第61話 絶体絶命のピンチ

 ミルキスが俺の魔力をどんどん吸い取っていく。

 いや、これは!


〖はぁああああああ!〗


 ミルキスが吸い取ってるのは俺個人の魔力だけじゃない!

 辺り一面の魔力をどんどん吸い取っているようだ。

 草木が枯れていき、ミルキスに集まっていく。

 そして俺はミルキスに最も近いので、その分大量に魔力を吸われているようだった。


【っく!】


〖あはは! 勇者様。この技から逃れることはできません! 魔力吸穴(ドレインホロウ)は、発動したら最後、対象が魔力切れを起こすまで吸い続ける!〗


 ミルキスはニヤリと笑った。

 実際、俺の魔力は回復以上に吸われている。

 このままじゃまずい!


【直撃を喰らえ! ほのぼの炎!】


 俺がスキルを発動。

 しかし。


〖ほのぼの炎!〗


 俺の魔力は打ち消された。


【な――】


〖あは、ははは。あははははは! 勇者様、その程度ですか?〗


 ミルキスは俺を抱き絞めたまま可憐に笑う。

 不覚にも可愛いと思った。

 俺の強固防壁が次々に割れていき、残り一枚となった。


〖あたしの、勝ちです〗


 パリン、と最後の強固防壁が割れる。

 俺はミルキスに思いっきり抱きしめられ、少し苦しむ。


【っぐは】


〖あら? 思ったより力強いですね。あ、内在魔力がかなりあるんですね……でも、このまま絞め殺しちゃいますけど〗


【っく……】


 俺がスマホを見ると、応援コメントで溢れていた。


――――――――――――

:負けないで!

:勇者負けたら人類終わる

:オワタ

:草も生えない

:最後の晩餐に行ってくる。外食空いてるかな?

:最後まで諦めるな!

――――――――――――


 ……ところどころネガティブなコメントもあるが、俺は思った。

 俺に人類の生存がかかっているのは事実だ。

 人類への恨みを灯したミルキスを倒せる可能性があるのは俺だけだろう。

 俺が負ければ、その時点で人類の敗北なのだ。

 俺は負けるわけにはいかない。

 俺は、俺は、俺は。


【うおおおおおおお!】


 思いっきり力を振り絞った。

 しかし。

 ミルキスはニヤリと笑う。


〖無駄ですよ、勇者様。あたしの力は歴戦の戦士の力。貴方の才能は凄いですが……その程度の練度では振りほどけません〗


 ミルキスの笑みは勝利を確信していた。

 悔しい。

 こんな美少女に抱きしめられて死ぬなんて……嬉しいけど悔しい。


 俺の力がグッと抜けていく。


【うぅ……】


〖あはは。内在魔力ももう残り少ないみたいですね。これで人類も終わりです。この魔力吸穴(ドレインホロウ)はあたしがこの腕をほどかない限り解けない。あたしの……魔王軍の勝ちです!〗


 終わった。

 もうだめだ。

 教皇も父も母も倒れている。

 魔王軍が次々に教皇軍を倒していく……そうか、俺が強固防壁を張る力が弱くなっているから。

 皆……ごめん。


 俺の目の前は真っ暗だった。

 だって目の前にいるのは、魔王。

 そこにあるのは……あ。


 可愛い魔王の、胸。

 ……。

 畜生。

 畜生、畜生。

 こうなったら、最後の悪あがきをしてやる。


 俺はここで死ぬのかもしれない。

 逆転の手はないのだろう。

 だから最後に、ぱくり。


〖いやぁあああああああ!〗


 エルフ魔王の悲鳴が戦場に響き渡る。


 俺はミルキスのおっぱいを吸うことにした。

 殺されるんなら、このくらい許されるべきだ。

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