第50話 教皇軍、陣営構築。王都は魔王軍が占拠中。
教皇軍が陣営、構築中。
今俺は王都郊外にある高台から王都を見下ろしている。
母が俺を高い高いしてくれて、俺も難なく見下ろせるのだ。
父は教皇や兵士達に協力して土木作業のようなものに勤しんでいる。
俺の眼前には白銀で彩られた蒼い城が見える。あれが王城なのだろう。
豪華な金属装飾が塗りたぐられていて、贅の限りを尽くしているのが分かる。
王侯貴族はさぞかし良い暮らしをしているのだろう。
貧乏な我が家とはえらい違いだ。
「ユシア、見える?」
「ばぶ」
俺は頷く。
視界良好である。
母は上機嫌に言う。
「ユシア、魔王軍は絶対皆殺しにしなさい」
「ば、ばぶぅ……」
何て教育だろうか。
生後十ヶ月の俺に向けられるべき言葉とは思えない。
「敵は根絶やし皆殺しよ。魔王軍は人類の敵。一体でも残したら飯抜きですからね」
「ばぶ!?」
幼児虐待もいいところだ。
くそ、飯抜きはきついから戦うしかないかな。
でもあの美少女エルフを殺すのか。
残念極まる。
もし青春が始まるんなら、あぁいう子に告白したい人生だったわ。
エルフってマジ可愛いんだな。
一目惚れした。
赤子だけど、彼女を思うだけで悶々する。
俺ってとんだませガキだぜ。
まぁ、相手とは付き合ってもいないのだが……。
俺が高い高いされていると、王都が奇妙な黒い魔力を放った。
!?
あれは俺に匹敵するくらい濃いんじゃないか?
敵がやったのなら、間違いなく魔王だろうな。
ドラゴンロードやスライムキングより上の魔力濃度だ。
「厄介そうな相手ね、相変わらず。天才の名に偽りがないわ」
母は俺を抱えたまま舌打ちをする。
本当に魔王を嫌っているのだろう。
抱かれてて嫌悪感がひしひしと伝わって肌に嫌な感じが伝わる。
魔王軍が占拠する王城はもはや魔物の巣窟となっているらしい。
ここからでも多種多様な様々な魔物が王都をうろついているのが見て分かる。
住居の中には普通の人々がいるようで、兵士と違ってまだ手出しが出されていないらしい。
俺はスマホに魔力を込めて、母に質問する。
【母さん。何で魔王軍は民家を襲わないの? あいつらは人間のこと憎いんでしょ? 非戦闘員だろうが容赦無く殺すんじゃないかな?】
「ああ、ユシアには言ってなかったわね。今朝、新聞で発表されたんだけど捕虜交換や終戦条件を考えて民家に手を出さないという取り決めが行われたのよ」
【そんな大事なことがあったのか。でも捕虜交換なんてできないよ? だって俺、黒龍一匹だけ残して後は皆殺しにしたんだから】
「……そうね。魔王軍はバカじゃないはず。スライムキングやドラゴンロードは民家を襲ったのに、なぜ魔王軍本隊は民家に手を出さないのかしら? 王侯貴族や兵士は皆殺しにしたらしいんだけど」
【……それ聞くと、やっぱもう戦うしかないんだね】
「えぇ。もう仕方ないわ。ユシア、皆殺し、お願いね?」
【う、うん。極力頑張るよ】
俺はそう言うと、母に笑顔で母乳をあてがわれた。
吸うと分かるが、シスター達に比べると劣るもののやはり美味い。
前世、新鮮な牛乳を牧場で飲んだことあるがあれの十倍は美味いぜ。
この世界、授乳魔法とかいう奇妙な魔法が発達してるせいでこれだけ母乳が美味くなってるんだろうな。
転生して赤子になるのも悪くない。
母の母乳、マグロの大トロより美味いわ。
俺が母乳を飲んで、眠くなった時だった。
突如、
〘クラッキング・オン!〙
というハスキーな声が聞こえた。
そして母だけでなく、周りにいる兵士達や教皇、父までも驚いている。
何事だ!?
「大変だ! 魔王ミルキスが……スマホを遠隔操作して乗っ取ろうとしている!」
「ばび!?」
何!?
俺は驚きと同時にスマホを取り出し、俺の魔力をさらに込めようとする。
だが遅かった。
俺以外のドス黒い魔力がスマホから噴出し、スマホが高温になり、爆発した。
俺だけなら良かった。
しかし、違う。
俺を含む全ての教皇軍のスマホが、一斉に爆発した。
どうすんだよ……これじゃスキルが発動できない!
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