第36話 ネルネル・ベルハット


 「おはよーございまーす。ネルさん!設計図持ってきましたよ!見て下さい!」


 俺は早速オホッピーさんから描いて貰った設計図をネルさんに見せつける。


 「おー!本当に一日で描いてきたんだね、でも問題は中身だよクロード…ん?二枚もあるのかい?」


 えっ?二枚?ま、まさか!?


 ちょ、ネルさん!一枚は違うやつ…か、返してー!


 「なになに?見たものを映像化して記録する魔道具とそれを送受信できる様にする魔道具…文字だけでは今一わからないね…。もう一枚は……なんだいこれは!?クロード、君は一体…。」


 ち、違うんですネルさん!これはヤカンの罠なんです!


 「ネルさん…最後に見たやつはあれです…そうあれなんです!近所のお爺さんが描いた落書きなんです!返して下さい!」


 しかしネルさんはもう俺の話を聞いていなかった。


 「…なる程…この技術は見た事ないよ…。こんな回路の構築の仕方が……?凄い…凄いよこれ……。」


 …おーい、ネルさーん。帰ってきてー。


 それからネルさんはしばらく自分の世界から帰って来なかった。


 「…クロード!これは素晴らしいじゃないか!何故今まで作らなかったんだい?これの特許をとれば富も名声も思いのままだったろうに。」


 「やっと正気に戻りましたか…。何故作らなかったか…ですか?…正直に話すならそれは俺が考えた物じゃないからですね。勿論人からアイデア盗んだとかではないですよ。ただ、大昔の技術を甦らせて貰っただけです。」


 それに富も名声も興味はないしね。


 「こんな技術を一体誰が…?確かにどれもこれも現代技術の基礎がまるで使われてないね…。まるで古代の遺物のような精密さ…。」


 「それを教えてくれた人物については秘密ですが、それを魔道具コンクールに出す許可は貰っていますので安心して下さい。ですが二枚目のリングについては見なかった事にできませんか?」


 それを作る覚悟ができていないんだ…。


 「何故だい?私はこれこそコンクールにふさわしい作品になると思ったのだけれど。これは世界を変える代物だよ。」


 「…はい、それは俺も分かってはいます。ですがそれがもし絶対魔法主義者マギアイストに渡ったら…いえそこら辺のチンピラに渡るだけでもとんでもない凶器になります…。そう思うと、どうしても気が進まないんです…。」


 俺はどうしてこんな強大な力を持っているのに、こんなに臆病なんだろうか。


 「…クロード、君は馬鹿だね…。…今の君にこのリングがいかに人類にとって素晴らしい物だと説明しても雑音にしか聞こえないだろうね。…だから私は気を脅す事にしたよ。」


 お、脅す?一体なにをする気ですか!?


 「ネ、ネルさん…そんな怖い事言わないで下さいよ…。一旦落ち着きましょう?ね?」


 「うふふ…君が"うん"と言ってくれれば話しは早いのだけれどね?…そうじゃないなら…私が勝手に作っちゃうよ?良いのかい?」


 そんな卑怯な!だが設計図を回収すれば作れないだろ!ネルネル・ベルハット!


 「そんな事言っても駄目なものは駄目です!設計図は渡しませんよ!観念して下さい!」


 「君は甘いね…それをするなら、すぐにするべきだった…設計図はもう私の頭の中さ。さあ、どうする?」


 な、なに!この短時間で!?そこまでの天才だったか!ネルネル!


 「やりますね、ネルネルさん。ですがこれを作る事によるリスクや起こりうる様々な問題の対処はどうするつもりなんですか?」


 「だから君は馬鹿だと言ったんだよ…。どうして君は一人や二人でどうにかしようと思っているんだい?それは傲慢だよクロード。」


 傲慢だなんてそんな…俺はそんなつもりじや…。


 「じゃあネルさんならどうするんですか?…俺にはいい答えがみつかりません。」


 「簡単じゃないか、最善の対処を出来る人に任せるのさ。適材適所と言うやつだね。問題はそれが誰かだが…社長に任せようか?あははは!」


 ネルネル…笑い事じゃないぞ。


 「社長ですか…。まだそんなに喋った事ないから、どんな人かあまり知らないんですよね。強いのは知ってるんですけど。」


 「彼はあまり会社にいないからね、知らないのも無理はないね。社長…アイザック・ニューバードはね、伯爵家の次男なんだよ。だから顔が広いし、彼は聡明だからね。私達が頼れる中では最高の相手だよ。」


 てかもう作る事は確定なんですね…ネルさん。


 「わかりました…わかりましたよ!百歩譲って作るのは良しとします!ですが約束して下さい!このリングが悪意の持った奴等に渡らない様にすると!被害が出ない様に最善の対処をすると!勿論僕も約束します!」


 「この世に絶対はないから確約は出来ないが…ああ、全力を尽くすと約束するよ。だけどねクロード…この魔道具は、前にクロードが言った皆んなが笑って暮らせる凄い魔道具になれるかもしれないと私は思うんだ。だから少しだけ人ってやつを信じてみてくれないか。」


 負けた…負けたよネルネル。


 「分かりました…今回だけですよ。ですがやるからには全力で良いものを作りましょう!さぁ、時間がありませんよ、ネルさん!どうせなら両方作りましょう!」

 

 「君の変わりようも怖いものがあるね…ふふふ。ああ、早く作ろうクロード!」


 大丈夫…大丈夫だ。

 

 もし何かあっても俺の力の全てを使って対処してみせる。

 

 帰ったらまずヤカンをシメよう。

 

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