第23話 炎の逮捕劇 <拾弐>


 [悪鬼]オール・ゴールと戦ってからドス黒い感情が俺の中を駆け巡っている。


 俺の部下を傷つけた[跳魔]エヴァを見てその感情はさらに爆発した。


 極め付けはこの黒い魔物だ。

 帝都を守る我が同胞を3人も殺しやがった。

 悪は滅ぼさねばならぬ。

 正義の名の下に。


 「マギアイストのペットはマギアイストも同然!滅ぼしてくれる!」


 俺の固有魔法<正義の体現者ユースティティス>により、俺の能力が際限なく上がっていく。

 

 身体が壊れないのが不思議なくらいだ。


 殴り飛ばした黒い魔物が、顔を怒りの形相に変え俺に襲い掛かる。


 「遅いわー!私が躾てやる!」


 俺はこの黒い魔物を殴りに殴った、奴は何度も何度も立ち上がり俺に突進して来る。


 「な、何がどうなっているの?」


 「み、ミランダ!!生きてたのか!よかったホントによかった!」


 「ちょ、ちょっと!身体中ボロボロなんだから抱き付かないで!それにあれはどういう事なの!?」


 「す、すまん!ゼニガタのとっつぁんの事は俺にも分からねぇ。だがあの様子じゃ長く持ちそうにないぜ。」


 「そうね、身体中から血が噴き出しているわ。あの力に身体が耐えられなかったのね。」


 「だが!あの黒い魔物を完全に上回っているぜ!ゼニガタのとっつぁんが倒れる前にあいつを倒せれば…。」


 


 奴からもらった攻撃は一度も無い、だが俺の身体は全身血だらけだ。

 

 1匹いれば小さい国を滅ばせるSSランクの魔物。

 最後に確認されたのはまだ魔王がいた時代。 

 何千年も前の話だ。


 そんな相手を俺みたいなおっさんが互角に、いや圧倒しているのは奇跡に近いだろう。


 「えーい!いい加減倒れぬか!喰らえ<正義の一撃>!」


 俺の右手に赤いオーラが纏わりつき激しく光だす。

 そしてこれが最後だと言わんばかりの一撃を黒い魔物に喰らわせる。


 <正義の一撃>を喰らった奴の身体はバラバラになり、まるでスライムの死骸のように散らばった。


 「うおー!!やったぞー!!見たか!?アロン!ミラン……ダ、ぐはっ!」


 いつの間にか元通りに再生した黒い魔物が俺の腹を突き刺していた。


 「ば、馬鹿な!確かに…殺したは…ず!」


 奴はもう興味がないとばかりに俺を見もしていなかった。


 (まずいぞ!俺が倒れたらここにいる奴等は皆殺しに…だがもう身体が動かん!)


 目をあげると満身創痍のアロンとミランダが奴と戦おうとしていた。


 「部下を連れて逃げろー!!アロン!ミランダ!頼む、逃げてくれ!!」


 ところが黒い魔物はまるで誰かから命令を受けたかの様にダンジョンの出口目指して走り去ってしまった。


 「た、助かったのか?おい、ミランダ!あいつどこかへ行っちまったぜ!」


 「いいえ、状況は最悪よ。あいつがダンジョンからでたら帝都は終わるわ。」


 「帝都は終わらねぇよ。帝都にはあいつがいるじゃねぇか、黒い仮面を被ったあいつがな。」


 「不確定要素には頼ってられないわ。とにかく私達も回復したらすぐにダンジョンから出るわよ。ミレーヌ副長!すぐに部隊を集合させなさい!」


 「そうだ!?サルサとセブルスは大丈夫なのか!?それにロット達の遺体も弔ってやりてぇ!」


 「悔しいけど遺体を地上まで運んでる余裕はないわ。あそこで倒れている[悪鬼]と[鮮血]も連行しないといけないもの。ここで埋葬してやりなさい。」


 アロンがロット達の遺体を埋めている間に俺はミランダの部下から治療を受けていた。


 ユリウスも回復し、ロゼもだいぶ落ち着いたようだ。


 サボリの目はどうやら治らなかったらしい。 

 今はロゼが付きっきりで看病している。


 とにかく今は早くあの魔物を追わねば!


 「アロン……。そろそろいいか?」


 「ゼニガタのとっつぁんか。少し待ってくれ、最後の仕上げが残ってる。ロット、ライラ、マックス。お前達の身体を魔物に掘り起こしはさせねぇぞ。頼む<神聖なる樹木ユグドラシル>!」


 アロンが固有魔法を使うと、遺体を埋めた場所から大きな一本の木が生えて来る。


 それはまるで一本の大きな墓標のようだった。



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