第46話 誘拐事件 1


 「なにかとても慌てていた様だが、大丈夫だろうか?」


 「大丈夫じゃない雰囲気でしたけど……僕達、部外者に出来ることはないですよね」


 そうは言ったが、俺の耳には全ての事情が聞こえていた。


 どうやらキャニングさんの娘のマリンと言う子が誘拐されたみたいだな。


 ん?マリン?朝に川で溺れた子もマリンだった様な……。


 偶々同じ名前なだけだよね。


 「そうだね。何も分からない我々が首を突っ込んでも、相手に迷惑がかかるだけさ」

 「そうか……うん、そうだね。僕達も帰ろうか?それとも何処かに行くかい?」


 「そうですね、丁度お昼ご飯の時間ですから、何処かで食べてからホテルに帰りましょうか」

 

 本当なら、今すぐにでも探しに行きたいが……二人もほおってはおけない。

 

 ああ!本当に俺がもう一人欲しいよ!


 [了解しました。スキル:分身を獲得しました]


とか他の物語なら来るんだろうけど……はぁ、そんなに甘くないよな。


 よし、夜中にこっそり抜け出そう。

 明日は一日中休みだ、何とかなるだろう。




♦︎


 

 あの後、手頃な店で昼食を取り、適当にぶらぶらしながらホテルに戻った。


 「ふぅ、やはり慣れない街を歩くのは疲れるね。普段身体を動かさないから余計だよ」

 「僕達は普段、座りっぱなしですからね。グレースさんが羨ましいです。ハハハハハ」

 「やっぱり、適度な運動が大切なんだよ!ご飯が美味しいしね!」


 流石、食いしん坊エルフだな。ひ、ひぃ!殺気が!

 

 「お、俺は疲れたので部屋で休んでますねー。で、では二人ともお元気で」


 俺は金髪の悪魔グレースから逃げる様に部屋に飛び込んだ。


 「ふぅ。……やはりマリンちゃんが心配だな。予定より早いが動こう!何かあったからでは遅いからな!」


 誰か来てもいい様に、書き置きして……と。


 俺は誰にも見られていない事を確認して、窓から飛び降りながら変身する。


 「まずは何処から探そうかな?」


 空高く飛行しながら思考するが、あまりにもノープランな俺だった。


 い、いや!ここは当事者の家族を見張れば情報が得られるじゃないか!


 「流石、俺だな!天才!じゃあ早速行こう!」


 …‥何処に?いやいやいや!コンクール会場にまだいるかもしれないじゃない!


 俺は猛スピードでコンクール会場まで飛翔する。

 飛びながら街を見下ろすと、警魔隊が大量に出動しているのが見える。


 「キャニングさん、偉い人みたいだったからな、権力を使ったに違いないな」


 俺はコンクール会場の屋根に着地して[万能耳]発動させる。


 この耳は全ての会話を聞き分け、遠くの音も聞こえると言う優れものだ。


 俺はいつもより集中して聞いていると、興味深い会話が聞こえて来た。


 『おい、聞いたか?キャニング様のお嬢様を誘拐した犯人から、要求があったらしいぜ』

 『本当か?てか、なんでそんな機密情報をお前が知ってんだよ』

 『それはだな、俺のおじさんが警魔隊のお偉いさんなんだよ。あ、これ内緒な』

 『言わないよ。……で?要求って何だったの?』

 『なんと、金貨五千枚と今回のコンクールに提出された、全ての魔道具だとよ』

 『それは…金貨は何とかなりそうだが、魔道具がなぁ』

 『ああ、だから今犯人と交渉中だとよ。まだまだ時間がかかりそうだって、おじさんが言ってたよ』


ーーーー


 俺の耳に、幾つもの会話が聞こえてきたが、その中の一つに当たりがあった様だ。


 だが今だに、犯人の居場所の情報は無いみたいだな。


 「仕方ない…これだけはやりたくなかったが…。」


 俺は街の中心辺りに飛び、[万能耳]を最大にして街中の声を集める。


 「がが…!頭が割れ…そう…だ。けど……まだ…ま…だ」


 まだ自分の力を制御出来なかった子供の頃に、よく味わった痛みが俺を襲う。


 五分はその苦痛に耐え、探し続けると、街の外の森の中から、犯人と思われる会話が聞こえた気がした。


 「ぷはー!あー痛かった!絶対にやり返す!誘拐犯め!百倍返しだ!」

 

俺はすぐに声の元に向かおうと思ったが、警魔隊に犯人の居場所を書いたメモを渡す事にした。


 「おっ、あそこに丁度よく一人でいるじゃないか。俺だってバレない様に、上から落とすか」


 俺は警魔隊の人がメモを拾ったのを確認してから、猛スピードで森へと飛翔した。


 あの声の反響の仕方からして、洞窟か何かに拠点があるな。

 


 「待ってろ、マリンちゃん!我輩が今、行くからな!」

 

 

 


 

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