第43話 転生勇者、人気者になる

 ドラゴン部隊を撃退して、一日経った。


 えへへ、嬉しい。

 俺はスマホを見る。登録者、六千万人。


 新しく口座を作って、金がどんどん振り込まれていく。

 笑いが止まらないとはこのことだ。

 億万長者になっちゃったぜ。


 俺は後ろから母に声をかけられる。


「ユシア、ご飯の時間よ」


「ばぶ」


 俺は母から授乳を受け、食事を終える。


「ぶっば」


「ユシアは前世の記憶あるって……本当?」


「ばぶ」


 俺は母に頷く。母は考え込んだように黙る。

 俺はスマホを覗く。そろそろ配信したいが、教皇の予定では魔王軍本隊と戦う準備にあと二日かかると言う。

 戦争には準備がかかるというから仕方が無い。

 だが、俺にもできることはある。


「ばぶぶ」


 俺が時計を指差し、母は頷く。


「そろそろ時間ね」


「ばぶ」


 俺は母に抱かれながら移動して貰い、家の外に出る。

 すると、家の前に勢い良く飛来する魔物がいた。

 時間通りだ。

 ドン、という大きな衝撃音。

 黒龍が俺を見下ろし、深々と頭を下げる。


〘お待たせしました、主様〙


 俺はスマホにドス黒い魔力を入れる。


【おう、待ってたぞ】


〘魔王様のことについてお伝えするべく参りました〙


【頼む】


〘……魔王様は基本的に頭がいいです。スマホのプログラミングなどが出来ます〙


【アプリとか作れるってこと?】


〘はい。その通りです。それどころか、スマホを使った侵攻作戦などを積極的に行い、今までの力ごり押しするだけだった魔王軍を改革してきました〙


 俺は腕組みし、考えた。

 それが本当なら魔王は天才プログラマーであり、軍師ってことだな。

 ……どう対策すればいいんだ?


【なぁ、黒龍。俺が魔王に勝つこと出来ると思うか?】


〘恐らく……五分五分かと〙


【五分五分!? 俺のような強力なスキルを魔王が使えるってことだな】


 俺は驚き目を大きく見開く。

 母は俺を優しくぎゅっと優しく抱きしめる。

 心配されてるんだろうな。


「ユシア……貴方は、たった一人の息子なの。無茶しないでね」


【母さん、心配しないでくれ。俺は勝つから】


 母が俺を抱く力がさらに強くなる。心配、かけてるんだな。


〘主殿〙


【なんだ?】


〘主殿って何歳ですか?〙


【生後十ヶ月だ】


〘なんと……そのような若さで人類を救う重責を背負われるとは〙


【大丈夫だ、問題無い。俺のハートは力強いからな】


 俺は小さな手で自分の胸を誇らしげに叩く。


〘……っぶw〙


 よし、うけたぜ。


〘……主様はなぜ命をかけて戦うのですか? 故郷のプラハヤデが我々魔物に焼かれたからでしょうか?〙


【えっとな。俺……配信者として成功したいんだよ】


〘は?〙


【配信者として、魔物を撮影して成り上がりたいんだ!】


〘……〙


 突然、黒龍はぽろぽろと涙を流し始める。

 しまった。

 俺の発言は不用意だった。


〘は、ははは……主様って……戦争を配信の道具としか考えて無いんですね〙


 そ、そんなことは……あるな。


【……】


〘もう裏切った身ですが、そんな理由で我々魔族は殺されるんですか。恐縮ですよ、とっても〙


【お前ら魔族の差別主義よりはマシだろ】


〘……仰る通りですね。本題に戻りましょう。魔王様の能力に、ついて〙


 俺は身構えて、黒龍の声に集中する。

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