第21話 炎の逮捕劇 <拾>

 

   私は見た

   狂える獣の渇望を

   飢えと渇きの欲望を

   その身に宿して踊りけり


 「私の固有魔法躍動する天詩ラブ・ソングはね読んだ詩の内容によって効果が変わる。貴女を相手にするには、この詩を読むしかなかった事を先に謝らせてくれ。」



 「あらぁ?恐いわね。一体どんな魔法なのか

…ちょっと!危ないじゃない!」


 私はまだ喋っている[跳魔]エヴァに向かって切り掛かる。

 

 私の理性はもうほぼ残ってはいない。

 

 私が詩ったこの[獣の詩]は、身体能力を極限まで高める代わりに、敵も味方も見境なく襲う狂戦士に変えてしまう。

 

 だがこの[跳魔]エヴァの高速転移戦闘に対応するためにはやるしかなかった。


 「まるで獣ね、無様だわ。行くわよ<跳兎サルタトレス>」


 [跳魔]エヴァの固有魔法[跳兎]は空間属性の魔法だ。


 目にも止まらぬ連続転移を起点とし、赤と青のダガーを両手に持ち息をする暇も無く攻めてくる。

 

 私は思考のなくなった身体で、反射だけを頼りに相手の攻撃を防ぎ反撃する。


 「すごいわぁ〜。まさかここまで出来るなんて思ってもいなかったわぁ。でも段々と動きが単調になってきてるわよ。」


 私には[跳魔]エヴァが何を言ってるかはもう分からないが、どうやら私の反撃は掠りもしないようだ。


 上から横から背後からはたまた足元から飛んでくる攻撃。

 私はその中の一つの対応をミスり、青色のダガーが足を切り付ける。


 「はい、お終い。なかなか頑張ったわねー。でも、もう動けないでしょ?」


 私の固有魔法が意思とは関係無く終わりを告げ、[獣の詩]によって無くなっていた理性と思考が戻ってきた。


 「わ、私になにをした!」


 「う〜ん最後に教えてあげるわぁ。答えは簡単、毒よ。数滴でギガントエレファントも動かなくする特注品だけどね。」


 [跳魔]エヴァが私の髪の毛を掴み、頭を持ち上げ淡々と語りだす。

 

 右手に持つ赤いダガーが私の首に当てられている、おそらく止めを刺す気だろう。


 (嗚呼、黒仮面の君。最後に貴方を一目見たかった……)」




 「俺の部下を離さんかぁぁ!!!」




 閉じていた目を開けると赤く発光したゼニガタ隊長が、[跳魔]エヴァを蹴り飛ばしていた。


 「た、隊長…そ、その姿は……?」


 「おう!ユリウス生きてたか!この姿はなM・I・D(マギアイストデストロイ)状態だ!後は任せておけ!」


 「マギア…イス…トデス…トロ…イ?はは、本当にふざけたお人だ。」


 


   「ちょっと!痛いじゃない!!」


 [跳魔]エヴァが隊長の頭上に現れ、今にも切りつけようとしている。


 「た、隊‥長…う、…うし…ろ…だ」


 「遅いわよ!もらったわ!!


 しかし隊長の身体に当たったダガーはまるで金属と金属がぶつかった様な音をあげ、弾かれた。


 「グハハハ!お前らマギアイストの攻撃など今の俺に効く訳あるかぁー!死ねーい!!」


 「なんなのよこの化け物!!やってらんないわよ!!」


 そう言って[跳魔]エヴァは遥か遠くに転移してしまった。

 そしてまだ息のある無事なマギアイストの仲間を次々と転移させ、自分もどこかへ消えてしまった。

 

 「ちきしょう!!逃げられよったわ!マギアイストのクソ共め!!」


 「た、隊長……お、落ち…着…け。それよ…り、サボリ…巡査…長とロゼッタ…が。」


 「っは!そうだったわい!サボリは!?ロゼは無事なのか!?え〜い!見に行った方が早いわい!お前も安全な場所に運んでやるユリウス!」



 言うが早いか、隊長はすぐ私を抱えて走り出す。


 この作戦ももう大詰めだ。

 

 運ばれながらうっすら周りを見ると、どうやら第二警魔隊のミランダ隊長は[鮮血]のレディを倒し、自分の部下と合流したみたいだ。


 あとは第一警魔隊が対処している魔物だけだが……な、なにがあったんだ!?

 壊滅寸前じゃないか!?






 

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