第66話

〚勇者様〛


【おう】


〚貴方はこの世界に来て、日が浅い〛


【そうだな】


 ミルキスは真剣な顔で俺を見る。


〚貴方の言葉は、あまりにも軽い。この世界の常識を知らなければ、歴史も知らない。魔物と人の分かり合えない溝が、貴方の未来を苦しめるかもしれないんですよ?〛


【……】


 言われてみれば確かにな。

 俺はこの世界に対して無知。


 それでいいのだろうか?

 ミルキスを好きって言うのは単純だ。

 しかし、実際に結婚して……いい生活できるか?


 俺はミルキスをじーっと見る。


〚?〛


 見目麗しい子だ。

 こんな綺麗な子、なかなかいない。


〚勇者様。あなた赤ん坊ですよね? いささかあたしは年齢上過ぎませんか?〛


【ミルキスはエルフだろ? 長命種族なんだから、むしろちょうどいいだろ】


〚そういう知識はあるんですね。あはは〛


 ……。

 俺は教皇の方を振り向く。


【なぁ、教皇】


「はい。勇者様」


【俺が結婚しない場合、ミルキスはどうなる?】


「拷問してさらし者にした後、処刑ですね」


 びくっと魔王軍が驚く。

 ミルキスだけは覚悟していたのか、冷静な顔のままだった。

 魔王だけあって精神は卓越しているらしい。


【えげつないな】


「戦はそういうものです。勝てば官軍、負ければ賊軍。それは魔物も人も変わりません。しかし、貴方が戦利品として魔王軍や魔王を欲しがるなら止めることはできません。英雄とは、戦利品を総取りするのが許されるものですからね」


 俺の世界の英雄と随分違うな。

 だが、それがこの世界のしきたりだと言うのなら……。


【ミルキス】


〚何でしょう?〛


【結婚がだめなら、婚約してくれないか?】


〚!?〛


【嫌になったら、いつか離婚すればいいし】


 ミルキスは少し、頬を染めた。

 喜んでるのかな?


〚……一応、あたしの意思を尊重してくれるってことですよね?〛


【そうだ】


〚……分かりました〛


 ミルキスはにこっと笑って、俺に抱きついてきた。

 ふくよかな胸が俺の顔に当たる。


【う、うわ!】


〚婚約します。勇者様、これからよろしくお願いします!〛


 俺が胸に埋もれて幸せな圧迫感を得ている中、拍手の音が聞こえた。


 恐らく、教皇だろう。

 拍手は他の人や魔物にも伝わり、大勢の者達が拍手してくれてる。

 ……嬉しい。

 これは素直に喜んでおこっと。


 ……この弾力、幸せ過ぎる!

 俺はミルキスの胸に顔をうずめる幸せな時間を五分くらい堪能した後、皆で王都に移動するのだった。

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