第59話 勇者【こんにちは、勇者です。魔王城内でデスゲーム配信します】

〖やったか!?〗


 ミルキスの声が聞こえる。

 辺りは爆風が立ちこめているから見えないのも仕方ない。

 だが、残念だったな。


【ミルキス……俺は無傷さ】


〖――な!?〗


 俺は一瞬で「強固防壁」を複数展開し、ミルキスの火球を防いだのだった。

 間一髪だったと言える。

 俺が何層もかけた「強固防壁」の大半がミルキスの火球によって削られている。


【流石に、強いな】


 ミルキスは歯軋りする。


 俺はスマホに魔力を更に注ぎ、「強固防壁」を教皇軍に付与していく。

 ミルキスは危険だ。

 魔力量ならある程度俺の方が勝っているが……戦闘経験が違い過ぎる。

 余計なスキルで魔力を消費するわけにはいかない。


 人間を守りながら戦うなら俺がミルキスを倒さないとだめだ。

 他の人間なら一気にやられるだろう。


 俺はミルキスに狙いをつけ、


【ほのぼの炎!】


 スキルを詠唱する。

 ミルキスは高速で移動したが、彼女の身に付いていた「強固防壁」は一瞬で剥がれ少し肩に火傷を負ったようだ。

 攻撃の威力は俺の方が上のようだな。

 ……移動速度はミルキスのが早いけど。


 魔王軍と教皇軍がざわつく。


〘なんて濃密な魔力〙

〘あれが勇者の攻撃か〙

〘なんて恐ろしい〙

〘喰らえばこの防御魔法さえ持っていかれるぞ!〙


「ほのぼの炎が……あれだけの威力になるなんて」

「勇者様が使えばあれほどになるのか」

「教皇様より上だな」

「敵じゃ無く良かった……」


 ……俺は真っ直ぐミルキスを見る。


 見れば、彼女は黒い火球を十以上形成している。

 まずい!

 あれを喰らったら死ぬかもしれない!


〖アルテマフレア!〗


 黒い火球が十以上飛んでくる。

 こうなれば仕方ない。

 俺は「強固防壁」を次々に展開し、黒い火球を防いでいく。

 辺りは爆風が舞っていて、もはや誰も俺のことを視認できていないだろう。


 だがミルキスの狙いは正確だった。

 俺に次々と黒い火球が炸裂し、「強固防壁」は剥がれていく。


 幸いなのは、俺はまだ無傷。

 俺のスキル発動速度は使う度に上がっているようだ。

 だがそれに反比例して魔力がどんどん無くなっていく。


 このままでは、ミルキスの魔法に負けてしまう。

 魔王軍が教皇軍を攻撃する度に「強固防壁」は剥がれ、俺が張り直している。


〖勇者様、貴方は強い〗


【っ】


〖だけど他の人間は貴方より弱い〗


 正論だ。

 ミルキスの言う通り、教皇軍は足手まといでしかない。

 大した攻撃も防御も出来ていない。

 これは教皇軍が弱いというより、魔王軍本体が強すぎるだけだと思うけど。


〖勇者様。人間を見捨てましょうよ〗


【……】


 愛くるしい顔のそのエルフ美少女を、俺は無視した。


〖人間を見捨てて、「強固防壁」を貴方だけに展開すれば貴方は生き延びることができる〗


 ニヤリ、とエルフ魔王は笑った。


 そして教皇軍から悲鳴が出る。

 俺が彼等を見捨てると思ったのだろう。

 すると、教皇が咆えた。


「勇者様! どうか我らを見捨てて魔王を倒して下さい! 全滅するよりはそっちの方がマシです」


 その言葉に教皇軍は泣き叫んだり喚いたりする者で溢れた。

 指揮は乱れ、陣形がどんどん杜撰なものになっていく。


〖あはは。教皇は骨がありますね。でも……教皇軍の兵士はそうでもないです。さぁ、勇者様……どうします? 見捨てますか?〗


【答えは決まっている】


〖ほー〗


 俺は可愛らしい魔王に向かって、スマホを掲げた。


〖……?〗


【こんにちは、勇者です。魔王城内でデスゲーム配信します】

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