第55話 勇者、前世の世界を話すと驚かれる
【う、うん。前世は異世界の住人だよ】
〖うわぁ~、本当に異世界ってあったんだぁ~~!〗
ミルキスは感極まって興奮している。
あどけなくはしゃぐ様は見ていて可愛らしいが、放つ魔力はかつてない程の強敵。
ドラゴンロードの百倍は濃いだろうドス黒い魔力。
対峙して漸く分かった。やはり魔王は化け物だ。
どれだけ可愛い少女だとしても、銃を突きつけられてしまえば緊張感を抱かずにはいられないように……俺を凌ぐだけの力を持っている以上、こいつにはどうしても警戒してしまう。
可愛いけど。
〖ねぇねぇ、勇者さん〗
【何だ?】
〖スマホって凄いねぇ。離れた人達と繋がって……コミュニケーションできるようになった〗
【俺からすれば、スマホが来てネットワークインフラが成り立ってることが驚きかな。普通、逆だろ】
〖通信魔法の技術を応用すればいけたよ。まるで……魔物が全くいない世界で人間の力だけで作られた様なアイテムだよね。スマホってさ〗
くすくすとミルキスは笑う。
その手にはスマホがあり、どうやらこれも配信されているらしい。
【そうだな】
俺がチラ見すると、教皇が陣形を整えつつ指揮を行っているようだ。
魔王軍に比べ、教皇軍は陣形が今乱れている。
もう少し、会話を引き延ばしても良さそうだ。
【ミルキス】
〖何、魔王様?〗
【和解、しないか?】
俺が提案した瞬間、魔王から笑みが消えた。
ミルキスは首を横に振る。
〖有り得ないよ。だって……人間って上下関係を絶対の社会制度として決め込んで、タブーを作って話さなくなるじゃん〗
【そりゃそうだけど】
〖人間の王族がエルフを奴隷にしたこと、謝ってくれると思う?〗
【命の危険があれば謝ってくれるんじゃないか?】
ミルキスは哄笑する。
〖あはは。それはありえないよ。だって……昨日ね? 謝罪すれば命だけは助けてあげるって言ったの。人間の国王にね〗
俺は最悪の回答を予測し、ミルキスに質問する。
【何て、言われたんだ?】
〖魔物は下等生物だから謝罪なんてありえないってさ〗
【……】
〖ねぇ、勇者様。人間だけの世界で育った記憶があるんなら答えてよ。貴方の社会に王様っていた? それって絶対的に正しいの? もし間違ったことをしても、国民は国王を否定したりしないの? 別の民族や国民なら差別とかあったりした?〗
【一気に質問するな、流石に多すぎる】
ミルキスはハッとなって悲しげな顔になった。
〖ご、ごめんなさい〗
【国王が処刑された国もあった。民衆への扱いが酷くてな】
俺の言葉には人間の兵士も魔物達も目を大きく見開いた。
そんな驚かれるようなことか?
ミルキスは呆然と俺を見つめている。
〖人間の国王が……処刑される!? そ、そんなこと出来るの?〗
俺は頷く。
フランス革命や清教徒革命なことってこの世界ではなかったのかな?
【あぁ。処刑すらされず暗殺されることも多々ある】
日本じゃ歴史上暗殺された天皇は一人だけだが、ロシアでは割りとポピュラーな免職方法として暗殺がされていた。
それなりに王様だって殺されることはある。
行き過ぎた政治を行ったり有能な臣下に逆らったらそうなるのだ。
俺からすれば当たり前の常識だ。
〖洗脳魔法はどうやって対処してるの?〗
【は?】
洗脳魔法?
不穏当な言葉だ。
何それ、怖い。
が……周りを見ると魔王軍と教皇軍が戦闘を止めて俺を凝視している。
……なんて答えるのが正解なんだろう?
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