第30話 エルフの英雄


 「ハーフエルフですか?まぁ言葉通りに受け取るなら、エルフと他種族の混血って所ですよね?……っは!まさか!?」


 「うん…そのまさかだよ。」


 「まさかマリアさんが!どうりであの歳にしては若々しいと思ってたんですよね!なんか[女帝]とか呼ばれてるし!いやー謎が解けました!」


 「うん、違うよね?目の前をよく見てごらん?金髪、長身、美形。三拍子揃った人がいないかい?」


 「すいません、最近目が悪くなったもので。ケーキを貪り食ってる残念なお姉さんなら目の前に………じょ、冗談ですから!だからそのフォークを降ろして下さい!」


 「まったく!歳上を揶揄うものじゃないよ君!とにかく!話を戻すけど僕がハーフエルフなんだよ。父がエルフだったらしくてね。」



 「だったらしいと言う事は…グレースさんのお父様はもう……。」


 「どうだろうね?僕が物心ついた時にはもう居なかったらしいよ?母ももう逝ってしまったしね。ああ、気にしなくていいよ。もう何十年も前の話しさ。」


 なるほど。何十年も前じゃ手掛かりも残ってないか。

 …ん?何十年?…ってことはグレースさんはお姉さんじゃなくて、おばあ……うぉっと!



「あ、危ないじゃないですか!なんでフォークを投げるんですか!後ろの壁に突き刺さってますよ!」


 「…………今なにかよからぬ事を考えてはいなかったか?」


 「めめめめめ滅相もございやせん!マ、マスター!この方にこの店で1番高いケーキを!」


 「…よし、勘弁してやろう。それで私が力になれるかもしれないと言ったのは何も私がハーフエルフだと言う事だけではないんだよ。なにせ私の人生もエルフを探す事に大半を費やしてきたからね。」


 「目的は…やっぱりお父様を探す事ですか?」


 「それもあるね。だけどそれは母を捨てた父に一言文句を言いたいだけなんだ。一番の目的はやっぱり、エルフの英雄[創弓]アルクス・ジェネシスライトに会うことだね。またはその子孫か。」


 エルフの英雄[創弓]アルクスか…子供でも知ってる御伽話の登場人物だ。


 曰く:その者、勇者の五人の友の内の一人なり


 曰く:その者、一矢で魔物の大群を殲滅せし


 曰く:その者、全ての精霊を従え、共に戦わん


 曰く:その者、勇者と共に魔王を滅ぼせり


 …っとまあ誰が聞いてもわかる凄い奴やん!を地で行く超人だ。




「でもグレースさん。エルフの英雄なんて本当にいたんですか?御伽話ではなく?」


 「まず間違いなくね。あちこちに彼がいた痕跡が散らばってたよ。歌に詠まれたり、昔話しとして伝わってたりね。」


 「何千年前も昔の話なのに凄いですね。あれ?でもじゃぁどうしてグレースさんは<ジャック>で働いてるんです?エルフを探すのはやめたんですか?」


 「やめた訳ではないよ、ただ少し疲れてしまったんだよ。まるで答えの解らない数式を延々と解いてる気がしてね。そんな時に帝都で燻っていたらマリアに拾われたのさ。」


 「なるほどです。…っでグレースの姉御、そろそろ人生の大半を費やしたスペシャルな成果を聞かせてや頂けないでやんすか?」


 「その喋り方はなんだい?それにせっかちな男は女の子に嫌われるぞ。本当に面白い奴だな君は、それでね僕が中央大陸を巡って出した結論は……」



「……け、結論は?」


 『当店最高級のケーキ 夏のソナタで御座います。』


 マスター!邪魔しないで!空気読んで!


 「うーん美味しいー。っあ、結論はね、中央大陸にはもういないんじゃないかな。いたとしても人が立ち入れる場所にはいないと思う。」


 「…そんな。東の大陸は鎖国中だし、西の大陸は国家間の紛争が絶えない危険な地。八方塞がりじゃないですか!」


 「まぁまぁ、悪魔で私の推測だよ。もしかしたらひょっこり出てくるかもしれないよ?それに君たちの目的はエルフを探す事じゃないだろ?」


 「えっ?でもエルフがいないと月光草とマンドラゴラが……」


 「私の故郷の森の奥にね満月の夜にしか咲かない花があるんだけど…この情報は君たちの役に立たないかな?」


 マスター!この人にこの店で一番高いコーヒーを!


 「そ、それでグレースさんの故郷はどこにあるんですか!!」

 

 「ふふ、急に元気になったね。僕の故郷はこの国の五大筆頭貴族の一人、[滅子爵]が治める都市[ロビーナ]のさらに奥の……」


 『当店最高級のコーヒー ドラゴンマウンテンで御座います。』


 うんマスター、表出ろ。

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