第58話

【ミルキス……】


〖あはは。このまま殺してあげますね〗


 高らかに笑い、俺の命を笑う少女。

 俺は彼女を哀れだと思った。

 俺は俯きながら話す。


【辛かったな】


〖え……〗


 ミルキスの動揺する声が聞こえ、彼女の攻撃が止まる。

 その隙に俺はドス黒い魔力をスマホに長し、配信アプリを起動した。


【人間は権威や権力を持った奴に逆らおうとしない命だ。社会秩序の為に、空気を読むことがあるから。でもそれが……お前の種族を傷つけてしまって、王族が反省さえしなかったというのなら……人間にも非があると思う】


〖勇者様……〗


 俺とエルフ魔王の会話に、魔王軍と教皇軍の戦闘が止まる。


〘あの勇者、話せば分かる感じじゃね?〙

〘他の人間とは違うのかな?〙

〘欺されるな! 一回でも負けたら終わりだ!〙

〘そうだ、倒すしかないんだ。人間は皆敵だ!〙


「勇者様、まさか裏切るのか?」

「そんな、そんなの困る!」

「王族に逆らうなんて出来ないんだ! 俺達がやったことはしょうがなかったんだよ!」

「俺達、見捨てられるのかな?」


 戦場の兵士達が、敵味方問わず、魔物も人間も問わず、赤子の俺に注目している。


【ミルキス】


〖……〗


【お前は悪くないよ。だがな、人間を皆殺しにするっていうのはやり過ぎだよ】


〖だって、だって……お父さんもお母さんも、死んじゃったんだよ? それで、全て許せって言うの?〗


 エルフ魔王は涙を流し、顔を真っ赤にして俺を睨んだ。

 俺は彼女の顔を正面から受け止める。


【関係ない人まで手を出すな】


〖何? 関係ない人って? 皆が王族に逆らわないで支持し続けるんだよ?〗


【街で普通に暮らしているおっさんや女子供、老人。それにまで手を出したんだろ? 悪い奴を倒すってだけならいい。だけど……悪い奴だけじゃなく、普通の奴にまで手を出したらだめだよ。普通の奴まで殺したら、お前の嫌いな人間の王族と同じだぜ?】


〖うるさいうるさいうるさい! 普通の奴が、国王陛下万歳! って言ってエルフ族を誘拐してたのよ? 奴隷としてこき使ってたのよ? それで何で、何であたしが悪いって言われないといけないのよ!〗


【ミルキス……】


 ミルキスの大粒の涙が大地に落ちる。

 そして彼女は魔力を込め、掌に力を集中させていった。


〖「一撃必殺」、「一撃必殺」、「一撃必殺」、「一撃必殺」――〗


 !

 ま、まずい。

 まさか「一撃必殺」を重ね技として使うなんて。

 いや、思いついてもそんなことが出来るとは……なんて微細な魔力コントロールなんだろう。


 ミルキスの掌に、ドス黒い魔力の塊となった炎が現れた。


【……お前を殺しはしない。だけどな? 人間を殺させもしないよ】


 俺の言葉に、ミルキスを含めた全兵士がざわっと動揺した。

 ……やはり俺の言葉は甘いんだろう。


 ミルキスは躊躇いがちに、俺に敵意を放ってきた。

 ミルキスは掌を上に掲げ、黒い火球が出現する。

 そのサイズは五メートルくらいの大きさ、このままなら喰らったら大ダメージを起こすだろう。

 今までの攻撃とは圧迫感が違う。


〖アルテマフレア!〗


【殺試合(デスゲーム)!】


 新たに十三本の支柱が立ち、ミルキスが設置したのと合わせて二十六本の支柱になる。ミルキスの設置した天地の魔法陣を覆い被さるように、俺の魔法陣が設置される。

 設置は一瞬だった。

 しかし、俺に黒い火球が当たったのも一瞬だった。

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