第7話 とても長い一日
ヒーロー活動を終えた俺は、すぐさままた3番街の人気のない路地裏に降り変装をといた。
「早くミッシェルさんの家に行かなくては!」
遠くからでも見えるバカでかい家に向かい、
急ぎ走り出した俺はいま、その家の門の前で息を整えていた。
「ジャック オブ オール トレイズから来ましたー! クロードと申しますー!誰かいらっしゃいませんでしょうかー!?」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ。
俺は庭師のサイモンだ。待ってな、執事を呼んできてやるよ。」
ありがとうございます。と返事をし、少し待っているとサイモンさんが一人の白髪でオールバックの妙齢な御仁を連れてきた。
「いや〜大変お待ちしましたよ。あなたはジャックの新人さんでしたね。ここに来るのは2度目ですかな?」
「こ、こ、この度は大変お待たせしました!まことに申し訳ありません!レイモンドさん!」
ジャンピングローリング2回転後方捻り土下座で許しを乞う。靴だって舐めちゃう勢いだ。舐めないけど。
「わ、わかった!わかったから靴をはなさんか!それより早く冷蔵型魔道具を見てくだされ!珍しい食材の危機なのです。」
「至急見させていただきます!」
ふふ勝った!人生勢いでなんとかなるな!
この技は靴ローペロペロと名付けよう。
魔道具の修理はすぐに終わりそうだ。
一部の回路が焼けつき、上手く温度調整ができなかったみたいだ。
「これくらいならすぐ直せますよ!私の会社 ’ジャック オブ オール トレイズ'は迅速な修理が売りですから!お任せくださいレイモンドさん!」
「ふむ、来るのも迅速なら文句ないんですがね……」
ふぐっ……痛いところをつかないでもらいたい。
とりあえず早く終わらそう。
ここの回路を交換して…っと、ついでに魔石も交換しておこう、お得意様だからこれくらいサービスしとかないとね。
「レイモンドさん、終わりました!すぐに稼働させられますよ!ついでに魔石も交換しておきました!」
「ふむ、腕は悪くないようですな。次からは別の会社に頼もうかと思いましたが…。いいでしょう、引き続きジャックに頼むとします。」
「そ、そ、それは大変いい決断かと!次から2度とお待たせするようなことはないと約束いたします!だから会社を変えないで下さいレイモンドさん!靴舐めます!」
「ええーい!足をはなさんか!代金は振り込んでおくから早く帰りなさい!あと…‥マリアさんによろしく伝えといて下さい。」
「わかりました!失礼します!」
ふー疲れたぜ…まぁ終わったからよしとしよう。
それにしても最後のレイモンドさん哀愁ただよってたな、マリアさんとどうゆう関係なんだろ?
とりあえず会社に帰ろう…今日はもう疲れたぜ。
「マリアさ〜ん、ただいま帰りました〜。」
時刻はもう昼過ぎだ、帰りはもちろん普通に地下魔鉄に乗って帰ってきた。
「ご苦労様です、クロードさん。帰ってきて早速ですが、本社から水泡噴射型消火魔道具(通称:ポセイドン)の設計図が届きました。至急製作に取り掛かって下さい。詳しい話はネルに聞くように。」
「えー、マリアさん俺まだ飯も食ってないんですよ…?」
「………なにか言いましたか?もう一度聞こえるように言ってもらえますか?」
「いえ!すぐに制作に携わりたいです!あータノシミダ!」
こえー! ありゃヤバイで! 確実に何人かやってますぜ!
「ネルさーん!マリアさんに言われて来たんですけどー。進捗はどんな感じですか?」
この紫髪の色黒の女性はネルネル・ベルハット。
俺より三年早く会社に勤めている。
この人もなかなか良い意味でイカれた技術者だ。
「おークロ君待ってたよ!1人では中々大変でね。細かい作業が多いんだよ!目が痛くなるね。」
「それは大変ですね。すぐ手伝いますよ、設計図を見せてください。」
ふむふむ、確かにこれは1人では大変だ。
まぁ俺のコンマのミスも許さない身体操作があればこんなのお茶の子さいさいだね。
「ネルさん、細かい所は俺がやるんで。
メインの回路の方お願いします。」
「ホントかい!?それは助かるよ!この美しい回路を早く構築したかったのさ!優秀な部下を持って私は幸せだね!」
この回路大好きお姉さんめ。
魔道具の醍醐味といえばこの回路の構築だ。
心臓を魔石とするなら、回路は血管。
魔力を魔道具の隅々まで行き渡らせる大事な機関だ、当然ミスは許されない。
俺はそんなネルさんと魔道具について議論をしながらなんとか定時まで乗り切った。
「ふー今日も終わりましたねー、ネルさん帰りましょう!」
「おっ、もうそんな時間かい?回路をいじってると時間の感覚が狂うね!今日はここまでにしようか!」
俺とネルさんは帰り支度を終え、マリアさんのいるエントランスまで降りる。
「マリアさん!お疲れ様です!では俺はこれで!」
「待ちなさいクロードさん!」
「マリアさん!今日はもう疲れたんで、説教はまた後日に……」
「違います!説教ではありません!ウェクトルさんがまだ帰って来ていないんです!」
「え?あいつならCランクの魔石くらいすぐにとって来られるはずじゃ?なにかあったんですか!?」
「わかりません。でも真面目なウェクトルさんなら仕事が終わればすぐ帰ってくるに決まっています。なにかあったとしか思えません。」
「そんな!?ならこんな悠長に喋ってる場合じゃ!そうだ社長!社長ならすぐ助けにいけますよ!マリアさん!」
「社長は出張でいません。こうなったら仕方ありません!冒険者ギルドに応援を頼みましょう。」
冒険者ギルドとは過去の勇者が立ち上げた、対魔物のエキスパート集団だ。
魔王がいた大昔に大層活躍し、各国でも、なくてはならない存在だった。そう昔は。
「冒険者ギルドですか?大丈夫ですか?あいつらあんまり良い評判聞きませんよ?」
「ウェクトルさんの命がかかってますから。仕方ありません、あなた方は帰りなさい。明日も仕事がありますからね。」
「……わかりました!帰ります!失礼します!」
普通なら、俺も残ります!とでも言うのだろうが、ウェクトルを冒険者なんかに任せておけない!
待ってろよウェクトル!
今日は長い一日になりそうだ。
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