![舜命ラ・ビータ!』


 剣を持った男が、恐ろしい程の魔力がこもった剣身を、凄まじい速さで放つ高速の突きを繰り出して来た。


 俺は敢えてそれを身体で受ける。


 俺の身体に負けた剣は、半ばから半分に折れてしまった。


 俺は、呆然としている剣を持った男の頭を掴み、地面に叩きつけて気絶させる。


 『へへへ。話に聞いた以上の化け物だな。お前ホントに人間か?』


 「黙るがよい。小悪党と喋る口を持ち合わせておらんでな」


 そう言った俺は、時が止まったと錯覚するくらいのスピードで槍の男の背後に廻り、頭を掴んで地面に叩きつける。


 ふん、お前らは仲が良さそうだったから、同じ倒し方をしてやったぜ!


 さて、一人逃してしまったからな、俺が来た事はもうバレただろうな。


 「マリンちゃんは……やっぱり人質になってるよ……」


 俺は透視で状況を確認するが、状況はあまりよろしくないな。


 だが行かない訳にはいかないのだ。


 俺は恐る恐るマリンちゃんがいる部屋に向かう。


 奥の部屋に入ると、リーダーっぽい男がマリンちゃんの首にナイフを当てて、抱き抱えてる。


 残りの二人も左右に展開して、俺を囲んでいる。

 

 「貴様等……子供から手を離せ!我輩が来たのだから観念するのである!」



 『キャー!黒仮面のおじちゃーん!マリンを助けに来てくれたのー!早く助けてなのー!』


 お、おう、元気そうでなによりですな。


 「貴様等!そんないたいけな子供に危害を加えようとするなんて……人の心がないのか!」


 『うるせぇ!テメェみたいな化け物に俺等の気持ちが分かってたまるか!いいか、少しでも動いてみろ!このガキをぶっ殺すぞ!』


 『そうだそうだ!早くそこにうつ伏せになれや!仮面野郎が!』


 『テメェさえ来なきゃ、全部上手くいったのによ!ふざけんじゃねぇ!』


 「うるさいのはお前等の方だ。犯罪者の気持ちなど分かりたくもない。特にお前等みたいなのはな」


 俺は持っていた自分の髪の毛一本を、マリンちゃんを捕まえてる男の手に投げる。


 『いってぇー!一体何が……畜生!ナイフが!』


 

 上手くナイフを持っている手に刺さり、男はナイフを落としたようだ。


 この時を逃す俺では無い。


 すぐ様、男に超スピードで近づき、マリンちゃんを掴んでる手を握り潰して、マリンちゃんを奪う。


 『ぐおぉ……手、手が!テメェ!タダで済むと………ぐふぇら!』

 

 『ボ、ボス!て、てめぇ!よくも!』

 

 


 俺はまだ喋っていた男の顎を蹴り、気絶させた。


 『キャー!黒仮面のおじちゃん!マリン、いい子で待ってたのよ!ホントにありがとうなの!』


 「それはそれは!マリンちゃんは偉かったであるなぁ!我輩がすぐにパパとママの所に連れて行くのであるから、安心するのであるぞ!


 『ありがとうなの……でもマリンのせいで、護衛が五人も倒されちゃったの……。マリン……マリン悔しいの……』


 マリンちゃん……。


 「マリンちゃんのせいじゃないのである。全てこのおじさん達が悪いのである。大丈夫……我輩が一人残らず捕まえて、必ず罪を償わせるから。だからマリンちゃんは、その護衛達にちゃんとお別れしてあげるのである」


 マリンちゃんは声を出さずに泣いているようだ。


 俺は逃げ出そうとしていた残りの二人に、ボディブローを喰らわせ、瞬時に意識を奪う。


 後は警魔隊が来るまで待っていれば、事件は解決だな。


 だが、腑に落ち無いことが一つあるな……。


 明らかにあの二人だけ強さが違うのは何故なんだ……。


 普通に考えたら、あっちの二人がボスだろうに。

 この事件にはまだ裏があるかもしれないな……。


 マリンちゃんを抱き抱えたまま、拠点の入り口に出ると、大量の車がライトを光らせながらこっちに向かっているのが見えて来た。


 「マリンちゃん、どうやらお迎えが来たみたいであるぞ?マリンちゃんのパパがいるかも知れないのである」


 『ホントなの!?マリン、パパに会いたいの!ママもいるかしらなの!?みんなにちゃんと謝るのよ!マリン頑張るの!』


 マリンちゃん……ええ子やな……。


 そんな会話していると、いつのまにか大量の車が俺とマリンちゃんを取り囲み、大勢の警魔隊の隊員が降りて来た。

 

 『おい!そこの仮面野郎!マリンお嬢様を離しやがれ!無事に離せば痛い目には合わせないでやる!』


 警魔隊の隊長らしき人が俺に怒鳴ってくる。


 やっぱり帝都以外ではまだまだ知名度がないのかなぁ……。


 ちょっとショックだな。


 『シ、シロガネ隊長!その人は黒仮面卿ですよ!知らないんですか!きっとマリンお嬢様を助けてくれたんですよ!』


 隊長の部下らしき人は俺の事を知ってるみたいだ……。


 俺嬉しい。


 『あーん?誰だそりゃ。有名な犯罪者か?とりあえず捕まえとくか』


 誰が犯罪者だ!


 「まぁ、待ちたまえシロガネ隊長。彼とは私が話そう。君達はその洞窟の中にいる奴等を捕まえて来なさい……。一人残らずな」


 『か、畏まりました!か、カースティル滅子爵様!い、行くぞ副長!』


 『りょ、了解です!お前達も続け!駆け足!』


 突如現れた偉そうな人の指示で、警魔隊の人は全員拠点の中に突撃していった。


 『来てくれたなの!カースおじ様!』


 『ああ、マリン!会いたかったよ!よくぞ無事で……』


 そうか、マリンちゃんのおじさんか……。

 そう言えばさっき、[滅子爵]とか言われてた様な……。


 

 ……まさかの領主様!?

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