第48話 魔王は王族を粛正中らしい
【教皇、正直に話してくれてありがとう】
「は、はい」
教皇は少し肩を震わせながら俺に相づちをうつ。
「勇者様、その……」
【何だ?】
明らかに教皇は口籠もっている。
【言いにくいことでもいい。俺の質問に答えてくれた礼だ。大体の質問には答えると思うぞ】
「で、では……その。ごほん。勇者様は人類を救う気持ちはありますか?」
直球だな。
この教皇は全てを信頼することはできないが、頭が悪いとも思えない。
正直に答えよう。
【救うつもりはある】
「おぉ……」
教皇の目から大粒の涙が出る。
「ありがとうございます。こんな……欠陥だらけの我々の国を助けて下さるなど」
……教皇の言う通り、人間なんて欠点の塊だ。長所の塊でもあると思うけど。
仕方ない。
だけどエルフ魔王と対決するのは心苦しくなったな。
どうしたものか。
【なぁ、教皇】
教皇は萎縮しながら俺に頭を下げる。
「は、はい」
【魔王軍は今どうなってる?】
「……王都のエルフ奴隷貿易に携わった者を粛正中です」
【王族も粛正されてるのか?】
「はい。こちらとしても戦後処理は色々その方が都合が良いので、教皇庁としてはある程度放置してから動こうと考えてます。その為の三日間、という準備期間です」
きな臭い話だ。
つまり、王族を粛正させる為に三日空けたってことだな。
俺は腕組みして、近くにあった哺乳瓶をごきゅごきゅと飲む。
飲まなきゃやってられねえ。
「良い飲みっぷりですね」
【まぁな】
俺が哺乳瓶の中の母乳を半分ほど飲み干し、少し俯く。
【魔王軍とは交渉の余地はあるのか?】
教皇は首を振り、呆然とした顔で俺を見つめる。
「まさか。もはや殺すか殺されるかだけです。貴方が守ってくれなければ我々は死ぬのです」
【教皇はそれなりに戦えるんじゃないのか?】
「私の調子が良く、魔王の調子が悪いなら一週間は持つかもしれません」
【つまりコンディションによる、と?】
「いえ……戦闘能力はほぼ互角、あるいは向こうのが少し上くらいなのですが魔力量が段違いなのです。持久戦になれば間違いなく負けます」
成る程、魔力量ね。
【どのくらい差があるんだ?】
「私を1としたら魔王は百万くらいあるでしょうね」
【……差、ありすぎじゃね?】
「力のごり押しなら何とかなるかもしれないですが、体力勝負だと分が悪い感じです。エルフ魔王は国王に恨みがあるから教皇庁を後回しにしてくれた感じです」
【そっか、答えてくれてありがとう】
「いえいえ」
【……もう帰って良いぞ】
「は、はい。……勇者様、明日は頼みます」
【おう】
教皇は俺に一礼し、すたすたと足音を立てて去って行った。
……教皇の百万倍の魔力か。
手強そうだな。
それにしても。
俺はチラリとスマホ画面を映す。
画像フォルダにはエルフ魔王の画像が大量に入っている。
ネットの拾いものだ。
ぶっちゃけ可愛い。
こんな子殺すとか冗談じゃない。
……何とか、話し合いですまないかな。
そう思って俺はアプリを操作し、『魔王チャンネル』を視聴した。
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