第29話 エルフの足取り


 

 明日仕事が休みだと思い出した俺達は、夜遅くまで語り明かした。

 

 そして朝日が昇ってきた頃に2人は帰って行き、俺は一人物思いにふけっていた。


 「……これで良かったのか?クロード。」


 「………良くはないんだろうな。本当にロゼッタの事を思うなら、さっさと黒仮面卿に変身して治してやればいいんだろうけど……。」


 「じゃぁなぜやらねぇ?そんなに考え込むくらいならパッと治して、人生を楽しんだ方が良いってもんだぜ。」


 

 「これが何も知らない人なら、俺もそうしたんだろうな。だけどロゼッタは友達だ。俺がなんでもやってしまったら、あいつが成長する機会を奪ってしまうんじゃないか、と思ってしまったんだよ。」


 「なるほどな。だが本当にそう思ってんなら、何故そんな暗い顔で考え込む必要がある?

 お前は何を不安がっているんだ?」


 どうやらこのヤカンには全てを見透かされてるらしい。


 「この力の事だよ。俺は…神にはなれない。

 黒仮面卿が傷まで治せると知られたら…考えるだけで恐ろしいよ。」


 俺の固有魔法<全能の極光オムニポテンス>はとても消費魔力が多い。

 

 だからこっちは救えても、あっちは救えない。という状況が必ず来ると悟った俺は、人目のある所では使わないと決めてしまった。



 「お前がなんでも治せると知られ、そして人々がそれを熱望するを声を上げれば…お前の性格上、無視はできない。お前は生涯人間の奴隷になり、人を治し、人を助け続けて死んでいくだろうな。」



 このヤカンの言う通りだ。

 俺はどうすればいいんだ?

 誰か教えてくれ!


 「……なぁ、オホッピーさん。俺はどうしたらいいんだ?」


 「っけ!俺が知るかよ!悩め悩め、その積み重ねがお前の人生になるんだよ!

 いいか!お前は他の人よりちょっとばかし力があるだけのタダの人間だって事を忘れるな!」 


 そうか!すっかり俺はヒーローにならなければいけないと思いこんでた!


 俺はタダの人間になってもいいんだ!

 

 っあ!やべ俺用の鉄のコップが潰れてしまった。


 「オホッピーさん、コップ潰れちゃった♩」


 「おめぇは人間じゃねえ……。」

 


 その後ヤカンと激しい喧嘩を繰り広げた俺は、エルフの足取りを追うため帝都の2番街にある大図書館に来ていた。




 「こう言う時はまず歴史を紐解くのが一番だって、俺は知ってるんだ。でも歴史の勉強なんて学生以来だなぁ。歴史の講義はすぐ眠くなったっけ。っお、あったあった。」


 俺はエルフの事が書かれていそうな本を手当たり次第に集め、席について読み始める。

 

 「うーん。どれも今一つだなぁ。まぁそれもそうか。そんな簡単に分かるならもう誰かが見つけてるよな。」


 俺もエルフは見てみたいし、最悪世界中を飛び回るか?

 いや仕事もあるしそんな時間は取れないか。

 

 「はぁ…もう行き詰まっちゃったな。…いやまだ始めたばかりじゃないか、頑張れ俺」

 

 「君は何を一人でブツブツ言ってるんだい?」


 「グ、グレースさん!?奇遇ですね!グレースさんも図書館に来てたんですか!?」


 「シ、シー!静かにしてクロード君!ここは図書館だよ!怒られるよ!」


 「グレースさんもデカいですよ!あっ!司書のリベルさんじゃないですか!ゴ、ゴキゲンヨウ。」



 この後青筋を立てたリベルさんに叩き出された俺とグレースさんは、喫茶店でデザートを食べていた。



 「もう!君のせいで散々だよ!ケーキ5個は奢ってくれないと許さないからね!パクパク……ムシャムシャ」


 「さっきから謝ってるじゃないですか。いい加減機嫌直してくださいよー。」


 「フフ。冗談さ。ところで君は何を調べていたんだい?お姉さんに話してみなさい。」


 俺はロゼッタの事や、特級ポーションのためにエルフを探している事などをざっくばらんに話した。

 オホッピーの事は秘密だけど。



 「……なるほどね。特級ポーションの作り方や、必要な素材をどこで知ったのかは気になるけど。……エルフの事なら、もしかしたら力になれるかもしれないよ?」



 「ほ、本当ですか!でもどうやってですか?まさか居場所を知ってるとか!?」


 「残念ながら居場所は知らないさ。君は……ハーフエルフって知ってるかい?」


  うん、ここのモンブランは最高だ。

 








 

 


 

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