第41話 母は元王族だったらしい

 俺はたじたじ。母はギラギラ。未だに父は態度をはっきり示さないでいる。


「もし捨ててこないなら、スマホを貴方から取り上げます!」


 その意見はきつい。

 俺だけでなく、世界の存亡に関わる話だ。

 教皇が挙手し、発言。


「その……元B級冒険者、セレス・ティアーズよ」


「何でしょうか、教皇様?」


「勇者ユシアからスマホを奪われるのは困る。教皇として無視出来ない」


「え……各家庭のことに教皇が首をつっこむと?」


 言い方!


 教皇は困った顔を一瞬浮かべたが、決意に満ちた瞳で母に頷く。


「その通りだ。教皇単独の意見としてでは無く、教皇庁の全会一致の意見と思ってくれていい」


「……そうなりますよね」


 母は肩を竦め、溜息する。


「言いたいことは分かります。当家のユシアからスマホを奪うと、世界が破滅しますからね」


「あぁ。脅し文句としても使って欲しくない」


「子供に強大な力を与えると、その力の適切な振る舞い方も分からず社会が滅茶苦茶になると思っているんですよ。現王のデモがそうじゃないですか」


 その言葉には俺を除く教皇・神父・父が皆驚き目を瞠った。

 母の言葉はタブーに斬り込んでいるのだと赤子ながら察した。


「魔王軍の侵略などないと言って軍事費を削って経済政策に全振り。結果、我が国はどうなりましたか? 斥候部隊も迎撃部隊も老朽化した設備や装備で仕事をやろうとして少なくない被害が出ました。しかも、法の抜け穴をついて中抜きが九割以上行われた部署さえあります。これが健全な国だとは思えませんね」


 母は悲しげに、だが暗い表情でバカにして笑った。

 母はデモという王様を嫌いらしいな。


 教皇は悲しげな瞳で、


「そうか。セレス。お主は……元々王族の出であったな」


 と言った。

 えええええええ!?

 ってことは、俺、王族なの!?


 母はいつになく真剣な表情で答える。


「王族から平民に臣籍降下したとは言え、愛国心はあるので今のデモ王には複雑な思いを抱いてしまうんですよね。衆愚政治をしようとしているだけですよ、彼は」


 複雑な政治事情があるらしいな。

 成る程。

 赤子だからこの世界の成り立ちは何も習ってないけど……母は母なりに政治観が強そうだな。


 ラング教皇は訝しげな顔をして、母を見つめた。


「セレス。貴方が勇者ユシアからスマホを取り上げるのは……王族への嫌がらせの為か?」


 え、そうなの!?

 母は答えない。父と神父は気まずそうな顔をしている。

 教皇は溜息をつき、父に向かって言う。


「ゼウルよ。お前はS級冒険者としてどう思う? ユシアがドラゴンを飼育していいと思うか?」


 教会内の視線が一斉に父に集まる。

 父は口をゆっくり開き、溜息と共に話し始めた。


「俺の、俺の考えは――」

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