第8話 ウェクトル・ヴァルハルク
オレの名前はウェクトル。
古い言葉で旅人という意味らしい。
そんなオレは今、天国に旅立つか否かという瀬戸際だ。
事の発端は魔道具部門から魔石の注文が入ったため、帝都郊外にあるダンジョンに来た事だ。
なんでも本社から送られて来た新しい魔道具の設計に必要らしい。
水属性のcランク魔石が必要なため、15階層の海エリアに来て複数のマーマンを狩ったまではよかった。
「オレってば強すぎじゃね?任務完了ってことで、帰りますか。」
オレの固有魔法"
魔石を採取し帰ろうと歩き出した瞬間に、すごい力で体を逆さまにされた状態で宙高く持ち上げられた。
この赤い触手はAランクのデビルオクトパス!
なぜ30階層の魔物がこんな階層にいる!?
このままの状態はまずい、まず体勢を整えないと!
背中に装備していた大剣をなんとか抜き、オレを掴んでいる足に向かって切り掛かるが、鉄のような硬さの足に弾かれる。
「硬すぎるだろ!ならオレの固有魔法をくらえ!」
オレは固有魔法"星の火遊び"を発動させるために魔力を練り上げる。
"星の火遊び"は魔力を練った炎の塊に質量を持たせ、隕石のように振り下ろす魔法だ。
炎の塊の大きさは練った魔力に比例するのでさっきマーマンに放ったのとは比べられないくらいの大きさだ。
「くらいやがれ!タコ焼きの出来上がりだ!」
"星の火遊び"はデビルオクトパスに命中しオレを掴んでいた足が力を失っていった。
オレはなんとか足から抜け出し、地面に降りデビルオクトパスを見るが、全くの無傷だ。
「こりゃ今のオレには無理な相手だな、逃げるが勝ちってね」
捨て台詞を残して、全力で走りだすオレにデビルオクトパスは口をこちらに向け大量の墨を吐いてきた。
「やば!こりゃ避けるの無理!」
墨を全身に被るとすぐさま体から力を失っていく。
「マジかよ…デビルオクトパスに毒があるなんて聞いてねぇよ…」
地面に倒れ伏すオレにデビルオクトパスの長い足が巻きつこうとした瞬間、デビルオクトパスの体に巨大な白い触手が巻きつく。
「あ、あれはキラースクイード!」
キラースクイードもAランクのイカの化け物だ。
間違ってもこんな浅い階層に出る魔物ではない。
「ははっ…怪獣大戦争だな…。ってかダンジョンに何が起こってやがる…」
ピクリとも動かない体で、目線だけを動かし、二匹の戦いを見守る。
あの戦いの勝者にオレは食われるのだろう。
「親父、お袋、ピナ、すまない。どうやら俺はここまでのようだ。先立つ不幸を許してくれ。」
ホントに終わりなのか?
このまま物語のモブのように呆気なく死んでしまうのか?
そんなのは嫌だ!
そんなのは自分で自分を許せそうにない!
みっともなくてもあがいてやる!
生きてりゃ勝ちだろ!
「だれかぁ〜助けてくれ〜、だれかいないかぁ〜」
気力を振り絞り亀のような遅さで体を出口に向かって這い、力の限り叫ぶ。
こんな姿クロードには見せられねぇな。
涙がでてくるぜ。
そんな状態も長くは続かず、体の機能は全てシャットダウンされ、意識まで朧げになってくる。
「ま…だ、だ…まだしねな……い」
無くなる寸前の俺の意識に誰かの声が聞こえた気がした。
「我輩がきた!もう大丈夫である!」
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