第31話 冒険者ギルド


 あの後グレースさんは用事があると言って帰ってしまった。


 「いやー良い情報が聞けたなぁ。初日から最先がいいぞ、ロゼッタも喜ぶなこりゃ。」


 おっ!噂をすればロゼッタじゃないか。

 隣の杖持ってる中年の人は誰だ?


 「おーい、ロゼッタ!さっきぶりだな。隣の人は誰だい?」


 「あっ!クロードですー、奇遇ですねー。紹介しますねー、この方が私を庇ってくれた先輩、サボリ巡査長ですー。」


 そうかこの人がロゼッタを救ってくれたのか……。

 

 「この度は俺の馬鹿な友達の命を救って頂きありがとうございます。ほらお前も謝れ馬鹿。」


 「ご、ごめんなさいですー!っは!馬鹿じゃないですー!それにもう死ぬほど謝ったですー!」


 「ククク、話に聞いた通り面白え奴じゃねぇかロゼッタ。クロードだったか?礼なんていいんだ、馬鹿の命に比べりゃ目の一つや二つ…高いもんよ。」


 「馬鹿馬鹿言わないで下さいですぅー!

それにサボリ先輩、そこは安いもんだって言うところですー!」


 「お前が言ってんじゃねぇこの馬鹿!クロード、話は聞いたぜ。なんか俺の為に色々やってるみたいじゃねぇか。昨日まで幽霊みたいな雰囲気だったこいつが、いきなり元気になりやがってよ。金貨クジでも当たったのかと思ったぜ。」


 「そうですね、詳しい情報源は言えませんが、かなり信憑性の高い情報なので、時間はかかるかもしれませんが目を治せるかもしれません。」


 昨日の内にオホッピーさんの事だけは秘密にしてくれと2人に頼んでいた。


 長い付き合いだし、信頼できる2人だから喋ったりはしないだろう。

 

 「そうなんだよ、ロゼッタに聞いてもよヤカンが教えてくれたしか言わないしよー。全然本当の事言わねぇんだよ。」


 俺は目が飛び出るほどの眼力でロゼッタを見る。

 見まくる。あっ、こいつ目逸らしやがった!

 馬鹿を信じるもんじゃねぇ!


 「あははは、ヤカンが喋る訳ないじゃないですか。ところで2人は何してたんですか?」


 舐めんじゃねえ!話題を逸らす事はマリアさんで鍛えてるんじゃ!


 「俺達はな冒険者ギルドに向かってんだ。なんでもユニコーンの角が必要らしいじゃねぇか。2番街の支部のギルマスがな俺と同級生なんだわ、だから情報だけでも聞きにいくつもりよ。」


 

 「なるほど。でも大丈夫ですか?冒険者ギルドなんか入って襲われたりしないですか?」


 「…確かにな、俺はこのザマだしロゼッタもいるしな。よしクロード!お前男だろ?着いて来いや!護衛しろ護衛!」

 

 「い、いえ僕は戦闘はダメなんで、それにペットのヤカンに餌をあげないと……」


 「いいからー、行きますよークロード!」


 は、放せ馬鹿!この裏切り者!


 冒険者ギルドがここまで嫌われているのには理由がある。


 そもそも冒険者ギルドとは、まだ魔王がいた時代に勇者が立ち上げたものだと、文献には記されている。

 

 寝ても覚めても襲って来る魔物に対応していた傭兵団が集まりギルドを創立した。


 彼等は英雄だった。

 そう、魔王が倒れるまでは。


 だが魔王の死後、魔物は急激に数を減らした。

 国は魔物を保護対象とし、危険がない限り手を出す事禁止した。


 しかし彼等冒険者は戦う事しか生きる術を知らなかった。


 だから彼等は狩った、狩り尽くした。

 結果、生態系は崩れ様々な不和を巻き起こした。

 守っていると思っていた聴衆からの嘲りの声、国からの指名手配。

 

 彼等が野党に落ちるのに時間は掛からなかった。

 だが全ての冒険者がそうだった訳ではない。

 

 国の再興に尽力する者、開拓村の護衛、野党の殲滅など、真面目に冒険者の在り方を改革しようとする者もいた。


 それが今日まで冒険ギルドが残っている理由だろう。


 しかし文明は進み、この帝国では冒険者の必要性がさらに低下した。

 

 特に低ランクの冒険者はできる仕事が少なく、明日の食べる物を心配するくらい貧しかった。

 その結果、恐喝やスリを繰り返す冒険ギルドを反社、チンピラ集団等と呼び、忌み嫌われる存在に成り果てた訳だ。


 「サボリさん、着きましたよ。」


 「お、着いたか。わりーな先導してもらって。」


 「目が見えないんだからー、しょうがないですよー。さぁ入りましょー。」


  ギルドの扉を開けると酒の匂いが少しだけ漂って来た。

 

 どうやら酒を飲んでるのは2、3人でそこまで人がいる訳でもないらしい。


 「サボリさん、知り合いのギルドマスターはどこにいるんです?」


 「さぁな、俺もここには来た事ねぇからな。とりあえず受付で聞いてみようや。ギルバートに会いに来たって言やぁ伝わるからよ。」


 受付に向かうと髭面の熊みたいな親父が寝ていた。


 「す、すいませんー!起きて下さーい!」


 ロゼッタが声をかけると、髭面の熊はのそのそと起きだす。

 

 「なんだぁお前ら?今日は休みだ。帰れ。」


 「その声!お前まさかギルバートか?」


 「あん?誰だおめ……サボラスタじゃねぇか!5年ぶりだな!何しに来やがった!」


 「なにってそりゃ…依頼だよ。」

 

 


 

 

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