第10話 会議は踊らない

  ・内部より外部の燃え方が激しい

  ・黒仮面卿により鎮火

  ・死者および怪我人等なし

  ・30年ローンの家が半壊wざまぁ



「………以上がー、3番街で起きた火事の調査結果になりますー。」


  「……ありがとうロゼ。俺は今からこの調査報告を書いたやつを殺しに行かねばならん、後はお前達に任せる。」


 「待って下さい隊長!今はふざけてる場合じゃありません!それに調査報告書を書いたのは私です。」

 

「お前か!人の不幸を笑いやがって!まだ建てて半年だぞ!保険だって全額降りるかわからんのだ!それにお前たちだって、新築祝いパーティーに来て祝ってくれたじゃないか!それをこんな……こんな!」

 

 「はいはい、悪かったよ隊長。それよりそろそろ夜勤のやつらと交代の時間だ、早くまとめに入ろうぜ。腹へっちまったよ」


 「サボリやっぱりお前の差し金か!ロゼに悪い事教えるんじゃぁねぇ!それより本当に野次馬の中に怪しい奴はいなかったんだろうなサボリ!」

 

 「…‥俺の目を疑うのかい?」

 

 「ああ!今の俺は誰も信用ならねぇ!人類なんか滅びちまえ!」

 

 「…ったく、家が燃えたくらいで荒れすぎだろ隊長。俺の固有魔法"千年審判の目サウザンディアアイズ"に反応した奴はいなかったよ。」

 

 「……そうか。ユリウス、お前はなんか気づいたことはあるか?」


 「…特には。ただ、黒仮面の君を一目見れなかったことが悔やまれるくらいですか。」


 「ユリウスさんはー、黒仮面卿のファンですもんねー。確かにー彼の力は目を見張るものがありますー」


 「ロゼッタ・ミルフィーユ!貴女もついに黒仮面の君の良さに気づいたんだね!そう、なぜ僕が黒仮面の君に心酔してるかというと、あの3年前の帝国最大の魔導機空船"アンフュスバエナ"の事故で……ブツブツブツ」


 「まーた始まったよ。ダメだろロゼ!こいつに黒仮面卿の話を振ったら。」


 「ごめんなさいですー。すっかり忘れてましたー。でもでもー、魔導機空船アンフェスバエナには私の父も乗ってたのでー感謝してるんですよー。」


 魔導機空船アンフェスバエナの事故か、これまた懐かしい話だ。


 全長269.1m、全幅28.2m、全高10.5mの化け物船。

 天才魔学者ベルモンドによる珠玉の大機だ。

いや、大機だった。

 

 魔導機空船アンフェスバエナのお披露目の日、"進空式"には帝国全土から人が押し寄せた。


 その中にはこの広い中央大陸を治める帝国の五大筆頭貴族もいた。


  [魔男爵] [滅子爵] [死伯爵][審侯爵][神公爵]の五家のうち[死伯爵]と[神公爵]もアンフェスバエナの乗船が決まっており、寄り子の貴族を連れ意気揚々とアンフェスバエナに乗り込んだ。


 進空式が始まり、帝都を一周したアンフェスバエナは上空3000mまで移動し、乗り込んだ貴族、そして抽選に当たった上級国民のべ500名にランチを振る舞いながら回遊していた。


 

 アンフェスバエナのさらに上空に季節はずれの"大陸渡り"中のドラゴン、しかも六大霊龍の一柱"アイシクルドラゴン"がいるなんて誰が気付けただろう。

 

 更に故意か偶然かは分からないが、アイシクルドラゴンから氷塊が降ってくるなんて、気付く事ができなかった見張りを責める人は誰もいないだろう。


 アンフェスバエナには風や魔物避けのための結界が張っており、全壊とまではいかなかったが、さすがに無傷とはいかず船首から三分の一が失われた。


 甲板にいた乗組員は全員宙に投げ出され、アンフェスバエナもバランスを失い、帝都に勢いよく落ちていった。


 帝国国民の誰しもがもうダメだと思った。

 涙を流す者、神に祈る者色々だ。

 そんな時に現れたのが黒仮面卿だ!


 やつはまず宙に投げ出された乗組員十数名を目にも止まらぬ速さで回収し、安全装置か誰かの魔法の影響かは分からないが、少し落下速度が緩まったアンフェスバエナに放り込む。


 そしてすぐさま黒仮面卿はアンフェスバエナの下に潜り込み完全に落下を止めちまった。

 

 あの時の帝都中に響きわたる歓声を俺は生涯忘れることはないだろう。

 

 そのまま帝都の大広場にアンフェスバエナを降ろし、なんだか恥ずかしいセリフを言って去っていった。

 


  "平和と子供を大切に"…だとよ。


 っけ、こっ恥ずかしい野郎だぜ。って言ってた俺の心もガキのようにはしゃいでたのは内緒だ。


 とにかく長々と話したが、この時の活躍を見たロゼやユリウスの世代がやつに憧れるのはしょうがないことなのと、この時に助けられた[死伯爵]や[神公爵]、またそれに連なる貴族の擁護の声により我々警魔隊は黒仮面卿に表立って手を出せないという事だ。


 「ユリウス、その辺にしておけ。やつがいつ我々の敵になるか、または上からやつの捕縛命令がでるかわからんのだぞ?」



 「…その時私は我が君の隣に立つ事になるでしょう。」


 「2人ともー今はそんな仮定の話しより火事の話しですよー。このままじゃあいつまでたっても帰れませんよー。


 そんなロゼの言葉を無視し、睨み合っているユリウスに声を掛けようとした瞬間、不意に会議室の扉を叩く音が聞こえた。


 「ゼニガタ隊長!失礼します!そろそろ交代の時間であります!」


 「グレンジャー副長か。ずいぶん早い…いやもうこんな時間か。ロゼ、ユリウス、サボリお前達は先に帰れ。副長への引き継ぎは私がしておく。」


 了解の声とともに風のように退室して行く部下達。 

 なんて薄情なやつらだ。呪ってやる。


 「ゼニガタ隊長!聞きましたか?ダンジョンで異変が起こってるみたいでありますよ!」

 

 

 ……今日もまた家に帰れそうにない父を許してくれウル、そしてテレサよ。

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