第49話 赤子勇者は美少女魔王に悩み出す。
スマホに映ったエルフ魔王は『可愛いは正義』と言いたくなるほどに可愛かった。
なんだよこいつ、天使かっつーの。
「あたしは、ミルキス! 魔王軍の魔王です! ただの配信者にはなりません。人間に復讐する動画を撮りたくて配信者になりました」
こいつ、よくBANされないな。
自己紹介動画から飛ばしてるじゃねーかよ。
「今から人間の皆さんに、復讐させてもらいます」
ミルキスは今まで奴隷エルフが受けた鞭打ちや拷問などの手法を公開。
……大義名分を掲げているつもりなんだろうな。
「あたし達エルフは、人間に酷いことをされてきました。人間の国王はエルフ族に抗議されても『エルフは魔物であって、人ではない』と言われたので……あたしは自衛と自立の為に、魔王軍を設立します。そしてあんな暴君を偉いと言って何もしてくれなかった政治に無関心な国民にも、復讐させて貰います」
自我を持ってまだ一週間もないが、分かることは分かる。
国王に逆らうと死罪、みたいな中性ヨーロッパ感がこの国にはある。
無関心にならざるを得なかったんだ。
「エルフは拉致されてきた。辱められてきた。ここに、聖戦を誓います。『ほのぼの炎』!」
エルフの自己紹介動画一発目は、奴隷商人への殺戮ショーだった。
エルフが今まで受けてきたような殺処分を人に与えるのを見せつけるつもりらしい。
コメント欄を見ると。
――――――――――――――――――
:ミルキス様、マジ天使!
:可愛過ぎる魔王
:好き
:ママになって
:非国民共わらわらで草
:人間怖い……残虐なことより魔王可愛いが優先かよ
――――――――――――――――――
……気持ちは分かる。
魔物もコメントしているんだろうが、人間が魔王を賛美しているコメントがある。
正気の沙汰とは思えない。
度々、人間と魔王軍の罵詈雑言が飛び交っているがそれは見るに堪えないものがある。
……お互い、差別意識は根強いらしいな。
話し合いの余地はなく、力で決着を付けるしかなさそうだ。
俺はスマホを横に置く。
そして天井を見ながら、物思いに耽る。
殺試合(デスゲーム)を発動すれば、確実に倒せるはずだ。
やろうと思えば黒龍のように配下にすることも出来るだろう。
しかし、あの可愛らしい魔王がわざわざ大義名分を掲げてたのを思い出す度に複雑な気持ちになる。
この戦争、人間側だけでなく魔王軍側にも正義はあるのだ。
だが、勿論……魔王軍は倒さないといけない。
俺は、差別そのものが嫌いだ。
エルフであれ、人間であれ、差別されない社会を作る。
その為に、俺は戦おう。
悪いことを見過ごしてへらへら出来るほど、俺はスルー能力高くねえからな。
よし、寝よう。
俺はごろごろと回転し、ベッドの真ん中で仰向けになるのだった。
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