第28話 古代遺物のオホッピー


  「さぁ、出来たぜ。特製カクテルのゴブリン・キッスだ。リラックス効果があるから飲んでみな。そっちのお嬢さんにはこれだ、必殺酔い殺しポーション」


 オホッピーがエメラルドグリーンのお酒を俺とウェクトルに出して来た。


 「……このまるでゴブリンの血ような色からは考えられない美味しさとまろやかさ……」


 「……ああ。まるで極楽の湯に浸かってるようなリラックス効果……ってそうじゃねえ!こいつはなんだって聞いてるんだよ!」


 「やい!クロード!このうるせぇのはなんだ!?」

 

 「まぁまぁ、落ち着けよ2人共。ウェクトル、こいつは古代遺物のオホッピーさんだ。仲良くしてやってくれ」

 

 古代遺物…

 各地に点在する遺跡よりごく稀に発掘される

 旧時代の魔道具である。


 「古代遺物だと!噂でしか聞いたことねぇぞ!まさか実在したとはな……」


 「そう言うことだ小僧。俺のことはオホッピーさんと呼べ、そしたら美味いコーヒーくらいなら飲ましてやる」


 「わ、わかったよ、オホッピーさん。仲良くしてくれ。てかなんでお前が古代遺物なんて持ってんだよクロード?」


 「……いや俺は普通のヤカンを買ったつもりだったんだよ。だけどな家に着いた瞬間に喋り出したんだ、あれにはビビったね俺も……」

 

 もちろん嘘だ。

 俺の趣味の遺跡巡り中に偶然見つけたのがオホッピーさんだった。


 「…‥嘘クセェがまぁいいだろ。古代遺物って事はなんかすげえ能力でもあんのか?いや浮いて喋るだけでもすげぇんだけどよ」


 「あるぜ…すげえ能力がな。オホッピーさん教えてやってくれ」


 「っち、本来ならタダでは教えないんだがな…クロードのダチって事で特別だ。俺の能力は…………水を一瞬で沸かす事ができる」


 「す!すげぇ……のか?いや凄くないよな?」


 「すげぇだろが!いいか?人ってのはな、待つ時間にこそ恐怖を覚えるんだ!だが俺の力を使えば水がお湯になるのを待つ事なく………」


 「いや、そこに恐怖を感じた事はねぇよ!

おっ!ロゼッタ!具合は良くなったのか?」


 いつの間にか酔い殺しポーションを飲んだロゼッタが目を覚ましていた。


 「……あれ?ここはどこです?」


 「ここはクロードの家だ。お前、ミルキーウェイで潰れちゃって大変だったんだぞ?一体なにがあったんだ?」


 「……迷惑かけましたですー。話せば長くなるんですが…聞いてくれますか?」


 「もちろんだ!なぁクロード?」


 「今さら遠慮する仲でも無いだろ?話して楽になれよ。カツ丼食うか?」


 「今食べたらマーライオンになるのでいらないですー。では聞いて下さい…あれは先週の…………」


 それからロゼッタは涙ながらに話し始めた。

 

 任務中に先輩が自分を庇って目を失った事。

 

 治療できる人を探しているが、全然目処が立たない事。


 あの日から職場の雰囲気が少し暗い事。


 何も出来なくて、酒に逃げてる自分が情けない事。等々だ。


 

 「……お前も色々大変だったんだな…俺もこの間死にかけたけどよ、この通りピンピンしてるしな」


 「女神教の司祭様でも治せないくらい、先輩の傷は深いのかい?」


 「ダメですー!手当たり次第当たりましたが、こんな傷を治せるのは旧時代の英雄達くらいだと門前払いですー!うえーん!」


 「な、泣くなよロゼッタ!まだ手はあるさ!諦めんなよ!」


 

 「ふむ…お嬢さん、欠損部位を回復させる特級ポーションでもダメなのかい?あれでダメなら呪いでも受けたのかな?」


 「……ほえ?いえ呪いとかではなく、普通の傷ですー…ていうか特級ポーションってなんです?ポーションはポーションですぅ」


 ポーションとは古くから伝わる傷薬だ。

 擦り傷や多少の打ち身程度ならすぐに治るが、魔法には及ばなかった為、廃れていった分野だ。


 「やれやれ。今時の若い子は特級ポーションも知らないのかい?いいかい、おじさんが若い頃はね、そりゃもう手足がバンバン飛んだり千切れたりする時代でね。回復が追いつかない!ってんで開発されたのが特級ポーションさ」


 

 「いやいやいやいや!いつの時代だよ!恐いよそんな時代!いや、それより特級ポーションの作り方を知ってんのかいオホッピーさん!?」


 「ん?まぁ材料さえあればワシが調合するのもやぶさかでは無いがな。だがお前たち若造に材料を用意できるかどうか」


 「舐めないでくれ!これでも少しは戦えるつもりだ!頼む教えてくれ!この通りだ!」

 

 「わ、私からも頼むですー」


 ウェクトルとロゼッタはオホッピーさんに土下座している。

 なかなかシュールな絵面だな。


 「そこまでされたら教えん訳にはいかんのぉー。いいじゃろ、教えてやるわい。まずはSランクの────」


 なになに?

 Sランクの土属性の魔石一個に月光草にマンドラゴラの根にユニコーンの角だと!


 魔石以外聞いたこともねぇよ!


 「オホッピーさん……どこにあんだよそれ……」


 「私もー、聞いた事もないですぅ」


 「月光草とマンドラゴラならエルフが育てておったじゃろが。ユニコーンはオプタム高原によくおったのー。」


 「……エルフなんて神話の時代ですー。今もいるなんて聞いたこともないですよー」


 「確かにほとんどのエルフは魔王との戦いの最中に、地上に見切りをつけ、霊界[エリアノール]に旅立ってしまった。たが共に最後まで戦ったエルフも確かにいた。その子孫が今もいるじゃろう…探してみなさい」


 「ほえー!凄い物知りさんです!なんか希望が湧いて来ましたですよ!やってやるです!」


 「ああロゼッタ!俺達も手伝うぜ!まずは情報収集だな!なぁクロード!」


 「ああ、俺は戦闘はからっきしだからな。違う方法でアプローチしてみるよ。戦闘はお前らに任せる」


 「ああ任せとけ!良かったなロゼッタ!希望が出て来たじゃねぇか!」


 「はいです!今の私はやる気に満ち溢れてるです!あと……最後に一個だけ聞いていいです?」


 「なんだどうしたんだ?ロゼッタ?」


 「…………なんでヤカンが喋ってるです?」


 いや遅ぇよ!

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