第43話 到着


 「全く!トイレで気絶してるなんて!私は情けないよクロード!」


 「たはは…面目次第もございません…。」


 今、俺達は[滅子爵]領の空港から来た、迎えの機甲バスに乗って、領都カースティに向かっていた。


 『せやでクロード、オレ等もメッチャ探したっちゅうねん…なぁフローラ?』


 『そうだよクロード!危うく魔空挺を全焼させてでも探す所だったよ!』


 それ死んじゃう!本末転倒とはその事!

 

 「すいません!本当にすいません!ネーロンさんもフローラさんも、ご心配をお掛けしました!でも元はと言えばネルさんが部屋にいなか…」


 「言い訳しないの!クロードの馬鹿!」


 そんな理不尽な!いや、婆ちゃんが言ってた…女の子に正論は危険だと…。

 危ない所だった…ありがとう婆ちゃん。


俺は魔空挺を降ろした後、猛スピードで空高く消えたのちに、そのままUターンして魔空挺に戻った。


 (皆んなデッキに出てたから、爆発して穴が空いた所から入れたので助かったな)


 「それより、ネルさんがお二人と知り合いなのが驚きでしたよ。どうゆう関係なんですか?」


 「ん?タダの飲み仲間やで。なぁネルネルはん?」


 「…ああ、私の行きつけのBarで偶然知り合ってね。それから偶に飲む機会に恵まれたのさ」


 なる程なー、世間は狭いな。


 「ネルさんの交友関係なんて全く知りませんでしたからねー、なんか新鮮な感じがします。あっ!領都のカースティが見えてきましたよ!」


 窓から顔を出すと、帝都バラクーダ程ではないが、円形の壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。


 『クロード!顔なんか出したら危ないじゃないか!ほらちゃんと座りなさい!全くもう!』


 ご、ごめんなさい、フローラさん!

 

 「ふふふ…まるでお母さんみたいだぞ、フローラさん…いやフローラ。クロードもちゃんとしないとまた気絶するハメになるぞ?」


 しませんよ!


 『ネルネル!私はまだお母さんなんて呼ばれる歳ではない!ネルネルの方が私より、三つも上じゃないか!』


 「いやいや、若いクロードを随分気にしているから、母性本能に目覚めたのかなと思っただけだよ……フローラ」

 

 ひ、ひぇ〜!目線から火花が散ってるよ!

 やめてー!美人でクールで優しい二人に戻ってー!


 『ははは、クロードも厄介な女二人に挟まれて、ご苦労なこっちゃな。あーゆタイプは浮気したら、後ろから刺されるで。クロードも気いつけや』


 「『ネーロンは黙ってて!」』


 ひぇ〜!ば、婆ちゃん!こんな時どうすればいいか教わってないよ!


 「ほ、ほら二人共!あっちの方には大きな湖もありますよ!綺麗だな〜、ね?二人もそう思うでしょ?」


 『せやねんクロード!このカースティはな、別名"水の都"って言われるくらいには水が豊富やねん!やっぱ水はええなぁ…。心が落ち着くわ』


 ネーロンさん!今はあんたちゃうねん!

 今はこのキャットファイトをどう止めるかの瀬戸際なんだ!


 「ははは…そ、そうなんですね…。それは楽しみだなぁ…。あっ!バスが止まるみたいですよ!降りる準備をしましょう!」


 俺の言葉に返事は帰って来なかったが、二人はいそいそと自分の荷物をチェックし始めた。


 なんでこんな空気になってるんだ!

 助けて婆ちゃん!


 《えー、ご搭乗の皆様方、本日は長い走行にお付き合い頂き誠にありがとうございます。えー、まもなく領都カースティに到着致します。お荷物等、お忘れのない様お願い致します。また、本日の事故の賠償は……》


 「ネルさん、どうやら魔空挺の部屋代が帰ってくるみたいですよ?儲かりましたね!」


 痛て。場を和ますギャグだったのに、ネルさんにデコピンをされてしまった。


 「馬鹿だなぁ。ちゃんと社長に返すに決まってるだろ?…ほら着いたみたいだ、さっさと降りるよ」


 「はーい…」


領都カースティの駅で停車したバスから、ゾクゾクと客達が降りていっている。

 俺達もそれに続き、やっとカースティの地をこの足で踏む事が出来た。


 「いやー、なんとか[滅子爵]領に生きて辿り着けましたね!これもフローラさんに貰った、魔力の加護のおかげかもしれませんね!」


 「………………。」


 『ふふふ、そうともさ!だけど領都に入った途端に魔力を感じられなくなってしまったね…。綺麗な都市だが、それだけが残念だよ…』


 そうか…主要な都市にはアンチマテリアルフィールドが張られているもんな。


 「確かに不便かもしれませんが、安全…治安を守る為…と、国が決めた事ですからね。こう言う大きな都市にいる間は我慢するしかありませんよフローラさん。でもそんな魔法の代わりにあるのが魔道具と……」


 『クロード…安全の為に言うたな?でもこうも考えられへんか?魔法さえ使えたら、守れた命があったんちゃうかと…』


 ん?ネーロンさん、急にどうしたんだろう…。


 「…それは医療機関など一刻を争う、場面の事でしょうか?それなら俺もそうは思いますが…。」


 『まぁ…それもあるやろな…。けど、俺が言いたいのはそれじゃないねん。結局魔法を使えなくしても、次は武器を持ってるやつ、ガタイがええやつが幅を効かせる様になるねん。そうすると力のない女、子供はどないなるねん?』


 『…ですが…そう言った者から帝民を守る為に、警魔隊などの組織があるじゃないですか…。それに帝国は平和ですから、そう言った事件はあまり起らないような…」


 『警魔隊…?帝国が平和…?ダメやクロード…お前はなんも見えてへん。確かに上っ面は綺麗に見えるやろな、だがなクロード…お前が見えてへん所で毎日の様に力の無い誰かが犠牲になっとんねん。ええか…本当に来て欲しい時になんて、ヒーローは絶対現れんねやクロード!』


 そんな…それは俺を否定する言葉だ…。

 

 『ネーロン!その辺にしろ!』


 『すまんなクロード。だが勘違いすんなや、お前はええ奴や…。ええ奴だからこそ知って欲しかったんや…真実をな。ほな、また会おうやクロード!ネルネルはんもな!』


 『クロード…連れが済まなかったな…。ネーロンも言っていたが、君は心優しい…尊敬に値する人物だ…。これからも変わらずにいて欲しい。君のこれからの人生に魔力の加護があります様に…。』


 「ネーロンさん!フローラさん!俺ももう少し真剣に考えてみます!どうかお元気で!またどこかで!」


 二人はこちらを振り向かず、手だけをヒラヒラさせて行ってしまった。


 「いやー、まだ会ったばっかですけど、とても濃い時間を過ごした気がします。ネルさんも凄い人達と知り合いですね!」


 「ん…まぁね。あの人達は特別だよ。それより私達も早く行こうじゃないか。確か帝国ホテルだったよね?」


 「そうですね。ここから10分くらい歩けば着くみたいですよ?そこに看板があります。ところで…グレースさんって空港で待ってるんですか?」


 「………………忘れよう。」



 グレースさーーん!



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