第44話 金髪の悪魔と人助け


 「…………モグモグ、バクバク、ムシャムシャ…」

 

  今、俺とネルさんの前には、金髪の悪魔グレースが黙々とホテルの朝食を食べていた。


 「グ、グレースさーん…このホワイトマスクメロン、大好物でしたよね?どうぞお納め下さい…」


 「わ、私の金貨鳥の目玉焼きもあげようじゃないか…。滅多に食べれない幻の一品だぞ…」


 「……ヒョイ、バクバク!ヒョイ…ジュルジュル!」


 あかん!無言で目玉焼きとメロンを奪って食べだしたぞ!


 「ははは…あ、朝からよく食べますねグレースさん…。よっぽどお腹が空いてたんですね…?」


 すると、金髪の悪魔グレースが両手で机を叩いて、勢いよく立ち上がる。


 「クロード!そんなに僕の一日に渡る大冒険を聞きたいのかい!?いいさ!聞かせてあげるよ!確かに僕も、何も聞かずに空港を飛び出したのは悪かったけど……」


 それから長々と、グレースさんの涙涙なみだなみだの冒険譚が始まった。


 長いので要約すると、時間ギリギリに空港に来たグレースさんは、俺達の魔空挺が落ちた事を聞き、場所も聞かずに空港を走って飛び出した。


 なんとか魔空挺を見つけたグレースさんは、その場にいた、魔空挺の調査班に事のあらましを聞いた。


 全員無事だと聞いたグレースさんは、恥ずかしさのあまり、調査班の「送っていく」と言う言葉も聞かず、走りだした。


 森の中に爆走したグレースさんは、当然迷子になり、今日の朝方にようやく領都カースティに着いた…と言う訳だ。


 「ププププ‥…グ、グレース‥君…最高だね…ププ…」


 「ネ、ネルさん…わ、笑ったら…失礼です……プーー!」

 

 すると顔を般若に変えた金髪の悪魔グレースが、呪文の詠唱を始めた。


 「光よ闇よ…神光よ信仰よ…それを全て呑み込む…数億あまたの闇の重りよ…森羅万象しんらばんしょうにいる精霊に形を変え……」


 え!?何故、街中で魔法が使えるんだ!?ま、まさか!


 「ス、ストーップ!グレースさん!ダメですよ!お、落ち着いて…落ち着いて下さーい!」


 「そうだよグレース!私達が悪かった!もう笑わないから、その魔力を鎮めてくれ!」


 すると、少し落ち着きを取り戻したグレースさんは、魔法の行使をやめ、椅子に座り直した。


 「ガルルルルル!…私がどんなに心配したと思っているんだい!…それなのに君達ときたら、楽しそうに朝食なんか食べて!」


 「ご、ごめんなさいグレースさん…。それとそのリングは…」

  

 「私も悪かったよ…グレース。しかしそのリングの持ち出しは厳重に管理されていた筈だが…?」


 グレースさんの右腕には、白いブレスレット風のリングが嵌められていた。


 「ああ、これかい?これは社長に待たされたんだ。社長がこの街のお偉いさんに許可を取ってくれたんだよ…」


 「…なるほど。社長は…いや帝国は、私達にそれ程の価値があると判断したわけだね」


 ん?どう言う事?


 「そう言う事さ…ネルネル。コンクールの後、君達の価値は、止まる事を知らず、上がり続けるだろうね。それに伴い危険も増す…それから君達を守る為に…と、渡されたのさ」


 「成る程…それで護衛のグレースさんが、そのリングを持っていたと言う訳ですか。てっきり、コッソリと持ち出したのかと思いましたよ」


 「そんな危険な事する訳ないだろ…本当にクロードったら。ところで今日の予定はどうなっているんだい?」


 「今日は会場の下見と、担当者との打ち合わせだけだね」


 「そうですね。コンクールが二日後なので、明日は丸一日休みですよ!有名になる前に観光にでも行きましょう!」


 チラッと見ただけでも、噴水やら川やらがあって綺麗だったからなぁ…楽しみだ。


 「そうだね、僕も護衛する身としてはその方が助かるよ。顔が割れると、常に気を張らなきゃならないしね」


 「私もそれでいいよ。さて、先ずは今日の予定を消化してしまおう。早く終わらせれば、早く休めるからね」


 ネルさんのその言葉をキッカケに、俺達は行動を開始した。


 身支度をする為に、一度各々の部屋に戻り、30分後にホテルの入り口で集合する事になった。


 いの一番に身支度を済ませた俺は、ホテルから出て外の空気を吸っていた。


 そこへ大声で助けを求める、女の人の声が聞こえてきた。


 『誰か〜助けて〜!私の娘が川に落ちたの!待っててマリンちゃん!今、ママが行くからね!』


 どうやら観光客の親子が大変な事になっているらしい。


 「見過ごす訳には行かないな…[変身オプタティオ]」


 ネルさんとグレースさんが来るかもしれないが…今はそんな事気にしてる場合じゃないな。


 すぐに親子の所へ飛んで行く。

 どうやら橋の上から誤って落ちたみたいだな。


 「待て!我輩に任せておくが良い!」

 

 今にも飛び降りそうな女性に待ったをかけ、どんどん流されてる幼子を追いかける。


 『きゃー!マ、マ…マー!た、たしゅ…け…』


 「良く頑張った!我輩が来たであるぞ!捕まるがよい!」


 今にも溺れそうな幼子に手を伸ばし、優しく抱き抱える。


 『ケホケホ…あ、ありがとうなの…おじちゃん…』


 また、おじちゃんか…この喋り方が悪いのかな…。


 「うむ、無事でなによりである。これからはママから離れて、勝手をしてはダメであるぞ?」


 『う、うん…ごめんなさいなの…』


 「素直でいい子なのである。さあ、ママの所へ帰ろう」


 俺はたくさんの野次馬と共に待つ、この子の母親の所へゆっくりと降り立ち、呆然としているこの子の母に幼子を渡した。


 『ママ!ご、ごめんなさいなの!ひっ、ひっく…ママー!』

 『馬鹿!マリンの馬鹿!でもよかった!よかったよー…うわーん!』


 お互い抱擁しながら抱き合いながら、大泣きする親子。


 よかったよかった…これにて一件落着って事で。さあ、帰ろ。


 すると突然爆発するかの様な歓声が響いた。


 "うおおぉ!良くやったぞ、兄ちゃん!"

 "バッカお前、あれが黒仮面卿だよ!"

 "マジかよ!初めてみたぜ!最高だぜアンタ!"

 "帝都はどうしたー!引っ越したのかー!?"

 "そりゃいいな!これから頼むぜー!"

 "朝から運がいっスね私!取材させて下さいっス!"

 "この言いたい事も言えない世界についてどう思いますか!ポイズン!"


 ヤベ、そりゃあ突然、帝都以外にいたら変に思うよな…まぁ、いいや…帰ろ。


「諸君!今日も一日、平和と子供を大切に!」


 『おじちゃん〜!ありがとうなの〜!』

 『本当にありがとうございます!必ずお礼します!』


 飛び立つ俺の背に、助けた親子の声が聞こえたが…もう会う事はないだろうな…。


 ヤバ!早く戻らなきゃ!また金髪の悪魔グレースが暴れかねないぞ!


 あーもう!俺がもう一人欲しいよ!



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る