第34話 変わらない物
あの後きっちり定時まで働いた俺は、ネルさんと帰り支度をしていた。
「今日もお疲れ様です、ネルさん。後出来れば今日話した内容はご内密にして頂けると……。」
「ふふ、分かっているさ。あっ、私からも相談があるんだよ。今年入社した君は知らないかも知れないけど、毎年魔道具のコンクールが[滅子爵]領の領都カースティで開かれるのを知ってるかい?」
「はい、俺は出た事無いですけど大学の知り合いが何回か出てましたね。もしかしてネルさん出るんですか?」
「出たいのだけれどね、どうにもアイディアが浮かばなくてね…そこで君に相談と言う訳さ。何かいい案はないかい?」
ふむ、俺も[滅子爵]領には月光草のために行かないと行けなかったから丁度いいな。
問題は何を作るかだが…ヤカンの力を借りるか。
「ネルさん、まだ時間はありますよね?今日一日貰えればいい案が出そうです。」
「本当かい?君も忙しいのにすまないね。
今度お礼するよ。」
「いえ、俺もあの件で[滅子爵]領には行きたかったんで、渡りに船と言うやつです。お礼は期待してます。」
「いや、するんかい。ふふ、では帰ろうじゃないかクロード君。」
この後俺はマリアさんにも話があるからとネルさんと別れた。
本当に忙しい日だな。
「マリアさん!連絡はしていただけましたか!?返事はどうなりましたか!?」
「クロードさん、うるさいです。もちろん連絡はいたしました、返事も貰ってますよ。」
「本当ですか!?ミッシェルさんはなんて言ってましたか?」
「ええ、貴方みたいな遅刻ばっかりして落ち着きがない、と思えば偶に大人ぶったりする掴みどころの無い人はお断りだそうです。」
そ、そんな…確かに身に覚えはあるが、そこまで言われるほど付き合いがある訳じゃないのに……。
これも身から出た錆か…すまんロゼッタ。
「…っというのは嘘です。今週の安息日なら都合がつくそうですよ。昼頃に行きなさい。」
マリアー!テメェ!びびらせやがって!
一瞬自己嫌悪におちいったぞ!
どうやってロゼッタに新しい土下座を試すか色々考えたわ!
「はは…あ、ありがとうございます。このクロード、感謝の意を表明したいと思います。」
「どうしたんですか急に?熱でもあるのではないですか?早く帰りなさい。」
が、我慢だクロード!
いつか目にものを見せてくれるわ!
俺はマリアさんに再度礼を言い会社を去る。
あっ!今笑い声が聞こえたぞマリア!
最後まで我慢しろマリア!
ええーい、こういう時は酒だ!
酒が俺を呼んでいる!
俺はいつもの酒場ミルキーウェイに向かい走り出す。
(どうせあいつらもいるだろ…。)
ようやっと着いたミルキーウェイの扉を開けると案の定酒を飲んでる悪友達がいた。
「よう、待ってたぜクロード!来ると思ったんだよ、まぁ来なくても家に突撃したけどな!」
突撃すんな。
「クロードー、お疲れ様ですー。待ってましたよー。クロードの分も、もう頼んであったのを私が飲んじゃいましたー。」
飲むな。
「いい気なもんだぜ…俺がこんなに苦労してるというのに。」
あっ、お姉さんいつもの一つね。
「おいおい、俺達だってただ飲んでるだけじゃねえんだぜ!なぁロゼッタ!」
「そうですよー!馬鹿にしないで下さいー!ただ飲んでる訳じゃありません…………………楽しく飲んでますー!イェーイ!」
…あまねく八百万の神々よ、今日私は人を二人殺める事をお許し下さい。
「お、落ち着け!落ち着けクロード!話せば分かる!」
「そ、そうですよ!私に友達を逮捕させないで下さい!ほ、ほらお酒が来ましたよ!乾杯です!乾杯!」
「……ツギハ ナイゾ。ふざけるのはこれくらいにして色々情報を整理しようと思う。」
「ぜ、是非!是非聞かせて下さいクロード!」
「ああ!聞きたすぎて耳が大っきくなっちゃったぜ!」
俺はこの馬鹿2人に懇切丁寧に説明した。
月光草が[滅子爵]領にあるかも知れない事。
マンドラゴラは[審侯爵]の処刑台の丘に生えている可能性が高い事。
数年前にユニコーンの角を競り落としたミッシェルさんと話ができるようアポを取ってもらった事。等々だ。
ちなみにグレースさんがハーフエルフだと言う事は喋っていない。
それは本人が言う事で、俺がペラペラ喋る事ではないからだ。
「ほえー。たった一日でこんなに情報が集まったですー。神様がついてるとしか思えないですー。」
「確かにな、俺も感じるぜ。運命ってやつをな!」
勝手に感じてろ。
「問題はだ![審侯爵]領には誰が行くか、そしてミッシェルさんがユニコーンの角を持っていない場合に、オプタム高原には誰が行くかだ!」
ちなみに[滅子爵]領には俺が行くと説明してある。
「そうだな…俺達も仕事があるからな。あんまり長くは休めないしな…。」
「……いえ、ここまでやってくれただけでもありがたいですー。後は私がなんとかしますー………。」
「…………いーや!ここまで来たら最後まで手伝うぜ!乗りかかった船ってやつよ!」
「そうだな、ロゼッタに任せたらすぐ転覆か座礁しそうだもんな!」
「……ふ、ふえーん。持つべきものは友達ですー!」
ロゼッタは飲みながら泣いている。
どっちかにしろ。
「とりあえずはだ!ミッシェルさんに話を聞かなくちゃなんも進まねぇ!クロード、いつ会う事になってんだ?」
「今度の安息日だ。俺とロゼッタとサボリさんで行ってくるよ。」
「サボリさんってロゼッタを助けてくれた人だな?よし分かった。俺は会社に有給申請と少し修行してくるぜ。Aランクとは言わねぇがせめてBランク上位の魔物くらいは倒せるようにならねぇとな!」
「Aランクなんてー警魔隊のエリートだってちゃんと連携と安全マージンを取らなきゃ危険なんですよー。私は倒せますけどねー」
「うるせぇ!お前の固有魔法は強すぎなんだよ!俺もいつかは追いつくぜ!」
「ウェクトル‥お前は昔から無茶ばっかするんだから気をつけろよ。」
本当にこいつらはガキの頃から何も変わらない。
変わったのは体だけだな。
まぁ変わらない物があるってのはいい事だよな。
「よし!難しい話は終わりだ!飲むぞ!乾杯ー!」
「乾杯ですー!」
こういうのも偶にはいいか!
かんぱ〜い!
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