第41話 落ちる魔空艇
朝早くの便だった為か、それほど他のお客達が、混乱している様な事態になってはいなかった。
大半はネルさんの様に仮眠するために、自分の部屋に居たのだろう。
「フローラさん達は何号室なんですか!?」
俺達は会話しながらも、走って自分達の客室に向かっていた。
『確か3号室だったか…ネーロン?』
『ドアホ…こんな時に見栄はらんでええねん!33号室やで!クロードはどこやねん』
凄い見栄の張り方じゃないか…フローラさん。
口笛を吹いて誤魔化さないでフローラさん。
「俺は2号室です!ならここの階段でお別れですね!何事もない事を祈ります!」
『ひゅ〜金持ちやんけクロード!なんかあったら尋ねて来いや!そっちはセキュリティ厳しゅうて入られへんからな!』
『クロード!薬は本当に助かったよ!お互い生きて[滅子爵]領の地を歩ける事を祈ろう。魔力の加護があります様に…』
フローラさんは俺の手を両手で握り込み、一瞬祈るポーズを取った後、ネーロンさんと階段を急いで降りて行った。
これが大人か…。
俺も急ぎ階段をあがり、こんな時でもしっかりと一桁台客室の入り口で仁王立ちしている黒服に、チケットを確認してもらう。
『確認が取れました。VIPのお客様…どうぞお通り下さい。事態が収まるまで部屋での待機をお願い致します。』
これが金の力か…。
俺は短く礼を言い、2号室に早歩きで向かった。
「ネルさーん、クロードです!開けて下さーい!」
俺はノックをしてから、周りに迷惑にならないくらいの声量で声を掛ける。
しかし、待てど暮らせど反応が帰って来る気配がない。
「まさかまだ寝てるのか?いや…あんな大音量の放送で目を覚まさない訳が…ネルさん、ちょっと失礼しますね」
俺は持ち前の能力の一つである透視を使い、部屋の中を見渡す。
見た事もない様な豪華な部屋が視界に映り込むが、どうやらネルさんは、どこにも居ない様だ。
戻って黒服さんに聞いてみるか…。
俺は急いで来た道を戻り、黒服さんに質問投げ掛ける。
「あのすいません!此処に薄紫の髪で少し色黒な女性が来ませんでしたか!?俺と同じ2号室の人なんですけど!」
『ハイ…確かにその特徴と一致する方が来たのを覚えております。しかし出て行った記憶は御座いません。』
そんな…じゃぁ一体どこに行ったんだよ…。
その時、魔空艇がいきなり急上昇し始めた。
揺れも更に激しくなり、普通の人なら立っても居られないだろう。
「い、一体何が起こってるんだ!」
『VIP様!危険です!早くお部屋にお戻り下さい!VIPのお部屋には安全装置が取り付けられております!お早く!』
こんな時まで仕事を優先する、そのプロフェッショナルな心意気に賞賛を贈るよ。
「ありがとう黒服さん…だけど今は眠っていてくれ……
黒服さんに催眠を掛け、眠らした後、いつもの黒仮面卿に変身する。
魔空艇の激しい急上昇で、誰も動けないうちに、俺は船外まで猛スピードで飛んで行く。
魔空艇には風や魔物避けの為の物理魔法障壁が展開されているが、俺は無理矢理突破する。
魔力がある限り、自動で修復される筈なので心配はいらない。
「これはヤバいな…完全に制御を失っているな…」
魔空艇はありえない角度で上昇し続けている。
このまま宇宙にまで行ってしまうのかと思ったが、
「あそこはヤバい!あそこには浮力を得る為の大事な回路が沢山詰まっていた筈だ!」
俺も前に魔空艇について調べた事があったので、大体の構造は把握していた。
案の定、魔空艇は浮力と推進力を失い、真っ逆さまに堕ちようとしていた。
「クソ!…確か前にもこんな事があったな…。あれは確か三年前くらいか?普通こんな事にそうそう出くわすか?…まぁいい………吾輩の時間だ…。」
俺はすぐ様、真っ逆さまに落ちて行ってる魔空艇に向かって猛スピードで飛んでいく。
魔空艇に追いついた俺はまず、魔空艇を平行にする為に船首の方を持ち上げる。
「流石に重いな!上がれーーー!」
この時、魔力を魔空艇全体に行き渡らせ、バランスを取るのを忘れてはいけない。
三年前は本当に焦ったからな、タダ持ち上げればいいやと思ってたら、全然バランスが取れなくてね。
誰かが魔法で援護してくれなかったら大惨事だったよマジで。
「よ、よし…止まったな!これで一先ずは安心だな…。」
俺は魔空艇の中心あたりを持ち上げ、水平に飛び続ける。
「そういえば爆発もあったんだったな。火も出てたし、一回降ろしたほうがいいかな?」
だがあたり一面は森だらけだ。
こんなとこに降ろしても迎えの機甲バスが来れないだろうな…。
すると魔空艇から大音量で放送がなり始めた。
《えー、魔空艇を支えて飛んで下さってる、何者かにお願いがあります。森を抜けた先の街道で降ろして頂けると幸いです。えー繰り返し…》
流石に、浮力を得る為の回路が吹っ飛んだのに、魔空艇が飛んでたらおかしいって気づくよな…。
俺はそれから安全に飛行を続け、森が切れた先に見えた、整備された街道の端に魔空艇をゆっくりと降ろした。
「ふぅ〜少し疲れたな…。人の命が掛かってると思うと気疲れするよな」
俺がすぐにこの場を立ち去ろうとしたら、船の上甲板…デッキの方から段々と声が聞こえて来た。
"やっぱり黒仮面卿だよ!"
"ありがとう!本当にありがとう!"
"おお神よ!我等を導きたまえ!"
"俺!今日から真面目に生きるよ!"
"我が船を救ってくれてありがとう!"
"てやんでぃ!べらぼうめ!"
どうやら無事だった乗客や乗組員などが、ゾクゾクと出て来たみたいだ。
よく見ればネーロンさんやフローラさん、ネルさんも俺の方を見ていた。
俺はすぐに帰ろうとしたが、やはりいつもの決め台詞を言う事にした。
「今日も一日…平和と子供を大切に!!」
"平和と子供を大切に!!!!"
俺の言葉にまるで打ち合わせしたかの様に、揃って言い返してくれる皆んな。
とりあえず死者がいない事を祈りながら、どうやって俺がクロードだとバレない様に船に戻るか、メッチャ悩んだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます