第37話 安息日
待ちに待った安息日、俺とロゼッタとサボリさんは三番街にあるミッシェルさんの家の門の前に来ていた。
「クロード…何故そんなに緊張しているんですー?貴方が頼りなんですからね!しっかりして下さい!」
「わ、分かってるよ!任せとけ!サボリさんも大船に乗ったつもりでいて下さい!」
「ああ、俺が言うのも何だが、頼むぜクロード!」
よ、よし!行くぞ!
『おめぇら、うるさいんだよ。ここは貴族様のお家だぞ?静かにしねぇか」
「サ、サイモンさん!<ジャック>のクロードです!今日は約束を取っているのですが、入れてもらえますか?」
『ああ、話は聞いてるよ。早く入んな』
俺達は庭師のサイモンさんに連れられ、家の扉まで案内される。
そしていつもの如く扉が開き、レイモンドさんが現れる。
「お待ちしていました。クロードさんと…お連れの方々ですね。我が主人がお待ちです、くれぐれも失礼のない様にお願い致します。」
「は、はい!今日はありがとうございます!此方はロゼッタ巡査とサボリ巡査長です!宜しくお願いしますレイモンドさん!」
「はわわ、宜しくお願いしますですー!」
「俺もだ、今日は時間を頂き感謝する。」
「ふむ、警魔隊の方々でしたか。クロードさんと違って優秀そうですな。お礼は我が主人にお言い下さい…それでは此方です。」
な、何!何故俺がディスられているのだ!
ロゼッタお前!その勝ち誇った顔をやめろ!
レイモンドさんに先導され、如何にも高級そうな絵画や備品が並べられた客室に通される。
そしてレイモンドさんに入口から遠い椅子…上座に着席させられた。
「それでは只今、主人を呼んで参ります。しばらくお待ち下さいませ。」
そしてレイモンドは優雅にお辞儀して部屋から出ていった。
「ク、クロード!すんごい、もうすんごい部屋ですー!どれか一つでも壊したら10年はタダ働きですー!」
「お、落ち着けロゼッタ!絶対に触るなよ!壊したら俺は逃げるぞ!」
「ははは!大丈夫だクロード、こう言うのは大抵レプリカだよ。まあ本物もあるかもしれんが…大抵は裏に保管してあるはずだ。直に見てないから、もしかしたら全部本物かもしれんがな!」
「結局は全部本物だと思わなきゃ駄目じゃないですか!何が大丈夫なんですか!」
「ク、クロード落ち着いて下さい!心臓に悪いですー!」
俺達がわちゃわちゃしていると不意に扉が開いた。
レイモンドさんに連れられ、豪華なドレスに身を包んだ金髪のロングヘアーに泣きぼくろが特徴的な夫人が入ってきた。
マリアさんの話では40代前半って言ってたのに…全然そんな歳には見えないな。
これが貴族か…。
「皆様…今日はようこそおいで下さいました。この館の主…ミッシェル・ワインバーグです。」
「ク、クロードです!いつも魔道具のメンテナンスを任せて頂きありがとうございます!今日はお忙しい中、お時間を頂戴致しまして…誠にありがとうございます!」
「ロゼッタ・ミルフィーユです!突然お邪魔してごめんなさいです!今日は少しお話しを聞かせていただきたく参上しましたです!宜しくお願いしますです!」
「サボラスタだ。ミッシェル・ワインバーグ子爵、今日は宜しく頼む。」
ん?今、一瞬ミッシェルさんがサボリさんを驚いた顔で見た様な気が……気のせいか。
「んふふ、ロゼッタさんにサボラスタさんね…クロード君も顔を見せるのは初めてかしら?いつもお世話になってるわね。…それで何が聞きたいのかしら?」
「はい、実は俺達…ある薬を作る為にユニコーンの角を探しているのですが、ある筋からミッシェル様がユニコーンの角を手に入れた事があると聴きましたので、事実なのか確認させていただきたく思います」
ふぅ、慣れない言葉使いをすると喉が渇くぜ…あっ、ありがとうメイドさん、有り難くお茶を頂きます。
「…事情は分かりました。確かに私はユニコーンの角を運良く手にする事が出来ました…と言っても数年前の話ですが。」
「ほ、本当ですか!でしたらそれを分けて貰う事は出来ないですー?も、もちろんお金は支払いますですー!」
「…ごめんなさいね、実はもう無くなってしまったの。持っていたら喜んで分けてあげたのだけれどね。本当にごめんなさいね」
やっぱり、そんな上手く行く訳ないよな…。
これで振り出しか…。
「ミッシェル・ワインバーグ子爵、貴女が謝る事じゃない。こんな見ず知らずの俺達に時間を取って貰っただけ有難いと言うものだ。感謝する」
「そ、そうですー!感謝致しますですー。でもーこれでオプタム高原に行くしかなくなりましたねー?サボリ先輩ー」
そうだな、帰って作戦の練り直しをしなければな。
「…一つ聞いていいかしら?貴方達はユニコーンの角の正確な使い方を知っているのかしら?知っているのなら誰に聞いたのか教えて欲しいの。私も調べたのだけれど…ありきたりな情報しかなかったわ。」
うん、ヤカンが言ってました。
「すいません、本人の許可を取らないと教えてはいけない事になっているのです。ただ、その人は長き時を生きてるので、まず間違い無い情報だと俺達は判断しています。」
「そう…そうよね。ごめんなさいね、勝手を言って。…私が思うにその薬と言うのは其方のサボラスタさんの目を治せる薬なのかしら?だとしたらそんな薬は聞いた事も無いわね…もしかしてそれも秘密かしら?」
流石は貴族だ…。洞察力が半端じゃない…さて、どう誤魔化すか…。
「そうですー!サボリ先輩は私を庇って怪我してしまったのですー!だからそれを治すためにどうしてもユニコーンの角が必要なんですー!」
ば、馬鹿!どうしてチミはそんな簡単に喋るの!この口か!この口が悪いのか!
「うふふ…貴方は正直者ねロゼッタさん。私は貴女みたいな人好きよ?そんな正直者のロゼッタさんに頼みがあるの…その薬がもし完成したら、分けて貰えないかしら?どうしてもその薬が必要なの…お願いします…この通りよ。」
「はわわわ、頭を上げて下さいですー!ミッシェル様!」
「おいおい…ワインバーグ子爵、貴族が簡単に頭を下げるものじゃない。何処に誰の目があるか分からないのだからな。まず事情を聞かせてくれ」
「ええ、そうね。…レイモンド…頼めるかしら?」
「畏まりました。今お連れします」
そう言うとレイモンドさんは部屋から出て行ってしまった。
「私にはね…15歳になる一人娘がいるの。だけれど、生まれつき足に障害を持ってしまったのよ。そのせいですっかり心を閉ざしてしまっているの。」
「成る程…。娘さんの為に薬が欲しいと…。ユニコーンの角もその為に手に入れたのですか?」
「ええ、私も娘の為にありとあらゆる治療法を試したの。ユニコーンの角も粉末にして飲ませたり、料理に混ぜたり、色々試したけど何の効果も得られなかったわ…だから貴方達が最後の希望なの。」
貴族も人の親か…。まぁ、当たり前だよな。
するとノックと共に扉が開き、レイモンドさんが車椅子を押して部屋に入って来た。
「お待たせ致しました。ライラお嬢様をお連れしました。」
車椅子に乗った少女は、母親譲りの金髪と顔形をしており、美少女と言っても差し支えない容姿をしている…ただし笑顔は何処かに忘れて来たみたいだ。
「ご紹介に預かりました…ライラ・ワインバーグです。お母様…私は何故呼ばれたのでしょうか?」
「ライラ…ごめんなさいね、急に呼んだりして。この人達はね貴女の足を治す薬の作り方を知っているの、だからもしその薬が作れたら分けてくれる様にお願いしていたのよ。ライラからもお願いして貰えるかしら?」
「…そうですか。それは是非お願いします。もうよろしいでしょうかお母様?私、体調がすぐれませんのでこれで失礼します。レイモンド…。」
そう言うとライラお嬢様はレイモンドに連れられ部屋から出て行ってしまった。
こりゃ重症だな…。薬で足は治せても心までは治せないぞ?
「娘がごめんなさいね…。だけど足が治ればきっとまた笑ってくれると思うの!だからお願いよクロード君、ロゼッタさん、サボラスタさん。私も協力できる事はなんでもするわ…。だから…薬を…薬をお願いします…。」
「分かりました!俺達も確実に作れるとは…いいえ!確実に薬を作ってみせます!安心して待ってて下さい!」
「そ、そうですー!私達が力を合わせれば出来ない事は結構あるけど…なんとかなる気がしますー!」
そうだなロゼッタ!昔から俺達三人でやって来たんだもんな!
行くぞロゼッタ!
「ミッシェルさん!俺達は色々やる事が出来たのでもう行きます!今日はこれで失礼します!」
「失礼しますですー!」
俺とロゼッタはサボリさんを置いて走り出す。
「うふふ、行ってしまったわ。サボラスタ・ジャッジメンテスター様は行かなくても宜しいのですか?」
「あいつら…俺が目見えないの忘れてやがるな。それとワインバーグ子爵、家名は言うな。それはもう捨てた名だ。」
「失礼しました。かの[審侯爵]の三男の噂はよく聞いていました…これ以上は無粋ですね。どうか薬の事は宜しくお願いいたします。」
「俺に頼むのはお門違いだが…まぁあいつらの事だ悪い様にはならんだろ。それじゃあな…って目見えないんだった、すまないが外まで送ってくれ」
「うふふ、酷いお友達ですこと。ええ、喜んでお送りしますわ。手を握って下さいまし。」
ちきしょー!あいつら絶対シバく!
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