第54話 勇者ユシア、転生者だとエルフ魔王にバレる
思わず涙が出る。
父は……俺を庇う為に、身を挺したのだ。
俺は自分の魔力をスマホに注ぎ込んだ。
【強固防壁!】
俺と母と父に、魔力のバリアが付与されていく。
これは不可視だが、強力なバリアだ。
本来、殺試合(デスゲーム)を自分で発動しないと「強固防壁」は発動できない。
だが今はミルキスが発動しているからだろう。
俺は特殊な魔力が場を支配しているのを感じていたので、「強固防壁」を張ることができると思い――実際にそれは成功した。
思わず、笑みがこぼれる。
これで俺が一方的にやられる可能性はなくなった。
〖っく!〗
ミルキスが俺に向かって突撃。
ドン! という衝撃と共に俺は放物線を描きながらくるくると飛んで行った。
地面に激突。しかし。
【……ノーダメージ、だっつーの】
ミルキスはぎりっと歯軋りして俺を睨む。
〖……そうか、まさかとは思った。他に変な奴はいなかったし〗
ミルキスはかつかつと足音を立てて俺に向かって近づく。
〖君が……勇者なんだね。殺試合(デスゲーム)配信の〗
俺は頷く。隠してもしょうがないだろうからな。
【そうだ】
〖赤ん坊は手にかけたくなかったな……〗
【今まで女子供は殺したことないのか?】
〖直接はね。部下には自由にさせたけど〗
ということは、魔王軍としては女子供関係無く殺しているってことだな。
【じゃあ何で赤ん坊を手に掛けたくなかったっていうんだ? 部下にやらせればいいだろ】
〖あはは、バカだね、勇者くん? 部下が君を倒せるわけ……ないじゃん!〗」
ミルキスは足に火球を放ち、一気に距離を詰めてきた。
俺はまたもや吹っ飛ばされる。
【っく】
〖本当にバカみたいに硬いね。このあたしが全力で殴って全くダメージ与えられないっておかしいよ〗
俺はくるくると宙を回っている。
目が回りそうだ。
しかし、発動しなければならないものがある。
虫の息の父に、教皇軍の兵士達に向かって俺は狙いを付けた。
【ほのぼの炎!】
魔王軍の魔物達が息を呑む。
大規模な炎の海が、陣営を埋め尽くしていく。
死にかけの兵士達が一気に体力を回復し、傷が修復された。
ほのぼの炎は、敵を燃やし、味方を回復する効果がある炎だ。
俺の魔力で思いっきり放てばそれは津波のような炎になる。
「うぉおおおおおお! 勇者様ぁああああ!」
「最強赤ちゃん、最高ぉおおおおお!」
「体力全開だぜ」
「信じられない……教皇様を遥かに凌ぐ魔力量だ」
だが、俺は安心と同時に不安も思っていた。
魔王軍を一掃できるつもりだったがそうなっていない。
魔王軍はエルフ魔王の「強固防壁」が付与されていて、防御面が相当に強くなっているらしい。
俺の攻撃を凌げるほどに。
【ミルキス、天才魔王と言われるだけある。俺の作ったスキルをここまで使いこなすとはな】
俺を追い掛けながら攻撃してくるミルキスが、突如意味深な真顔になって指をさしてきた。
〖俺の作ったスキル? もしかして、あの……貴方が、鈴木裕? 『僕の考えた最強呪文集』を作った異世界人?〗
……。
〖……〗
気まずい沈黙が流れる。
【そ、そうだ。正確に言うと、それは前世の名前だな。今はユシア・ティアーズってんだが】
〖えぇええええええええええ!?〗
ミルキスは驚愕の眼になると同時に、口元を押さえた。
〖まままままま、マジ? うっそ。本当!?〗
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます