第47話 魔物がSNSを使うようになって、変化が起こった
「エルフ魔王が奴隷商売を問題視する配信を始め、その反発として人間側が魔物の非道を訴え始めたのです。それまでは人間と魔物の争いは剣と魔法だけであってスマホで罵詈雑言するなんてのはありませんでした」
【成る程……】
SNSの普及で大義名分を語り合うようになったわけか。
【で、調べたところによると……人間側に差別意識をすり込んだのは王侯貴族と教皇庁だな】
「……」
教皇は神妙な貌で冷や汗をかく。
数十秒の沈黙の後、教皇はごくりと唾を飲み頷く。
「その通りです。我々が人間側の正義を掲げる為に、情報工作をしました」
母があんなに魔物を敵対視しているのはそれが原因か。
「戦争序盤は人間も優勢だったんですが魔物がスマホを使うことで集団戦法を駆使できるようになり……状況は我々にとって苛烈なものになりました」
【お前がスマホをこの世界に持ち込まなければ良かったのにな】
「……」
【よくお前、ネット民から人気あるよな】
「人気なんてね、作れるんですよ。人は見たいものを見て、信じたいものを信じる生き物ですから。当たり障りのないことを言って笑顔振りまいてりゃいいんです。本当に正しいことって辛辣で庶民は嫌うんですよ」
教皇はまた、気持ちの悪い半笑いを浮かべる。
くそ。
こいつ……諸悪の根源じゃねえかよ。
「考えてみて下さい、勇者様。敵には敵の正義があり、我々には我々の悪がある。実際、オーク族やスライム族の人間狩猟を魔物側も問題視する奴らは出始めてます」
【え……スライム達は普通に人食ってたけど】
「そりゃ本能に根ざした行為だから簡単には変えられません。でも以前はそんな意見が魔物から出るのは考えられませんでした。正義と悪はどっちにもある。これはね、力と力の殴り合いなんです。勝った者が、正義を宣伝できる。それだけの話なんです」
勝てば官軍、負ければ賊軍ってことね。
確かにその通りではある。
だが、それをやってしまったら……俺は正義の味方ではないな。
考えよう。
俺の目的は何か?
公序良俗を守った上で、配信者として成功することだ。
だが……俺は戦争系動画撮ってるんだよな。
事実上、今の俺は戦場カメラマンだな。
【教皇、俺はおまえらに色々とがっかりだよ。もっと公明正大な良い奴らだと思ってた】
「勇者様。貴方がいつか政治家になれば分かります。国民は知能も善悪もバラバラ。そんな奴らを一纏めにして戦争するなら、バカでも分かって賢い奴でも納得出来る分かり易いスローガンしかないんですよ。それが差別意識です。エルフ魔王だって奴隷商だけを叩いてたらいいのに、人間そのものを悪いという言い方をしたりしたのが悪かった」
俺はスマホをぽちぽちしながら教皇の話を聞く。
正直、教皇の話に納得出来る部分もある。
だが、問題はそれに俺が同意できるかって話だ。
百パーセントの同意は無理。
というか、この魔王マジ可愛いな。
一万年に一人かってレベルで可愛いぞ。
【でも、王族がエルフを飼って殺してたのは事実なんだろ? 趣味がいいとは言えないが】
「そうですね、あの王様は趣味悪いです」
【でも大衆は慕ってるんだよな?】
「人間には手を出してませんからね。むしろ自分の遊んだ中古エルフを市民にあてがってるので一部市民からは大変な人気があります」
それ聞くと、市民も市民だな……。
【俺が王様を倒したら、お前は嫌か?】
教皇はぎょっとした反応を一瞬したものの、俺の顔色を伺うようにうなぐく。
「いえ、あの王様は死んでいいですね。戦争のどさくさに紛れてお亡くなりになってくれた方がすっきりします」
嘘はついてないようだった。
が、全面的な信頼はできない。
……が、そろそろ占領された王都をどうやって取り戻すかそろそろ考えるか。
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